九十九は報酬を要求する
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王国騎士団第三団長リベリア・ルル・ミラルーク。
女性でありながら男らしい風格と剣術による神速はヒロインの中で接近戦ならば最強戦力。しかもその風貌からは想像つかない彼女のデレた可愛さのギャップはファンの中で人気投票で第三位となっていたりする。
年齢は……確か25歳だった筈。
ヒロインの中で年上二番目である。
一番歳上は……未亡人28歳の美女だったりするのだ。
しかし、リベリアは俺が最も嫌うヒロイン一位だったりする。
理由は簡単。
殺され方が、エグいのである。
最初は国の反逆者として、恋人だった彼女に斬首され。
二回目は、婚約が決まって結婚式前夜に主人公とヤっているのを見せられての、胸一刺し。
三回目は、結婚したと思えば娘と共に主人公に母娘丼されてしまい、妻と娘の手によって冤罪を掛けられて牢獄。そして処刑である。
三回目は順調にいっている、幸せになれると思えばこうだ。
いやはや、こんなNTRルートがあったのは驚愕である。あ、勿論、娘は俺の娘だった。名前は……忘れたケド。
一番トラウマなので、本当に関わりたくない。というか、10分位あいつと一緒に居たら泣きわめくわ、マジで。いや、嘘だけどもさ?
はやくドラゴンの元へこの卵を戻しにいかないと面倒だ。目の前に猛獣が居てパニックになる村人もいるだろう。
多分、大丈夫だと思うけど────。
「ま、まって!」
「む?」
……うーん。身動きが暫く取れぬ様に威圧していたんだけど、何故ここに来る我がトラウマよ。顔面蒼白になりながら着いてくるとか、無理しなくていいのに。さっさと寝とけばいいのにねー。
さてと、話したくも見たくもないのでドラゴンのいる村へ超ダッシュ♪
「えっ、ちょ────」
さっさと卵渡して、かーえろっと♪
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ドラゴンが襲撃してきた村では、襲撃してきたが九十九によって拘束し身動きが取れぬドラゴン───エンシェントドラゴンを取り囲む様に村人達は警戒していた。警戒というより、今にも身動きを取れぬエンシェントドラゴンを殺そうと武器を手にしてジリジリと近寄っていた。
「ま、まって!今は手を出さないで!」
「身動きが取れぬ今、止めを刺さなければ手遅れになるぞ!」
「あの狐の少年に感謝はするが……」
「おれ達の安全の為だぞ!!!」
村人達は、身動きを取れぬエンシェントドラゴンを此処で殺そうとしている。相手は食物連鎖の最上位の存在だ。危険な存在を殺そうとするのは、己と仲間の為に考えるならば間違いではないだろう。しかし、中には九十九に釘をさされた者達は彼が戻るまでは手を出してはならないと反対していたのだ。
そんな騒動になりかけていた瞬間、その場にいた全員が戦慄する。身体中がピリピリして痺れていくのだ。例えるなら、慣れない正座や変な体勢で座った時に、ジワジワと痺れていくアレである。それが身体中の動きを止める程では無いが、動きを確実に鈍らせていく。
「───手を出すな、と言った筈だが……これは、どういうことだ?」
静かに木霊する、彼の声。
華奢な身体で重さをあまり感じさせない容姿にも関わらず、一歩一歩辺りが揺れる感覚があった。誰もがその声の主の方向へ向いた瞬間、誰もが思わず悲鳴を上げてしまいそうになる。転移魔法使いの女の娘は完全に怯えた表情で恐がっており、涙をボロボロと流していた。
「こ、これは……」
「何をしている?」
「いや、そ、の……」
「お前達は救われた事を忘れたか?誰でもない、この俺がキサマ等を救ったのだろう?ならば、救った者の話は素直に聞くべきではないか?」
「それは───」
「信用しろ等と滑稽な事は言わん。しかし、強者である俺が判断した事に楯突くのならば───今から俺の敵となる、ということになるが?」
辺りが静まり返る。
そして、全員が顔面蒼白になりながら九十九に反抗する事はなかった。それを確認した九十九は己の糸で全身を拘束したエンシェントドラゴンの元まで近付いていく。
「おい蜥蜴。お前が言っていたのは……これだな?」
『───!!!』
目をこれでもかっ!と見開いたエンシェントドラゴンは九十九が差し出した白い卵に過剰に反応する。それを見た九十九はエンシェントドラゴンを拘束してきた糸を全て離してしまう。
