九十九篝はヒロイン③と遭遇する。
誤字脱字報告ありがとうございます。
何事にも必要な物は、金である。
必ず、だ。
例えば、欲しいゲームの為とか。
例えば、幼馴染みを誘ってデートする為とか。
例えば、大切な人にプレゼントを贈る為とか。
例えば、結婚式を挙げる為の準備にとか。
どんな夢や希望を持っていてもその準備の為に、内容によっては大金が必要となる。気が遠くになるかもしれないが、目的を持って日々頑張れば自ずと微量かもしれないが貯まっていくかもしれない。
「いらっしゃいませっ♪御主人様っ」
やはり金を稼ごうにも、働く手口によっては低かったり高かったりする。働いてお金を稼ごうとするのならば、給料が高い方が良いのは決まっている。人によってはその仕事内容によるだろう、と思うかもしれないが目的の為ならば多少の羞恥心等捨ててやる。
これは、何時でも旅に出ても良いように資金を貯める為に働く。日々俺は学園を休んでモンスターが生息する森へ足を運んで薬草やら山菜・木の実等を採取して商人に買い取って貰っている。無論、モンスターの角や牙・体毛等もだ。意外とこれが金になるのだ。良い時で日本円にして、1日10万円程稼ぐ。しかし、これは何時でも出来る訳ではないのだ。
「ご注文は如何しましょうか、御主人様♪」
だからこそ、定期的にお金を稼ぐ場所で働くのである。だが、働くにしてもこの世界では様々な職種があるのだ。例えば飲食関係が主に多く存在している。その飲食関係でも、給料が高いものがあるのは何故だろうか。
料理や従業員の質が高いものだろう。
そして、俺は今────。
「かしこまりましたっ御主人様♪」
メイド姿で接客をしている。
九十九篝ではなく、燎として。
……一体何しているか、と思われるかもしれないが時給2000円って凄くないか?女装して愛想よく振る舞い、お客を楽しませ帰って貰えば良いんだ。しかも料理も一流シェフ達が作り国の名物料理にもなっており、しかも店員達が美少女尽くしである。
因みに唯一俺がその中で男であり、周りも認知していたりする。要はコスプレ喫茶ではあるが料理と店員のレベルが桁違いに高い場所と思ってくれれば良い。美少女の中に居ても遜色無いとは……それほど九十九篝の容姿は非常に良いのだ。
何時も偉そうな口調なのだが、店では慎んで営業スマイル。我ながらキモいのでは……?と思っていたが客からの評判は良いらしく俺目当て来客する男女がいるんだ。しかも週にお客様の呼び方を変えており、今は『御主人様』ではあるが『お嬢様』だったり『御兄様』・『御姉様』等々……上品に言ってはいるが、結局コスプレ喫茶みたいなものである。
ここで諸君等も思ったかもしれないが、女装して抵抗ないの?と思われるだろう。残念ながら……前世から女装は中学から高校まで無口な幼馴染みによってやらされていたので今更なのだ。やってみればどうやら中高のクラスメイト達から似合っているとか言われていたが……それは事実かどうかは不明だ。からかっているだけかもしれない。幼馴染みも俺が女装する時は珍しくよく話してくるので、彼女が楽しんでもらえるなら……と仕方がなくよくやっていた。大学に行ってからは会ってはいない……好きだったんだけどなぁ。
「…………」
しかし、まさかのここで問題が起きていた。
俺にとっては一大事である。
あのエンシェントドラゴンの件から既に数ヶ月が過ぎており、学園はほぼ休んでいるが試験やらは必ず受けていた。勿論全て同じことの繰り返しなので満点。もうゲーム攻略の一つの知識として覚えていた。
あと数日で夏休み……であるが、そんなの関係なく俺は店で働いている。
が、今いる客の一人が問題なのだ。
シャルロット・レヴィリレール。
現在二年の学園生徒会長であり、ウェーブがかかったプラチナブロンドの長い髪に宝石の様な蒼い瞳。透き通る真珠のようなきめ細やかな肌は女性にとって理想の容姿。しかも172という高身長な為、俺は若干見上げなければならない。因みに九十九篝は167㎝である。けれども、大体18~20歳になれば178にはなるので全く気にしていない。
「……………………」
そんな全学年の頂点に立ち、ヒロインの一人である美少女が、何やら俺を黙って見続けているんだ。目を合わせない様に営業スマイルを振り撒いてはいるが、真顔で威圧感ある眼力でズーっと見てくる。
……怖い。
何かやったか?と思ったが、今思えば授業中の筈である。彼女は奥の隅の席で片手に紅茶を飲みながら俺を見てくるのだ。
大体予想は着いていると思うが、彼女もかつて俺が付き合っていた相手の一人である。というか、前に若干話していたかもしれないケド……。
「…………………………」
……そう言えば、彼女はかなりの可愛き物好きだった。確か最初に付き合っていた当初、俺に女装してほしいとせがまれた時があったな。しかも学園指定の女子制服。つまり彼女の制服でだ。凄く身体をまさぐられた時があった。あれはあれで当時は可愛らしいと思っていたケドネ。
「おぃ燎。あの客めっちゃアンタを見てるぞ……ってか、あの女って」
「生徒会長ですよ、せーんぱぃっ♪」
「うへぇ……あたし、厨房に戻るわ」
「えぇーっわたしっ、どーすればいいんですかー」
「どうするもなにも、アンタは只でさえ休み多いからな。目をつけられたんじゃない?」
「たすけてくださいよぉー♪」
「……ほんと、仕事中は可愛い後輩なのに」
今俺に声を掛けたのは同じく学園二年の金髪褐色肌のギャルである。名前は……忘れた。一応先輩であるので仕事中は『せんぱい』と呼んではいるが、それ以外は『お前』とかだ。彼女も生徒会長と同じ学年ではあるが、屈指の実力者であるものの俺同様に学園をサボりガチ。なので見つかると面倒だと察したらしく、俺がどうにかしろとお達しだ。
さて、どうすれば……。
「そこの店員」
おっと、まさかのあちらから声をかけてくるとは……いや、俺も店員なんだから当然か。
よし!
