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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

過追放革命~いつの間にか追放者が増えていたので、革命でひっくり返すことにしました

作者: 串座

流行りものに乗っかった単発ものです(一回言ってみたかった)ベッタベタな展開ですがあしからず。


かつてはよく見た城門をくぐり、内部へと突入する。調度品なんて埃の厚さ以外は一年前からまるで変わっていない。


「このまま押し通る。だが、旧王政派が思ったより多いな……」

「多数を相手取るのは慣れている。ここは任せろ」

「それならば、頼る!」


今回の肝は短期戦でカタを着けることだ。内偵による情報から割り出された国王の居場所を叩く。


「だ、誰だ貴様は! 無断で我が領地に入ってくるなどと!」

「この国での肩書きこそ捨てたが、まさか顔も覚えてないとは恐れ入った」


いつも傲慢な笑みか不機嫌な表情を浮かべていた国王さまだが、焦った顔も出来るとは。側近のレスカはいつもと変わらぬ鉄仮面っぷりでこんな時でさえ安心してしまう。


「この方はクインス卿です。追放するまでは月に一度の国家統治会議に毎回出席なされていたーー」

「反逆者にその物言いはなんだ! 今すぐやめろ!」

「御意」


キレ散らかす王に律儀に応えるのは殊勝な心がけではあるが、絶対に仕える相手を間違ってる気がしてならない。


「クインス? お前が元凶か! 治安の悪化に我が追われていたのに、全く役に立たんやつだったな!」

「私が治める地域では、民が貧困に苦しめられていた。資財の分配を進言していたが、会議を伸ばすなと私を追放したのはどこの誰だったかな」


この王が治めている限り、いつかは民の不満が爆発していただろう。人の心が分かる筈もない。こちらははるばる王城まで来て会議に参加しているのに、あっちはたかが数十分延長することも許さないのだ。


「しかし、よもや追放した者達だけで一城を築く程の規模とはな。いかに末端が腐敗していたかが見てとれるわ」

「腐っているのは基盤の方だろ!」


つい感情的になって発した声に、王が後ずさる。同時にレスカは剣の柄へと手を掛ける。


「ヒッ……貴族といえども本性は獣のようだな。命令を聞く駒の群れ共だけで、不思議と統率が取れてるのはお前が唆していたからか。羽を無くした働き蜂の王如きがいい気になりおって……!」

「蜂の王か。それも良いじゃないか。猿山の大将には退場してもらおう!」


こちらの防具はこの国一の。いや、元この国一の鍛冶屋が叩いた一品だ。強度はあちらも大差ないが、あの鎧に魔法を弾く効果はない。ただの硬くて重いプレートである。


「国王陛下、お下がりください」

「レスカ、俺は魔法を使わん。剣技に集中しろ……!」

「反逆者を信じろと言いますか」


あちらがどう思おうが本当に魔法は使わない。手加減をするだとか、不公平だからとか、そういう感情ではない。昔この国に尽くすと剣に誓いを立てた。今度は自分の刃で未来を切り開くという意思を示したかっただけだ。他ならぬ、昔の自分との決別として。


「レスカ、絶対に負けるな……いや、この際なんでも良い、私を守れ!」


本当に余計なことしか言わない男だ。ただ一人最後まで忠義を示した側近が命を懸けるだけでは不服らしい。自分が助かることが全てなのだろう。


「剣技に……集中しろと……言ってるだろ!」


レスカの一撃は今の腑抜けた騎士団長よりは数倍重い。もはやこの国の内情は知らない。そもそももうすぐ生まれ変わるのだ。


「立場上……信用できない」


確かに彼の剣は申し分のない威力を誇っていた。しかし、絶対に国王と俺との直線上に身を入れてくる。相手の動きが読める以上、弱点も自ずと見えてくる。


「押してこいよ……国王を守れないぞ!」

「拾ってやった恩を思い出せ! 貴様が負けたらどうなると思っている!」


鍔迫り合いに持ち込むと、徐々にレスカが押し負けていく。受けたときの構えが狭かった為、引き技での仕切り直しを警戒するも一切引かない。こんな王に、そこまでして頑張る必要は無いだろう。