エンシェントドラゴンは翼を大きく広げ、九十九から差し出された卵を両手で恐る恐る壊れぬように受け取ってクルルルゥと安心したかの様な鳴き声を出していた。
『……感謝する獣人よ。これで安心して巣へ戻れる───』
「まさかだとは思うが、蜥蜴。見返りも無くはいおわり、と言うまいな?」
『み、見返りか?そんな物、我には……』
「なんだと?」
『……だって、そういうの要らないっと思ったんだもん』
「だもん、じゃないわ戯者。何気に口調が崩れているぞ」
『……何の話だ?』
「消すぞ蜥蜴ぇ」
どうやら無事に卵が返ってきた為、エンシェントドラゴンの威圧は消え去りむしろそれが素なのかと疑ってしまう程のキャラ崩壊を見せた事に苛つきを覚える九十九。更には報酬がないというのだが、恐らくエンシェントドラゴンは勘違いしていた。
九十九篝にとっての報酬はものではないのだ。
『我は主に見返りというものを持ってはいない。だが、どうしても、というのであれば────ぐ、偶然ここに未亡人がいるのだが……?』
「は?」
『人ではないな。ここに未亡竜がいるが……貰ってはくれぬか?』
「頭沸いてるのか、キサマ」
苛つきを徐々に現してくる九十九にエンシェントドラゴンはこれ以上の刺激を与えようとするのを止め、彼───人、獣人が求める物について頭を働かせる。しかしその前に九十九はため息を着いて改めて己が欲する物を明確に答えたのだ。
「俺が求めるのは唯一つ。キサマが知る最強の強者のみ」
『最強の、強者だと?』
「何でもよい。それさえ答えれば他は要らぬ。更に欲を求めるならば、その強者の居場所さえ知れば尚良い」
『……ぬぅ』
エンシェントドラゴンは九十九の求めるものに頭を悩ませる。
最強、と言ってもエンシェントドラゴンからすればまあまああるからだ。例えばエンシェントドラゴンと同等の陸上・海中最強等も彼女は知っている。しかし、彼が望むのはそれよりも更に上の存在だ。
『───"セクメト"・"ヒノカグヅチ"・"オルクス"・"クロウ・クルワッハ"』
「なに?」
『昔、大婆様から聞かされた話にその者等には一切手を出すな。目覚めさせるな、と言われてな。詳しくは知らんが、我々の一族内最強の大婆様が恐れていたのは確か。名前しか知らぬし、居場所も判らぬが……』
「ほぅ……成らば良し。報酬としては十分だ。帰って良いぞ蜥蜴」
『良いのか?子だった我からすれば単なるお伽噺の様な物で確証は一つも───』
「構わん、と言ったのだ。それが嘘か真かはどうでもよい。ただ、俺を楽しませる話であればいい。むしろよくわからぬ方が想像する楽しみが増えるではないか」
『───そういうものなのか?』
エンシェントドラゴンだけではなく、村人達も心境は同じであった。報酬にしてはあまりにも曖昧な情報でも満足そうに笑う九十九はスタスタとこの村から帰ろうとする。
しかし、ここで黙っていなかったのは村人達だ。村人達はエンシェントドラゴンを逃がした事ではなく、むしろ逆に追い返してくれた事に感謝していた。確かに多祥なり不満がある者がいるのも確かであるが……。
転移魔法使いの女性は恐る恐る九十九に報酬について話す。そもそもこれは冒険者ギルドを通しての依頼でもなにもない。むしろ九十九の独断でやっていることなので、冒険者ギルドが関与する事が出来ないのだ。
「何かお礼を……」
「いらん。報酬は既にあの蜥蜴から貰っている」
「そう、ですか。───ですが、またあのエンシェントドラゴンが襲ってくるかと思うと、少し」
「……ふむ。それはそうか」
九十九は女性の不安も一理あると考え、先程飛び去っていったエンシェントドラゴンの脚に魔糸を絡ませ、まるでマグロの一本釣りの如く大きく腕を引き上げるのだ。
『なななっ、なにごと────!?!?』
そうしてエンシェントドラゴンが釣れるのだ、空から。
卵を大事に抱え、辛うじて翼を広げて飛んでいるエンシェントドラゴンはパニックになるしかない。さあ帰ろうとすれば強引に再び同じ場所へ連れ戻されたのだから。
「ここで誓え蜥蜴。もうこの村には手を出さぬと───まぁ、村から手出しをすれば反撃しても仕方があるまいが?」
『わかったわかった!人間から手出しが無い限りなにもしないから!!!』
「うむ。これでよいな?」
「は、はい……」
強引に同意させた九十九は面倒臭そうな表情をしながらも仕事を終えて満足したらしくそのまま村から風の様に消え去ってしまうのであった。