九十九篝は、理解した
お久しぶりです。
何とか、この作品のヒロイン的な人物が決まりました。……いやぁ、長かった。
ウォルタガ大国の将軍三名・副将軍八名が殺害。
その他何百人もの軍人が、忍びの小娘『黒き悪魔』によって殺戮された。
が、その『黒き悪魔』を撃退したのはアルカイオス将軍。
流石はウォルタガ大国の中で最強角の一つ。
けれども、アルカイオスも無傷では済まなかったらしい。
……と、いうのが俺が聞いた情報だ。
ぇ、その情報主はって?
勿論、 トゥールからだ。
本当はその戦いに参戦したく、トゥールを女体化して誘惑していたんだけど……無理でした。誰だよ、女は美貌が武器だって言った奴。全然ダメじゃねーか!
戦いはあっさり決まったかと皆は思っているだろうが……違う。確かにあのアルカイオスに傷を追わせたのは凄いだろう。称賛するだろう。何せ、ウォルタガ大国の中で最強角だからな。
……が、実際は『黒い悪魔』?っていう忍の娘はアルカイオスは倒せないと判断して撤退したんだろう。
アルカイオスが最強と云われるのは『五大属性』を二つ持っているからだけじゃない。
彼奴は純粋に、バケモノだ。
心身共に。
何度か戦ったが、致命傷を喰らわせてもピンピンしてやがるし。しかも決して折れねぇ不屈の心。最初はあんなイカれたチート野郎の精神が理解できなかったが、今の俺はわかる。
彼奴は、今の俺と同じ戦闘狂だ。
どんな攻撃でも正面から受け、どれだけ卑劣な手でも卑怯ではなくそれが面白い戦い方だと認知する野郎。
騎士道精神なんて無い。
只、面白いか面白くないかだ。
例えるならゲームをプレイする際、勝たないと面白くないと考えるか。或いは負けても悔しいが、それをもゲームの楽しみ方と考えているか、の違いだ。アルカイオスは間違いなく後者。あの野郎、敵相手に勝っても称賛しか送らないからな。
最後に殺された時もそうだ。
貴殿の何かを守ろうとする強い意思、誠に天晴れであるっ!だとよ。どうせ『黒い悪魔』っていう厨二病みたいな奴にも最後に称賛でも送ったんだろうな。
はてさて、一日で戦いが終わったのは仕方がないとは言え参戦できなかったのは悲しいものだ。
しかし、将軍三名と副将軍八名を殺害した『黒い悪魔』とは何者だ。忍の娘、というのしか詳細は不明らしいが……と、察しの悪い俺ではない。
忍、というワードで浮かび上がったのはヒロインの一人『アヤメ』だ。彼奴も黒装束に身を包んだ忍。両目以外は全て隠しているのが忍なので、実際に『アヤメ』かどうかはわからん。トゥールと同じ年で、来年から入学してくるとは思うがな。だが、あいつにそんな力はあったか?アルカイオスとは相性最悪な筈。恐らく、というか確実に殺されるだろ。
……それはともかく。ウォルタガ大国が今ピリピリしているが戦力も大幅に失った為戦争をすることは無い……とは思う。しかし、ぶちキレて『テメーらがヤったんだろぉん?』みたいな感じで先に仕掛けてこないとは限らん。けど、何せあの国の最高戦力はアルカイオスだけじゃないからな。
「アルカイオスが攻めてくれればいいものだがな」
「そんな物騒な事言わないでくれるかな!?」
おっと、トゥールに怒られてしまった。
現在、九十九篝はトゥールの仕事部屋に入り浸っています。トゥールが仕事している中、俺はソファーで寝転がる。いやぁ、ふかふかでありますなぁ!
トゥールは仕事してるが……うーん、大変そう。やっぱ王子とは云え幼い頃から王子の仕事はしなくちゃね!そりゃぁ、何度もループしてたらねぇ?
