ねえ、相性診断しよっか
いつもの帰り道、僕は幼馴染みの白瀬と話をしていた。
その内容は昨日放送された青春恋愛系のアニメについてのことであった。その話になると、白瀬は必ず興奮を抑えきれず、僕へ楽しそうにそのことについて語るのだ。
「昨日の回はマジ神回だったよ。あの展開はさすがに読めなかったよぉ」
ウキウキしながら話す白瀬へ、僕はそっと笑みを返す。
「次回の放送まで心が持つかな」
白線の上を両腕を広げて歩きながら、白瀬は言った。
話の最中、自販機の横を通ろうとした瞬間に白瀬は足を止めた。それに伴い、僕も白瀬の数歩先で足を止め、振り返って白瀬へ視線を送る。
自販機を眺め、白瀬は言う。
「ねえ、相性診断しよっか」
「相性診断?」
「うん。お互い相手が買ったものを見ずに一つだけ飲み物を買うの。それで同じ物を買えるかどうか」
自販機を見てみると、五段八列の飲み物が並べられている。つまり四十個の飲み物の中から選ぶということ。
これはさすがに無理がある。
「なあ白瀬。確率は四十分の一。さすがに無理じゃないか?」
「そういうのが面白いんじゃん。早速やろ」
「やるって言ってもな……」
「ごちゃごちゃ言わない。男だったらこういう時はドンと胸張ってやるものだよ」
「はいはい。やれば良いんでしょやれば」
そう言い、僕は自販機の前に立ってポケットから財布を取り出した。
自販機を眺めていると、僕は思い出した。
白瀬はよく缶ジュースを飲んでいる。その中でも、特に白瀬が飲んでいるのはフルーツ系の炭酸ジュース。
この自販機にはその種類のジュースが五つある。
一つは定番、そして王道のブドウ炭酸ジュース。そしてその隣には、かなりマイナーとも言えるバナナ炭酸ジュース。こればかりはあり得ない。
残りの三つはレモン炭酸、リンゴ炭酸、オレンジ炭酸。
バナナ炭酸以外は白瀬が飲んでいるところを見たことがある。だがここであえてバナナ炭酸を選んでくる可能性は十分にあり得る。というか白瀬ならやりかねない。
一度振り返ってみると、白瀬は後ろを向いて僕が買うのを待っている。
いつまでも待たせるわけにはいかない。これ以上待たせようものなら白瀬は途中で中断する可能性だってあるわけだ。
だが悩む。
この相性診断、しかも白瀬との相性診断だ。外せるはずがない。
やはりブドウ炭酸か。それともここは可愛らしくリンゴ炭酸、だがトリッキーにバナナ炭酸という可能性も。
考えろ。きっと何かヒントがあるはずだ。白瀬が好むジュースに何か好みが。
いや待てよ。
フルーツ系の炭酸ジュース、それ以外の可能性も考えられはしないか。あえてフルーツ炭酸以外を選ぶというのも、白瀬ならやりかねない。
考えながらも、僕は自販機に小銭を入れた。
そんな時、後ろから声がする。
「ねえ。長くない」
帰られる。そう思った矢先、僕の手はいつの間にかボタンを押していた。そのボタンの先にあったジュースは、まさかのペットボトルに入ったレモンジュース。
完全に終わった。
取り出し口に落ちたレモンジュースを眺め、僕は半ば絶望する。
「買ったよ」
「じゃあ交代ね。次は私」
僕はレモンジュースをバッグに隠し、重たい足取りで白瀬の背後へと進み、後ろを向いて白瀬が買うのを待っていた。当然、彼女がレモンジュースを買うことなどあり得ない。
ボタンを押した音とともに、自販機からは缶ジュースが落ちる音がする。
白瀬はそれを手にし、背中に隠しながら僕へ歩み寄る。
「じゃあ相性診断の結果発表、君が買ったのは何?」
僕はバッグからレモンジュースを取り出した。
「へえ。ちなみに私はこれだよ」
そう言って白瀬は背中に隠していた物を僕に見せた。
それは缶のブドウ炭酸ジュース。
そう来たか……。
「相性診断、失敗だね」
「……ああ」
落ち込んでいる僕を見て、白瀬は公園にあるベンチを指差して言う。
「ねえ。ちょっと休憩していかない」
「うん」
たった一言、僕はそう返す。
ベンチへ座り、僕と白瀬は各々が買ったジュースを開け、口をつけた。
僕がジュースから口を離した時、白瀬は僕を見ながら言った。
「ねえ。君のも飲ませてよ」
「でももう口つけてるし」
「良いじゃん。レモンジュース、飲んでみたいし」
「そ、そうか」
「その代わり、私のも、良いよ」
白瀬は僕へ缶を強く握ったまま差し出してきた。白瀬に握られたまま僕が飲めとでも言っているのだろうか。
躊躇いつつも、僕は白瀬の手に握られている缶を口につけた。それと一緒に、白瀬も僕が握っているペットボトルを口につけた。
心臓が激しく鼓動を奏でている。
こんな経験、初めてだ。
間接キスの味は、しゅわしゅわとしたぶどうの香り、それにレモンの香りが混ざり何とも言えぬ香り味わった。
きっと、同じ物を買っていたら、こんなことにはならなかったのだろう。
今思えば、当たらなくて良かったと、そう思っている。
もし同じ物を買っていたら、こんなことにはならなかっただろうから。