【神王】共が集う、厳選の行方
そこは“虚空”であり、“無限”であった。
ある者は、その領域こそが“神域”と称される異空間であり肉体と有する生物。そして欲望を持つあらゆる者の侵入は出来ない“禁域”でもある。
「――――――――して、あの方がお気に召す者達の候補は」
それは雷霆であった。
正確には、雷霆を纏う巨大な球体である。その雷霆は凄まじいものなのだが、何処か穏やかでありつつ大人しい。が、その周りには他にも球体が存在していた。
「リソースを費やしたが、候補は22名だ」
「ふむ。当初は億、いや兆はあった筈だが………………随分少なくなった。古今東西若き魂を集めに集め、数多の異界を用意し幾度もシミュレーションを行ったが、脱落者は多過ぎた」
「しかし、この星のげぇむとあにめを参考としたシミュレーションは我々が考えたよりも比較的に結果は出やすい。が、結果は出やすい分――――――脱落の仕方も著しくはある」
「ですが、ここまで心身共に強い22名の人間が生き残ったのは良い成果です。恐らくこの22名は大なり小なりあの方のお気に召すでしょう。そして行く行くは――――――」
大きな大樹の様な存在に、水の球体、更には炎の塊がそれぞれ今までにない成果を出した事に驚きと興奮を抑えられない感情が見え隠れしていた。
彼等は、あの方のご要望に応える為にあるモノを作り出していた。今までは強きモノは誕生はするものの、あの方の求めるモノには至らなかった。
が、この星――――――――地球の文化、その一つであるアニメやゲームなどを参考にしたのは良くも悪くもソレをシミュレーションしたのは功を奏したのだ。
「しかし、【神王】ゼウスよ。そなた等の七姉妹が育成しているのはぎゃるげぇと称される官能の世界。我、妻と子らも投入しているが―――――――」
「貴殿の協力を感謝する、【神王】テュポーン。かつては敵同士ではあったが、今は頼もしき味方の一人よ。貴殿の妻と子達は、現在候補者と戦闘している。が、かなり苦戦を強いられているぞ」
「ほぅ。それは上々。我が子達が苦戦を強いられる程ならば、嘸かし強き候補となるだろうな」
「しかし良いのか。言っておらんのだろう、我々のことを」
「それは仕方があるまい。あの方のご期待に応える為だ。仮に我々の事を知ったとして、上手くいくとは考えにくい。むしろこの方が上手く候補のモノが強くなる可能性もあろう」
雷霆の纏う巨大な球体――――――【神王】ゼウスの傍らに蜃気楼の如く現れたのは、ゼウスと同等の巨体を有する蒼き蛇龍【神王】テュポーンであった。かつて、敵対同士であり殺し合った仲ではあるが、その神話を知る者が居ればその両者が手を組んだという事実はあまりにも酷く、敵であれば絶望に叩き込まれるだろう。
「――――――で、あるか。しかし想定外とは言え【神王】天照、余計なことをしてくれた。が、今ではよくやったと感謝すべきか」
「私としても想定外でした。まさか、私の力を宿すとは。更には、配置していた【ヒノカグツチ】をその身に封印した。つまり、生きた神殺しに成ったということ。これならばあの方もお喜びになるでしょう」
炎の塊は、女性の言葉でこの結果を大層満足そうにしていた。本来ならば、その過程は余計なことだが、結果は良好。他の【神王】らから責められることもない。
「他に問題は――――――セクメト、か。まさか、半神半人の子を宿すとは」
「ゼウス殿、セクメトは【神王】であるワタシでも手は付けられませぬ。して、一つ提案したいのだが」
「【神王】ラーか。セクメトの件は我々【神王】でも手に余る存在だ。で、その提案とは」
「セクメトを、あの候補者の使い魔にしてはどうかと。人の身で神を使い魔にするのは不味いが、その候補者は神殺し。単なる人間では、もうない。それにセクメトも随分その候補者を痛く気に入っている」
「…………なるほど。使い魔にしセクメトの力を制限を掛け、その候補者に。あいわかった。それが最善だろう。それに断る可能性も低いだろうからな」
黄金の大鳥、【神王】ラーの提案にゼウスだけではなく他の【神王】らも承諾し、受理されることになる。しかし、とゼウスは他の【神王】らが七姉妹の娘達が担当する異界にちょっかいを掛けているのは知り得ていた。
理由は単純、少しでもあの方の為にそれぞれの【神王】らが良かれと思って仕出かしたこと。流石は同じ【神王】というべきか、どれもこれも【神王】達にとって良い方向へ進んでいる。まるで、今までの神でも数える事を忘れてしまう程の幾度の失敗、その努力が報われるかの様に。
【神王】天照に然り、【神王】ヌアザ然り。
故に敢えて口は出さない。
「では、次は【神王】ヌアザの管轄。恐らく候補者の中でも一位候補である人の身で、ドラゴンと成った“ルージュ・シュヴァリエ”の報告を聞こうか――――――」
【神王】らの会議は続く。
そして、22名の候補者にとって悪夢の様な―――――地獄の様な―――――――天国の様な――――――理想郷の様な時に終わりが訪れようとしていた。
それを喜ぶか、嘆くか、絶望するか、或いは変わらぬか。
しかし、確実に現実が始まろうとしている。だが、それは22名の候補達に対して生き残った褒美でもない。
ただ、それは――――――――新たな使命を架せられる、生き残ってしまった憐れな人間・元人間の物語の始まりを告げるものである。