「大変そうだな?」
「一応『五大属性』の"風"の使い手ですからね。魔法の研究もしてますから」
「ほぉ……」
「で、先輩は……その、何でここに?」
「いや、お前の傍に居てたら暗殺者とか狙われるかなーとな」
「何で僕が暗殺されると」
「第二王子だし。貴様の兄や妹らが何かしてくるかもしれんだろう?」
「いえ、兄妹とは仲が良いよ。むしろ皆兄上が王になるよう尽力して……」
「なんだ、つまらん」
「いやいやいや」
ほんと、つまらなーい。
ここ最近、暇でね。
情報収集としてヴァッカスやトゥールの場所へお邪魔しているのだ。無論、お邪魔しているからには何かしら仕事はしているがな!一応トゥールの友達という事で入室を許可されてる。突然入る前に身体検査とかされるけどな。
それにしても……暇だ。
一応明日は店長と飯食いに行くから予定はある。そしてネメアはと言うと、俺の家で留守番中。朝から昼まで毎日修行で明け暮れて疲れてるからな。それに夕方にはギャル達もやってくるだろうし……。
あ、そうだそうだ。
「で、前に言っていた件はどうなっている?」
「第三団長リベリアさんが襲われた件だね。どうやら助けた人がいるらしいけど……」
「で、その者は」
「どうやら御父様である王に用があったらしいんだけど、案内しようとしたら……その、行方不明なんだって」
「はぁ?」
話によるとリベリアが敗北した相手を倒した人物は槍を持った中性的な奴だったらしい。その者はこの国の王と話があると言い、念の為に案内をした様だ。どうやらその人物、俺の祖国の使いらしい。無下にも出来ず、とりあえず王宮へ案内したのだが勝手に突っ走ってしまった、とのこと。しかも案内とは真逆の方向へ行ってしまった。相手は戦車を引く二頭の馬とは言え、凄まじいスピードで案内が言葉を発する前に消え去った……って、誰だよ方向音痴にも程っていうものがあるだろう。絶対間違えてるよな、使いを向かわせたの。
少しは興味を抱いてはいたが。
トゥール曰く、リベリアと賢竜は一命を取り留めたらしい。
で、事情聴取をしたらしいが……。
襲った相手、ネメアだろ。
……いや、何となく察してはいたさ。
只でさえ、俺から女神の臭いとか言ってる位だし。
ネメア自身、何が目的なのかは不明だけれど、とりあえず俺を殺せぬ限り他の奴等の相手するな、と釘は刺しておいた。勿論、『あたりまえ!』と豪語してたな。うむ、夜な夜な不意討ちしてけるが、寝技で対象出来るし。
はぁ……なにスッかなぁ。
「先輩」
「なんだ」
「リベリアさんは本来助からない筈でした」
「……ほぅ」
「何者かはわかりませんが……襲撃者から受けた傷は致命的で、持って数週間と聞いていました。王宮専属の医師や治癒師達でも手の施し様がないと……」
「……」
「けれど、いつ死んでもおかしくなかったリベリアは突然脅威の回復を遂げました。その回復があった前夜、一人の見知らぬ女性の目撃があったと報告が……」
「……で。何が言いたい」
「先輩……ですよね。リベリアを救ったのは」
…………相変わらず、面白い推測だ。
全く……女の時より男の方が様になっているじゃないか、トゥール。単なるお転婆娘だったのに……これが、ループの結果、という訳だな。
結論から言おう。
確かに俺はリベリアと賢竜を治療した。無論、魔法でなのだがな。誰にも気付かれずにこそこそやったんだが……気配に気付くとは。恐らくあの場にいたのは第一団長か……いや、総騎士団長だ。
総騎士団長……つまり、この国の最強戦力。かつて俺が第四団長だった時に、戦死した爺だ。今は総騎士団長として現役なのは確認済み。
あの爺が戦死した理由は……ぶっちゃけ寿命だ。戦争時に死んだのだが、実際は老いと寿命に勝てなかっただけ。誰にも敗北する事はなく、その生涯を終えたのだ。で、その爺の後を継いで俺が総騎士団長として役目を任されたんだが……。
自慢じゃないけど、歴代最年少だったんだぜ?
総騎士団長になったの。
けど、今でも思うのだが……あの爺には勝てねぇとは思う。歴代最年少で総騎士団長になった俺だが、その前の爺は歴代最強の総騎士団長だ。
……ん?
じゃあ、その総騎士団長と殺し合えば……だって?
いやぁ……それは一度考えた事はある。が、リベリアとの結婚する為に色々とお世話になった恩人……というか師匠でもあるからな。恩を仇で返すのは……うん。
それに……あんま関わりたくねぇーんだ。
だって最近、爺に『ワシの部下にならんかの?の?の?』とウザってぇ絡みをされるんだよ。この王宮に来た時にな。もし仮にあの爺に目撃されてた、って考えたら……そうか。俺を勧誘するのは仕方がない話か。うーん、嫌。
「先輩」
おっと、そだった。
久々に懐かしい記憶を掘り返していて長引いてしまった。
で……なんだっけ?
