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嫌いな彼女/好きな彼

作者: 棺祀師

前にハーメルンさんで投稿したものの再掲です。

気分によっては続くかもしれないし続かないかもしれない。(たぶん続かない)

 


————俺は彼女の事が嫌いだ。




 「おい、朝だぞー。ほら起きる。」


 すぐ近くでで発せられる声と、腹に感じる重さ、ゲシゲシと頭を叩かれる感覚で目が覚めた。うるさい、重い、鬱陶しいの三連コンボ。気分はただただ最悪である。その原因は俺の腹に跨がっている1人の少女。

 名はベスティア。非常に整った顔立ちと、眠たげな目の奥から覗かせる深紅の瞳が印象的な少女だ。誰が見ても間違いなく美人なのだろうが、いかんせん表情に乏しい。そして村一の怪力の持ち主でもある。その腕を買われ皇女様のお付きの護衛になる程にだ。見かけによらず飛んだ化け物である。

 そんな彼女ともかれこれ10年程の付き合いで、俺とは所謂幼馴染という関係なんだと思う。しかし俺はコイツが嫌いだ。そしてコイツも俺の事を嫌っている。お互い嫌いあっているのに10年も関係が続いているなんてまったくもって驚きである。しかもコイツは、特に頼んだ訳でも無いのにこうして毎日俺を起こしに来る。嫌がらせとしか思えない。


 「いつまで寝てるのさ。ほら、皇女サマも待ってるから。」


 彼女が俺を叩くたびに、後ろで結えられた、ウェーブのかかった長い銀髪がふわふわと揺れる。その髪は窓から刺す朝日に照らされキラキラと光を反射しており、彼女の顔立ちも相まって非常に美しく、幻想的に見える。初対面だったら間違いなく、その美貌に惹かれていただろう。初対面だったらな。

 それに日の明るさから見るに、いつまでと言われるほどの時間ではない筈だ。むしろ早起きなまである。皇女様を口実にしてまでこんな嫌がらせをしてくるなんて、その執念には流石に脱帽せざるを得ない。


 「うるさいな……」


 「わっ」


 声を発するのも億劫だったが、俺はそう端的に言い頭を叩いていた手を払いながら寝返りを打つ。そんなことをすれば当然、腹に跨がっていた彼女はバランスを崩しベッドに倒れる。彼女は声を出して驚いた割には特に抵抗もせずに、されるがまま倒れた。その結果、俺と添い寝するような形になってしまった。嫌いな奴とこんな状況になるのは嫌だが、背に腹はかえられない。俺は睡眠を優先したい。それに、彼女も俺と同じベッドにいるのなんて嫌だろうしすぐ退いてくれるだろう。


 「ふ、ふーん、そっかぁ。ふふん、そういうことねぇ。」


 彼女がまだ何か言っているが、当然頭には入ってこない。

 だんだんとうとうとして来た。


 「し、仕返しだから……」


 うーん、首辺りでモゾモゾモゾモゾしている。鬱陶しいことこの上ないが、あとちょっとで寝れそうなので無視。

 うとうと、うとうと。

 あ、寝れる寝れる。寝れ——


 「ベスティア〜?グランデ〜?まだですか〜?」


 「ミ゜ッ!!」


 ガチャリ、とドアが開く音、皇女様がベスティアと俺を呼ぶ声、そして謎の鳴き声が聞こえて来たのはほぼ同時だった。次いで来るみぞおちへの衝撃。


 「グホァッッ!!!」


 その衝撃にたまらず目を見開くと、四肢を広げて飛んでいるベスティアが見えた。おそらく俺を叩きつけながら飛び上がったのだろう。その姿はさながらびっくりして飛び上がった猫のようだった。


 いや、まあ、猫なのだが。

 今俺の直上にいるベスティアには、彼女の髪と同じ銀色の、猫耳と尻尾が生えている。しかし、最初から生えていた訳ではない。

 彼女は血筋が少し特殊な為か、【獣化】という特性を持っている。普段は普通の人間と変わりないのだが、過度に怒りを感じたり、戦闘の直前だったり、とにかく、彼女が《《興奮状態》》になると意思とは関係無しに、勝手に耳と尻尾が生えてしまうらしい。そして耳と尻尾が生えている——獣化している間は、人間とは比べ物にならない五感と身体能力を得る。これが彼女が村一の怪力の持ち主である所以だ。

 まあつまり、何が言いたいのかと言うと……


 コイツ、本気で俺を殺そうとしている。


 なんだ、思わず獣化するほど俺への殺意が高いのか。おそらくこのまま落下の勢いに任せて俺を叩き潰してくるだろう。横に転がり逃げる事も考えたがそれだとベッドが粉々になってしまうし、近くの皇女様にも危険が及ぶ可能性がある。だから俺は身体を硬化させ彼女を受け止めることにした。


