降誕するは天の雫。日月輪の化身は、真なる世界へ顕現す
日本が新たな年号へ変わった約50年後、世界は崩壊の道へ辿った。
地球ではなく人類という世界が、環境が、文化が崩壊したのである。その原因は一つではなく、様々な要因があった。当時を知る者達ならば幾つかは候補に挙げられるだろう。
戦争・自然・核兵器・侵略者・隕石…………。
そのどれか、ではなく複合的な可能性もあり得るだろう。
しかし、消滅したのではなく崩壊しただけだ。
崩壊しても、人類は再び再起する。
だが、これは人類の自業自得も含まれていたが故にその世界には【敵】という全人類共通の存在は無かった。
崩壊し、再起してからの約30年後。
人類は個々に国々を新たに作り上げた。しかし、崩壊前の規模の国は存在はしない。大きくとも崩壊前に存在していた大国の10分の1程度の面積。人類は国ではなく【連合国】を結成する様になったのだ。
それぞれ得意不得意があるが故に、それを補う為だ。
しかし―――――――それから約50年後。
人類にとっての【敵】が現れた。
厳密には、今までこの地球にて天敵が居ない霊長類として君臨していたのだが、その人類の上位なる【天敵】が出没したのである。
【天敵】は多種多様だ。
崩壊した文明に語られた神話や伝説に登場した怪物達。殆どがその神話や伝説は、あくまで創作や誇張したものばかりだと思っていた。が、【天敵】は強大であった。
一夜にして国を滅ぼした怪物。
連合国の軍隊と兵器の大行列を一呑みとする大怪物。
人類の兵器を己の身体の一部にし、人類に牙を向く怪物。
だが、人類も黙ってやられている訳ではない。
そして【天敵】が現れたからこそ、人類は新たな進化を辿ることになった。その進化とは、外見的に目立った変化はない。しかし、その変化は目に見えないものの著しいものである。
具体的に、身体能力向上であった。
更には火や雷を纏う者が現れる。その特異能力を研究し、それを扱い易くする道具なども発明されていく。当初は【火】・【雷】という【原初の二属性】と称されるものしかなかった。恐らくこの三つは人体の発熱から発火。雷は人体に流れる微力な生体電気が増幅、といった元々あった人体の構造が飛躍的に上がった事によるもの。これは身体能力向上による副産物と言えるだろう。
【火】や【雷】以外にも【風】や【光】に【爆】と言った属性を生み出し、既に人類崩壊前よりも人外的な身体能力を有した人類は【天敵】に対抗することとなる。
それが、崩壊から100年後のことであった。
更に月日は流れ、その10年後にある事件が起こった。
星が墜ちた。
厳密には、強大なエネルギーの塊だ。しかし、隕石ではなくただゆっくりと堕ちてきた謎のエネルギーの塊はこの地球を滅ぼすことはなかった。運が良かったのか、そのエネルギーの塊はかつては一つの国だった島国の下の海域に落ちたのだ。
現在では西と東に分かれた島国であったが、その当時の衝撃は凄まじいもの。そのエネルギーの塊が墜ちた際に、あまりの高温な為か台風などの異常気象が頻繁に起こった。
だが、そのエネルギーの塊は人類からすれば資源である。常に満ち溢れるエネルギーは、人類にとって夢のようなもの。原理は不明だが、無限のエネルギーを手にすれば国の安泰だけではなく他の国や【天敵】にも対抗する力を得られるのだ。使いようによっては、他国に有利な立ち位置になれる。
しかし、その無限のエネルギーを狙うのは人類だけではない。人類にとっての【天敵】もそうであった。【天敵】にとって、その無限のエネルギーは己の糧になる可能性もある。更には本能的に、引かれる者達も存在していた。
これが人類と【天敵】―――――――【モンスター】が、その無限のエネルギーを争って戦争が起きた。当初は互いに痛み分けで終わったものの、その後も無限のエネルギーを我が物にしようと国そのものも多数動いている。
争いは継続していく中、その無限のエネルギー。その塊から人型のナニカが現れた。まるでそのエネルギーの塊から生えてきた様に。
そのエネルギーの塊は宝石で例えるとルビーよりも深い赤き色、アルマディン・ガーネットだ。しかし単なる宝石の塊ではなく、決して冷えぬ焔を纏う。更にはその大きさは、直径20メートル。そしてその纏う焔は人類がそれを持ち運ぼうとした器具でも長時間は運べず機器が溶けてしまう。溶岩に生息していたモンスターでも、その皮膚が燃え溶けて絶命してしまう程だ。
大抵、持ち運ぼうとする前には人型のナニカによって阻止されてしまうのだが。
人型のナニカは、まるでその無限のエネルギーを守るかの様に外敵を悉く滅ぼす。故に人類とモンスターは一切手出しが出来ない。だが、どうにかして無限のエネルギーを手にしようと様々な策を練っていく。そんな中、無限のエネルギーだけではなく中にはその人型のナニカを我が物にしようとする者達もいたのだ。
人型のナニカ、それは人類にとってもモンスターにとっても魅了されてしまう程の愛らしくも美しい少女であった。人の言葉もモンスターの言葉も理解しており、彼女を女神や魔女などと呼ばれるようになったのだ。
彼女は、己を【スサ】と名乗る。
何故【スサ】はこの無限のエネルギーを守るのかは一切語らない。ただただ狙う輩は容赦なく駆逐していく。しかし、人もモンスターも日々学習していくのだ。
そしてある国が、そのエネルギーの塊と【スサ】を我が物にしようと計画を練りそれを実行される。この数百年という長い、無限のエネルギー争奪戦に終止符が打たれようとしていた。
この戦いに終止符はつく。歴史的な出来事になるだろう。
が、終止符は打たれるもののそれは皆が想像するものではない。その国が計画が実行されることもない。スサがその国に対して何かをすることもない。
――――――――――ピキッ!
「…………ぉお?」
無限のエネルギー、その塊である真紅の大結晶から罅が入る。その真紅の大結晶は巨大であるが故にその中心に何があるか《・・・》はスサ以外知り得ない。
その罅は、目覚めの前兆。
「おぉっ!もうすぐなのかっ!父上が目覚めるのは――――――」
スサは、母親譲りの黒い猫耳と尻尾を立てている。尻尾に関してはぷるぷると嬉しそうな感情が滲み出る様に震えていたのだ。
その前兆である罅は全体に入っていく。この数百年、守り続けていたスサは漸く産まれて初めて会う父親に待ち焦がれていた。
そうしてこの無限のエネルギー、その塊が割れる出来事は近隣各国。ましてや全世界中に重大な出来事として伝わっていく。更にはそこを守護していたスサまでもが姿を消し、残っていたのはバラバラに砕けていた真紅の欠片のみであった。