あ、そうだそうだ。リベリアのことね。
「仮にそうだとして……何か問題があるのか?」
「……いえ、むしろ第三団長を救ってくれてありがとうございます。けど」
「けど?」
「……恨んで……いないんですか?僕も人の事は言えないけど、その。僕……いいえ、私達は何度も、何度も篝さんを裏切った。己の意思ではないとは言え、私達は許されない事をしたんです。けど……最近思うんです。かつて篝さんを愛していたことも、今この罪悪感は仕組まれていたものじゃないのかって……。篝さんを愛していたこの感情も、偽りだったんじゃないかって」
「……」
「そんな酷いことをしてきた私を何でこんなに親しくしてくれるんですか。篝さんを陥れたリベリアさんを何故救ったんですか。何で…………何で、酷いことをした私達に復讐をしないんですか」
何故……か。
単なるゲーム感覚だ。
けど……どうなんだろうな。
たまに、俺自身が何を思って行動しているかわからない時もある。その例がリベリアを救ったことだ。我ながら愚かだと思う。馬鹿者だと思う者もだろう。
だが。
だが、だ。
少し昔の事を振り返ると、確かなことはある。
何度もループしていて、ゲーム感覚なのは確かにあった。
それでも。
それよりも、何より。
「……ふ、ふふ……ふはははははは!!!」
「篝、さん……?」
「何知れたことよ。例え、貴様らが前の俺に偽りの愛を、想いを抱いていたとしても。その時の俺は確かに貴様らを愛していた。ならば、ならば……だ。どれ程愚かな前の俺だろうが、俺は俺だ。昔も、今も……。そうなれば、前の俺の想いを踏みにじる訳無かろう?」
「───っ」
「今の俺がいるのは過去の俺がいたからだ。だが、勘違いするなよトゥール。俺は俺の為にしただけに過ぎん」
そうだ。
俺は過去の俺の為にリベリアを救っただけに過ぎないんだ。
別に愛しているという感情は、リベリアの手によって陥れ、死んだ時に死んでいる。だが、死ぬ前の俺はそれは大層愛していたんだろう。今となっては、その感覚というか、感情はほぼ無い。やはり、ループしてるとは言え、死ぬのは命だけではなく魂もなのだろうな。
これは、単なる綺麗事なのだろう。
けれど、過去の自分までも裏切りたくはない。
確かに、俺は何度も彼女達を愛していた。
そうでなければ、俺は彼女達の想いが偽りだった事にショックを抱くわけがない。自分の子供だと思っていたのに、それは偽りだった事を心底絶望する訳がないんだ。
だが、今はもうその想いはない。
今回ループする前に完全に死んでしまったのだろう。
「……ほんと、貴方は」
「トゥール。貴様にこれをやろう。受け取れ」
「なんで、す……か……ッ!?」
俺はそれをどうするか困っていた。
元々、かつて俺の愛剣の一つだったが……実際の所最後の最後まで使いこなせず、更にはそれ本来の力を引き出す事が出来なかった。結局、宝の持ち腐れだったそれを適正のある第一団長の息子に与えた事もあったが……結局、それを使いこなす奴は一人も現れなかったんだ。
試しに今回も使いこなせるか……と思ったが、実際は今までよりも非常に使いにくくなっている。原因は一つ。俺の中に宿る"ヒノカグヅチ"との相性が悪いらしい。
トゥールは布に包まれた長袋の中を見て驚愕に染まる。
「な……何を言ってるんですかッ!?こ、これは……」
「なに、俺の気紛れだ。貴様も知っているだろう。それをな」
「知ってるも何も……これは、『聖剣カリバーン』。これ、は、篝さんの……」
「既に俺のものではない。トゥール、貴様にやると言ったのだ。まさか……『大和国』・『出雲家』の長男が与えたものを受け取らんとは……そう言わぬよな、トゥール」
「……でも」
「女であった貴様は前々から剣を握りたいと願っていたではないか。それに、今己に合った剣が無いのではないか?」
「……そう、ですけど」
「日頃見る度に携える剣が異なっているからな。気に入った剣ならば四六時中携えるか近くに置いておきたいだろう」
「……相変わらず、そういうところよく見てますよね」
「あくまで推測だがな」
そう言うも口元を抑えてくすくすと笑うトゥール。いやお前、まだ中性的だからいいけど大人になったらオカマだぜ。そういう癖ってループしてるとついてしまうものなのかね?
「わかりました。受け取りましょう、出雲篝殿。ですが、ここで誓わせてください」
「む?」
「貴方に貰ったこの『聖剣カリバーン』に誓って、貴方を守れる存在になると。ただ守られる弱き者ではなく、貴方と対等になれる様に───強くなる、と。勘違いしないでくださいね。これは、僕自身が決めたことですから、ね?」
「───」
「僕は王族の一人ではありますが、かつて篝さんが席に着いていた『第四団長』の座を……僕が着きます。元々空席でしたからね」
「……良いのではないか。今の貴様ならば、その席を全うできよう」
「ありがとう……篝さん。いえ、先輩」
……少し、少しだけ、楽にはなった。
過去のことは囚われる事はない。
けど、ま───自分を見返す良い機会だったかもしれないな。
矛盾しているのは、俺も理解している。
いや、これは矛盾というべきかはわからない。
だが、こんな風に気紛れに行動するのはイヤじゃない。結局のところ、俺はトコトン人助けをするキャラなのは変わらないのだ。けど、それ以上に俺の願望は捨てることはない。
「……さて、今日も風俗に行ってくるか」
「……今いいところじゃなかったですか?」
「何だ、貴様も風俗に行くか。男になったのならば女の一つや二つ経験しておけ」
「(かつての旦那様がヤリ○ンになった件について)」
「……何渋い顔して泣いている?」
総騎士団長=第一団長ではありません。