「生憎お前が守ってるものを見てると、負ける気がしないよ」


レスカの体勢を崩した隙に、装甲の隙間を突き貫く。死ぬことはないだろうが、戦闘続行は不可能か。


「……私を殺す気なら、貴様らの家族も助からぬと思えよ」

「とうとう手段を選ばなくなったな。お前一人に何が出来るんだ?」


ハッタリなのか何なのか。めくるめく電撃戦ももう最終盤だろう。


「この城は私の魔力に反応して自壊する機構があるのだ。加えて貴様ら反逆者に関係する者は脚の腱を切っておる。分かったらーー」

「おい」


自らの瞳孔が怒りで開いていくのを感じる。国王は、息を飲む声すらも殺して何も発さない。下手に喚いていても首を切りたくなったかもしれないので、今日始めての利口な判断と言えるかもしれない。


「それは、今の貴様らの回復魔法では治せない傷と知った上で言っているのか?」


瓦解した国家の体制は、神聖なる力を行使する白魔法の分野でも例外は無い。全盛期より一つ落ちたこいつらの技術では、腱や骨に及ぶ怪我を治す事など不可能だ。


「治る治らないは重要じゃないのだぞ。動けない人質がいるのだ」

「まー確かに。この王城に攻め込んで半刻弱。確かに我々の勢力では数十規模の人をつれての脱出は不可能だろうな」

「だったら早く手を引けい! どうなっても知らんぞ!」


こちらが顎に手を当て考える素振りを取ると、途端に騒ぎ立て始める。もう本当に通訳が欲しくなってくる。


「だが、地下牢を見張りが回るのは朝夜一回ずつの計二回。人質の救出に十時間も掛けられるのであれば話は違ってくるだろ」

「何を言っておる。囚人の監視は日に四回……今の問答でかまをかけたか!?」


潜入者の報告より二倍多い見回りの頻度。どちらが実態の数値かは火を見るよりも明らかだ。


「今さらサイクルを聞いた所で過去には戻れないだろ、国王殿。民の反乱も踏みにじられた思いも最早どうにか出来る訳ではないしな」

「なら良いわ。とっとと下がりおれ馬鹿者!」

「お前が思ってるほど見張りの士気は高くないし、人質も既に居ないんだよ。もっと言うと、戦いは数日前から始まっていた訳」


喚くときはとことん喚くが、相手が何を言っているのか理解もしなければ聞こうともしない性質なのだろうか。


「まあ、この城が崩れようとなかろうと、お前の傷を治すのは人質を治癒させた後だな。……俺にいたぶる趣味はないから、一思いに腱を断つ。悪く思うな、逃げられても困る」


もう言うこともないので、大人しくなって貰おう。横に倒れているレスカも運んでやらなければ。


「やめろ、寄るな! ーーぐお!」


寄るなと言いつつ離れようとはしない国王。こんな状況でも自分が譲らない強情さはある意味尊敬の念すら湧いてくる。


「……結局崩れないのか。ま、結果的には楽でよかった」


二人を運び出す途中、負傷者を見ることはなかった。元騎士団長補佐のディアーらに雑兵を任せていたが、事前の打ち合わせ通り、負傷者を一ヶ所に集めておいてくれたのか。敵の姿も見えないと言うことは、楽観的ではあるがそれだけの余裕もあったのかも。

中庭には関係する人々が多数集まっている様子。誰かが血に塗れた俺の姿を目撃したのか、あまり時間を置かず賑わっていたように思えた観衆が次第に静まっていき、視線が集まる。正直子供が見たらトラウマものである。しかし城攻めは初めてだったが、こういう時は何を言うものかと。かつて開かれていたコロシアムで審判のおじさんがやっていた儀礼的振る舞いを思い出し、誤魔化そう。


「グラス国王ヴィネアは降伏した。そこで私、クインス・ウェインは次期国王の決定権とヴィネアの保有する財産を頂く!」


実を言うとこんな宣言やっている暇はない。腹を刺された負傷者と歩けないおっさんを抱えているからである。確か、この辺りにいる筈だ。負傷者の多そうなテントの一角に目をやると、一人の女性と目が合う。


「クインスさん! 無事に終わった?」

「言っちゃなんだが思ったよりあっさりな」


国王は手足を縛り、別の人に任せておく。中々誉められた者でもないので、野ざらしにしておくと誰かに撲殺されてしまいかねない。レスカはなるべく衝撃を加えないように、丁寧に降ろす。