 なんて言ってるが実際は寝起きで素早く動けないだけである。


 おそらく骨の数本は持っていかれるだろうが、どうせすぐ治るし大したことはない。皇女様とベッドに被害が出なけりゃ万々歳だ。魔力で身体を硬化させ、次なる衝撃に備えグッと目を瞑る。


 しかし、実際に来たのは叩き潰さんとする衝撃などではなく、優しい感触だった。ぽふん、と間抜けな音がした。

 恐る恐る目を開けてみる。ベスティアは俺の胸元に顔を埋めていた。その後ろに、ドアの前で顔を真っ赤に染め、両手で口を押さえている皇女様が見えた。なんだこの状況。


 「あ゛、あ゛の……」


 たまらず声をかけるが、ベスティアに俺の服が握られただけで返事は返ってくる気配がない。ベスティアの獣化の方の耳がピコピコと揺れ、人間の方の耳は皇女様のように真っ赤に染まっている。というかコイツ耳4つもあるのか。初めて知ったわ。キモっ。

 流石に皇女様に俺の殺害現場を見られるわけにはいかないと思ったのだろうか。なんて事だ、もしそうだとしたら俺は皇女様に助けられてしまったという事になる。後で土下座して、靴をベロベロ舐めて精一杯の感謝を示してやろう。

 そんな事を考えていると、胸元のベスティアがおもむろに起き上がった。いつのまにか獣化は解けており、いつも通りの不機嫌そうな顔。


 「な、な、な、なんて破廉恥な!!こんな朝から!!私がリビングに居るのにも関わらず!!」


 「いや、ごめん皇女サマ。コイツがなかなか起きなかったから。」


 皇女様は何か勘違いしているが、流石に『殺されかけただけです。』とは言えない。


 「と、とにかく!今回は見なかった事にしますから!早く起きて来て下さいね!!」


 そう言うと彼女は相変わらず顔を真っ赤にしながら、ピューッとリビングの方へ走って行った。ベスティアはその姿をジッと見ていた。


 「……ベスティア、さっさと退いてくれないか。」


 「ん?ああ、ごめん。」


 俺が声をかけると、彼女は案外素直に退いてくれた。

 彼女が退いたのと同時に俺は起き上がる。その時俺の背骨からボキボキと大きい音がした。おそらくさっきのボディーブローが効いたのだろう。


 「それ、だいじょぶなの……?」


 その音を聞いた彼女は気味悪げにこちらを見ながらそう言った。

 いや……


 「……お前の所為だよ。」


 しまった。思わず口に出してしまった。咄嗟に口元に手をやるがもう遅い。

 ヤバイ。殺される。


 「……ゴメンナサイ」


 しかし、飛んできたのは拳ではなく謝罪。てっきり拳が飛んでくると思っていたので、拍子抜けしてしまった。どうしたんだ、何か悪い物でも食ったのか。


 「お、おう。」

 

 なんなんだ、調子狂うなあもう。


———————————————


 ————私はアイツの事が好きだ。





 「全く、毎日飽きもせず良くやりますね…」


 私の隣を歩く皇女サマが、呆れた表情をしながらそう言った。


 「誰かが起こさないと一日中寝てるからね。アイツは。」


 やはり、アイツは私がいないとだめなのだ。思わず顔がにやけてしまう。

 今、私たちはアイツ——グランデを起こす為に彼の家に向かっている途中だ。

 

 「これで恋仲じゃないんですもん……。」


 「ん?何か言った?」


 「いいえ!なんでもありません!」


 そういう皇女サマは不機嫌というか、微妙な表情をしていた。


 そんな話をしてる内に彼の家に着いた。

 合鍵で玄関を開けようとしたが、どうやら鍵は掛かっていないようだった。彼らしいと言えばそうだが、なんとも無用心だなと思った。

 そのまま家に入り、彼の部屋へ直行。


 「グランデー、入るぞー。」


 私はそう言いながら扉を開ける。

 やはりというべきか、彼はすぴすぴ寝息を立てながらベッドに寝ていた。


 「コラ。起きろ。」


 寝ている彼の頬を叩くが、一瞬鬱陶しそうな表情をしただけで目覚める気配はない。彼は叩かれた頬を、猫が顔を洗うときみたく手で擦っている。擦るのに合わせ、頬がぐにぐにと形を変える。


 かわいい。


 ふと、そんなことを思ってしまった。それを自覚した瞬間、頬が赤くなっていったのが自分でもわかる。


 ち、違う。起こしに来ただけだから。変な気はない。


 私は顔を左右に振って落ち着きを取り戻す。

 前までは全く普通だったのに、最近はいつもこんな感じだった。昔は平気で彼のお腹に乗って起こしたりもしていたけど、今はなんだか恥ずかしい。

 でも、何をしても起きないし……もう、これしかない!

