九十九篝はヒロイン②と出会う
領主の館へ辿り着いた俺、九十九篝。
皆さん、何で俺がこんな口調と態度をしているか疑問に思いました?
理由は、簡単。
こんな偉そうで傲慢な態度なら誰も面白くないだろう。むしろ、どんな手段を行使してでも目障りな俺を殺したいと思うものは間違いなくいる。王族とか貴族とか、プライドの高い奴なら尚更だ。俺を殺しに来るだろう。
それを、俺は待っている。
暗殺とか、特殊部隊という組織はまだまだ存在しているのだ。そんな奴等と戦えば、心底楽しそうである。全身全霊、戦って死ぬ確率が高まる、というわけだ。
しかし、あのドラゴンがエンシェントドラゴンだとは思いもよらなかったな。エンシェントドラゴンという存在はテレパシーを操れる、という唯一の特徴を持ち知能も高いので学習能力が高いのだ。だが、あのドラゴンが村を襲っていた理由がドラゴンの子を拐った人間を追い掛けてきた、という事実があるのでこれは国からしても非常に不味い状況だ。エンシェントドラゴンを殺せば、そのエンシェントドラゴンの番と下級のドラゴン……最悪他のエンシェントドラゴンに協力を求め国に攻め込む可能性は高い。だから止めは刺さなかったんだけど……弱いわ、マジで。
腕一本取られるかな♪と思えば数分で終わったよ。
けれども、青薔薇かぁ……。
青薔薇って、貴族直属の秘密組織だからこの領主から無理難題を言われて渋々やっていたとは思うけど……ドラゴンの子は、この状況になるのはわかっていたこと。だから、先に逃げていたのね?
無論、本来のゲーム内でも青薔薇と衝突することはある……けど、戦うのは洗脳したヒロイン達を戦わせて主人公はなにもしないっていう、何とも可哀想なやつである。
青薔薇はルートによってラスボスとなっちゃうので中々楽しみだ。
現段階でどれ程かは不明だけど……青薔薇の総隊長は1ターンに三回攻撃で毎ターン何れかの属性を無効化するチート野郎。
恐らく、全身全霊の俺を殺せる人物の一人だ。
「しかし、中は蛻の殻か」
【悲報】領主の館、無人と化す。
領民達からすれば無責任な話だ。
ていうか、こういうイベントはゲームではない。
と、言うか原作開始は一年後。
俺が二年になってからだ。
もう原作とか関係ないけどねー俺は。
さてさて、このまま【千里眼】を使って領主サマを捕縛し、ドラゴンの子の在りかを吐かせないと……ん?
……既に、領主様とその護衛の方々が何者かに拘束、されてますねぇ。
誰ですか、やりますねぇ?
……俺、要らなかったんじゃ、ないかね?
うーん、とりあえず約束はしてるからドラゴンの子供だけでも取り返すか。
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「領主カッス!お前は領主の義務を放棄したことにより、逮捕する!!!」
銀髪ショートカットの女性は白き翼竜に股がりながら、部下達に拘束され地に押し付けられた領主に怒りを露としていた。領主カッスはわなわなと顔面蒼白で怯えた表情である。そして一人の団員が上司である銀髪ショートの女性に報告を行っていた。
「リベリア団長。領主カッス他、護衛の騎士全員捕縛しました。そして荷物の中にこんなものが……」
「な、にっ!?」
団員の一人が手に抱えていたのは大きな卵だ。
その卵を見た瞬間、白き翼竜は悲鳴を上げる様に卵から離れようとする。その様子から銀髪ショートカットの女───リベリアはそれがドラゴンの卵だと理解するのだが、自分の相棒である白き翼竜が怯えるということはドラゴンの中でも高位なる存在の卵だと察したのだ。
「まさ、か……村にドラゴンが襲っていると聞いてたが……」
「えぇ。恐らくこれが原因かと」
「……不味いな。今返したとして怒りが収まるか?上位のドラゴンは仲間意識が非常に高い。それが子供であるなら尚更だ。もし、これがエンシェントドラゴン等のバケモノなら……」
その場にいた誰もが冷や汗を流す。