あざとく可愛らしく、そして上手く帰るように誘導しよう!!!
「はいは~ぃっ♪どうされましたかっ、御主人様♪」
「九十九篝君、ね?」
……Oh geez.
名前、御存知でしたか。
「何の事でしょう、御主人様?わたしは燎ですよー♪」
「貴方、学園では有名よ?優秀な一年生達のプライドを全員へし折ったとか……にしても試験以外全て休むなんて、褒められたものではないわね?」
「何の話ですかぁ~?わたし、ぜんぜんわかんなーいっ♪」
「……あらそう」
そう言うと彼女はティーカップに入っていた紅茶を飲み終えると、テーブルの端にあったメニューを手にとって中を見ていた。さてさて、もう用済みかな、と思い「御決まりでしたら御呼びくださいっ♪」とその場逃れようとしたのだが……。
「何処へ行こうというのかしら?今から注文するわ、貴方に」
「……はぁ~ぃ」
クソッ……誰かにパスしようとしたらこれである。
クールで氷の様に冷たいお前だけど、NTRたら炎の様に燃え盛って自ら腰振ってたからね、彼女。そしてお得意の"矢"の魔法で俺の手足首を撃たれ、最終的には事が終わった後に心臓にズドン、である。
"矢"の魔法、というのは文字通り"矢"だ。魔法を発動すると"矢"の特性である細く鋭い魔法攻撃となる。しかもどんな属性の魔法でも、だ。殺傷能力が高く、身体に直接当たれば致命傷は免れない。
「……これを貰おうかしら」
「"オムライス"と"キャシュ"、"ガドー"ですね?かしこまりました♪ではお持ち致しますので少々お待ちくださ───」
「その紙を渡してさっさと私の元に戻りなさい。いいわね?」
「他のお客様もいらっしゃいますので♪」
「嫌よ。貴方に拒否権はないわ。予めここの店長さんに貴方を一時間借りる為に大金は渡したの」
「(嘘だろ、おい)」
【悲報】俺、店長に売られる。
あの店長、覚えてろよ……っ!
この店で何かトラブルを起こすのは不味いので仕方がなくシャルロットの要求に大人しく従うしかない。何だよこのマガママ御嬢様。
仕方がない。
しかし、何を要求されるか……。
「さ、ここに座りなさい」
「……は~ぃ」
ポンポンと彼女は自身の真横のソファーの席に座るように指示する。あまり乗り気ではないけど、ギャルには伝えていたから他の誰かが料理を持ってきてくれるだろう。
それにしても、何の罰ゲームだ。
一番シャルロットが達の悪いNTR方したからな。
一度目は前にも話した卒業式後に。
二度目は夫の俺を睡眠薬で眠らせた横でヤりまくる糞アマぁっ!
三度目は俺の家のベッドで乱交パーリーしやがったからな!!!しかもあられもない噂を流されて、余りにも精神的に参って自殺したから、俺……。
もうどうでもいいけどさぁ……。
「じゃ、食べさせてメイドさん?」
「は?」
「今来た料理を食べさせてって言ってるの。店長からの許可は得てるわ」
「……わかりました~」
本当に何がしたいんだよ、コイツ。
俺は内心嫌々シャルロットに料理を食べさせていく。こうしていると、離乳食を娘にご飯を食べさせていたよなぁ……懐かしい。そう言えば、何回もループしてるけど俺の子供って娘三人だけだったんだよなぁ……後は間男の子供です、はい。しかも娘三人、母親共々野郎に美味しく頂かれたよ、ちきしょう!!!
「貴方、王からの招待蹴ったんですってね」
「……さぁ、何の事でしょう?」
王からの招待。
それは、あのエンシェントドラゴンの件で王から呼ばれていたのだ。恐らく自分の騎士か戦力にしたかったのかはわからないが何かしらの褒美を貰えたのかもしれない。しかし俺は面倒だったので断ったんだ。
「王の招待を断っておきながら……本来なら不敬罪にはならないにしても、王族や貴族から怒りを買ってもおかしくはない筈。何故かしら?」
「……御主人様。はいっ、あーん♪」
「んっ……まるで貴方、というより貴方の背後にいる存在に恐れているのかしら、ね?」
本当に嫌なことを聞いてくる女だ。
こういう時は無視かスルーが一番である。
「それにしても貴方。全くと言っていい程学園に来ていないのね。何が不満なのかしら」
「……」
「じゃぁ、こうしましょう。私と戦いなさい?場所は学園の第一闘技場。時間は明日の正午よ」
「……ほぅ?」
「ふふっ♪貴方言っていたでしょ?『俺を殺せる者はいるか』って……なら、殺しはしないけど、負かしてあげるわ九十九篝」
「……面白い」
シャルロット・レヴィリレール。
確かヒロインの中で遠距離最強のキャラクターだ。何故ここまで俺に拘るかなど、どうでもいい。丁度良いじゃないか。俺を殺せるかもしれないのは、ヒロインだって同じ。よくよく考えてみればあのリベリアにも戦いを申し込めばよかったな。
まあいい。
この女が、己の全身全霊を掛けてでも倒してくれる可能性があるんだ。
だからこそ、俺は彼女に感謝を込めて笑顔で言うんだ。
「俺を楽しませてくれよ、女」