 私がベッドに乗ったのに合わせ、マットが軋む音と共に僅かに沈み込んだ。そのまま膝立ちで彼を跨ぐような状態になり、彼のお腹に静かに腰を下ろす。股下を伝って、呼吸に合わせてお腹が微かに上下しているのが感じられる。温かい体温がすこしむずむずする。


 うぅ、何をやっているんだ私は……。


 行動を終えてから冷静になった。自分の頬に両手を当てて、顔を冷やす。 やめた方が良いのか、いや、やっぱりこのままでいいかな。


 「ふぅ。おい、朝だぞー。ほら起きる。」


 あくまで平然を装いながら、彼の顔をゲシゲシと叩く。すると彼は、うーん。と唸り声を上げた。今までで1番の反応。やはり、効果はありそうだ。


 「うるさいな……」


 「わっ」


 突然、彼はそう言いながら寝返りを打った。お腹に乗っていた私はベッドに倒れ込んでしまう。やろうと思えば抵抗できたけど、合法的に彼のベッドへ倒れ込む事ができるからあえてしなかった。

 バタン!と倒れた拍子に少しの埃が舞い上がった。あとでちゃんと掃除もしないとな、なんて真面目な思考を片隅に、私は彼の匂いに包まれながら「彼と同じベッドで寝ている」という事実に胸を高鳴らせてしまう。きっと、彼はこれを狙ってわざと寝返りを打ったのだろう。


 「ふ、ふーん、そっかぁ。ふふん、そういうことねぇ。」


 勝者の余裕からか、彼は幸せそうに寝息をたてている。私がこんなにもドキドキとしているのに悠々と寝ているなんてむかつく。そうだ、少し仕返しをしてやろう。音を立てずに彼に近づいて、おもむろに彼の身体に抱きつく。男らしいガッチリとした体格で、抱き付いていてとても安心できる。さっきから私の心臓の音がうるさいが、これは仕返し、変な気はないのだ。たぶん……。


 「し、仕返しだから……」


 彼の首筋に顔を埋め、匂いを嗅いでみた。当然彼の匂いがする。でも、彼と触れ合ったりしたときに香る匂いとは違う、"濃い"匂い。

 その匂いは私の鼻孔をくすぐり、脳をビリビリと痺れさせる。完全に制御を失った顔は、彼に見せられないほどに蕩けてしまった。


 ああ、これはダメだ。


 何処か別の国には、使用者を虜にしてしまう恐ろしい薬が有ると聞くが、私にとってこの匂いはまさに薬である。

 私の意思とは関係なしに、再び嗅ぎに行ってしまう身体をすんでの所で抑える。

 でも……もういいや。別に起きないだろうしもう一度だけ……


 「ベスティア〜?まだですか〜?」


 突然、部屋の扉が空いた。どうやらリビングで待っていた皇女サマが様子を見にきたらしい。


 「ミ゜ッ!!」


 驚きすぎて身体が勝手に跳ねてしまった。それこそ天井を突き抜けるのではないかというほどに。それに変な声も出た。恥ずかしい。


 「グホァッッ!!!」


 飛び上がった拍子にグランデを叩きつけてしまったようだ。

 そのまま彼の胸に着地。真っ赤な顔を見られないように、顔をうずめる。うー……、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。 


 「あ゛、あ゛の……」


 私の頭上で、彼がそう呟いた。

 ふぅ、と一呼吸置いて気持ちを落ち着かせる。


 「な、な、な、なんて破廉恥な!!こんな朝から!!私がリビングに居るのにも関わらず!!」


 「いや、ごめん皇女サマ。コイツがなかなか起きなかったから。」


 平然を装い、そう返答する。もう、胸は高鳴ったりしていない。


 「と、とにかく!今回は見なかった事にしますから!早く起きて来て下さいね!!」


 どうやら誤解を受けてしまったようだ。……あながち誤解じゃないのかもしれないけど。


 「……ベスティア、さっさと退いてくれないか。」


 「ん?ああ、ごめん。」


 ようやく起きるらしい。私は言われた通りに退くが、彼の体温が少し名残惜しい。まだ顔が暑いので、彼に気付かれないようにパタパタとあおぐ。


 その間に彼も伸びをしたようだが、その拍子に彼の背中からバキバキッ!と骨が折れるのと似たような音が響いた。


 「それ、だいじょぶなの……?」


 あまりにも大きな音だったので、ついつい聞いてしまう。流石に折れてはいないだろうけど、少し心配だ。


 「……お前の所為だよ。」


 彼は目を合わせず、少し苛立ったような声色でそう言った。

 確かに、驚いた時に強く叩きつけてしまったかもしれない。怒らせて、しまったようだ。

 どうしよう、嫌われてしまっただろうか。


 「……ゴメンナサイ」


 「お、おう。」


 この反応は、多分……だいじょぶ。


 



グランデくんは茶髪細マッチョです。脱ぐとすごい感じ。

ベスティアちゃんは銀髪もふもふ猫耳っ娘です。おっぱいもそこそこでかいです。

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