今、ここで何故この卵を持っているか等聴いている暇はない。彼女達、王国騎士団は冒険者ギルドからの緊急要請により村を襲っているドラゴンを食い止めるのと、責任を放棄した領主の捕縛に分かれていたのだ。
原因が判明した今、一刻の猶予を争う。
このままでは王国が、と誰もが絶望している中、空から一人の人物が舞い降りたのである。
「……まさか王国騎士団とはな」
「キサっ────君、は……」
リベリアはその人物に警戒して剣を抜いてしまうが、直ぐ様それは無用に終わってしまう。
彼女は、知っていた。
───いや、無意識に記憶を奈落の底へ消し落とした筈だったのだ。だからこそ、フラッシュバックの様に狐の獣人の彼───九十九篝との愛し合った日々が発火させてしまう。
右目はかつて、己の不覚でモンスターに斬り付けられ失明し今はその瞼を開くことのない筈。しかし、九十九と出会った瞬間、閉じられた右目の瞼の隙間からツーと涙を流していた。
「しかも王国騎士団の団長も、か。なら話は早い。それを寄越せ」
「誰だお前は……いや、その服装は【ヴァールリ学園】の学生か。何故こんなところに───」
団員達も何故【ヴァールリ学園】の生徒がいるか不思議に思うのも仕方がなかった。何せ今は午後ではあるが、未だに授業はある筈なのである。恐らくサボっている、とはわかるがよりにもよってこの場所にいるかだ。
「ドラゴンに頼まれたのだ(頼まれてない)。我が子を返せ、とな」
「はぁ?何を───」
「相手はエンシェントドラゴン。さっさと返さぬと面倒なことになるぞ」
「「「!」」」
エンシェントドラゴンという発言にその場の団員達は戦慄が走る。しかし、その可能性は高いとはいえ素直にはいそうですか、と卵を渡すわけにはいかないのだ。本当に彼が事実を言っているかも不明だし、仮に事実だとして本当にドラゴンに卵を返す保証はどこにもない。
「それは、事実なのだな?」
「……チッ、嘘を言って何になる。現に村では今にも暴れだしそうだぞ?」
露骨に心底嫌な表情で団長リベリアの確認に九十九は事実だと答える。彼女にとってその拒絶に似た表情はみっともなく泣いてしまいそうになるのだが、それをグッと堪えた。
「わかった……だが、念の為私が共に行こう」
「団長!?」
「彼はまだ学生だ。もし何かあれば困るからな」
学生を守るとも王国騎士団の務めだ、とリベリアは言うが実際にはこれは単なる口実。ただ、九十九と一緒に居たいだけである。しかし彼女が言っているのも一理あり彼一人何を仕出かすかわからない。ならばその監視に団長が行くのであれば何の問題は無いだろう。仮に大人数で向かえばエンシェントドラゴンに要らぬ刺激を与えてしまう可能性がある。行くなら最小限の方がいいのだ。
「さあ行こうではないか。私の相棒"ハーツ"と共に」
「きゅう!」
リベリアの相棒、白き翼竜ハーツはその容姿に合った愛らしい声で一鳴きすると、九十九に顔を近付けようとするのだ。それを見た団員達は動揺を隠せない。
ハーツはリベリアしか、なつかないのだ。ハーツは『賢竜』とも呼ばれる高貴なる竜。人の言葉を理解し、コミュニケーションを図る人と共に出来る高位なる竜である。しかし、今はエンシェントドラゴンに及ばないが、ハーツもエンシェントドラゴンと成れればかなりの実力となる。そんなハーツになついている九十九であったが、彼にとってただただ不愉快でしかなかった。
「軽々しく触れるなよ、"賢竜"。殺すぞ」
「きゃぅぁっ!?」
「「「なっ!?!?」」」
一睨みをしただけでハーツは泣きそうな声でシュンっとしてしまう。しかしそれは、ハーツの怒りを起こさせてしまう最悪な状態であったが、それを九十九は威圧で無理矢理抵抗も全て黙らせた。
「な、何を……」
「王国騎士団。キサマら等必要ない。さっさと国へ帰るがいい」
周りを威圧で黙らせた九十九はいつの間にかその右手に白き卵が納められいた。そして威圧によって恐怖にすくんだ団長リベリアとハーツ、そひて他の団員達を尻目に九十九はエンシェントドラゴンがいる村へ一人で向かうのであった。