「おそらく今回一番の負傷者だ。手遅れにならない内に頼む」

「この人見たことあるわね……王の側近さんかしら。可哀想だけど、付く相手が完全に間違ってる気がしてならないわね」

「それは俺も思ったが、命の恩人には思うとこもあるらしいからな……」


彼女は傷に手をかざす。回復魔法が不得手な俺にとっては敵にトドメの魔法を入れる時のポーズとしか思えないが、茶々を入れると大惨事になりかねないため、無言。


「ちょっと」

「はい」

「黙ってると気まずいんだけど」

「いや、攻撃魔法で息の根を止めている所を邪魔したらいけないかと」


バシンと肩を叩かれるがこっちは鉄鎧である。聖女の平手がモーニングスターに匹敵する硬度と重さを持ち合わせている訳は無いので、今は恨めしそうな目で自分の手を癒している。彼女ほどの魔力量がなければ非常に勿体ない回復魔法の使い方だ。


「叩く余裕があると言うことは、治療は終わりか。流石の早さだよ」

「私の心配とかしても良いんじゃないの?」

「当たり屋みたいなことを言うな」


上級魔法とやらのお陰だろうか。鎧の内部は分からないが、レスカの血色の変化が甚だしい。無論良い方である。……ようやく一息つけると言ったところか。


「フゥー、漆黒の雷撃、ディアー卿はいるか?」

「いくら私でも頭は治せないから他を当たってちょうだい」

「謙遜する必要はない。貴殿の活躍には感謝している。此度の戦いで得た盟友、その命! 易々と死霊に明け渡すほどこのクインスは薄情ではないゆえな!」


決まったな。レスカにはどんな二つ名が似合うだろうか。今から考えてあげなくては。


「はい、はい、ディアーここです! 二度と呼ばんでくださいって毎度言ってるじゃないですか!」

「おお、無事だったか。国王直属の手練れを五人相手取ったその立ち回り、この双眼に刻み付けられなかった事だけがこの戦の心残りよ……」

「平時のこの貴族、完璧にイッてるんだよなあ」


この堅物ツンデレが大広間で兵士たちを受け持ったことに礼を言ってるのだが、言うに事欠いてイッてるとは……


「そちらがその気なら我が妙技、今一度発揮してくれよう」

「クインスさんよお。俺の方もその余裕をふっ飛ばして、邪気を払ってくれるぜ!」


確かに焦ると格好つける余裕はなくなるが、格好つけて喋った方が絶対良いに決まっているだろう。何故みんな邪気を払うだの悪霊を取り除くだの散々な言葉をぶつけて来るのだろうか。


「ところで、次期国王の決定権って何?」

「先程の我が言葉、しかと届いていたようだな。極癒星イルネよ」

「なんて?」

「極癒星イルネ、この国は王を失ったことにより今一度深い混沌へと陥る可能性を孕んでいる。国王を討った我が次の使命権を持つならば、民草が一番……今一度……」

「クインスの中では今一度が流行ってるみたいだな?」


言葉が出てこない内に無意識に思っていたことをディアーに当てられる。我が友ながら目の鋭いやつだ。


「民草が……市民が一番納得するのは、俺の言葉だと思うんだ。自惚れではなく、個人としては他の誰も適任が居ないからな。だから今、公認のものでないにせよ革命の宣言として、その流れを強固にして他の貴族連中を抑制したかった」

「私の白魔法は効かないのに、小難しい説明させた方が正気に戻るのがいつになっても納得いかない」


イルネは不満そうな口調でジトッとこちらを見ている。だから、元から正気なのに戻るわけ無いだろ! ま、大人なので口には出しませんが。


「継承者を正式に座へと導くのは幾夜か星が渡った後か……」

「ん? そのままお前が継ぐんじゃないのか?」

「さすれば神気纏う言の葉選ぶに能わず」

「良いことずくめじゃない」


あくまで決定権を他者に譲る気がなかっただけで、自分がなる気は毛頭無いのだ。落ち着いた筈なのに嫌な汗が出てきた。


「待って。どちらにせよ考える時間は必要だ。その場しのぎではあるが数日は抑えが効くだろう」

「民の抑えは効いても中枢が麻痺しないための代役は必要だろ

「適当に貴族の出から引っ張ってくれば……」

「ここまでやって手ぬるい始末で終わらせたらどうなるか分かってんの!?」

「はい! クインス・ウェイン、次期国王決定までの間、尽くさせて頂きます!」


数日のみの王政ではあるが、やれることはやってみようか。


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