九十九篝は、知った
王子を送りに行く道中、特に問題なかった……つまんねぇ。
王宮にはトゥールの従者らしき女性メイドが待っており、ここでお別れだと思いその場から離れようとしたのだ。が、家に帰ろうとした俺を引き留めたのは、トゥール。なんだよー?
「先輩、僕の部屋に……来て欲しいんだ」
「……何故だ」
「どうしても、なんだ。だめ、かな……?」
上目遣いでねだってくるな、トゥール。
何気に後ろに待機している女性メイド。全員美女美少女なのだが、なんか俺とトゥールの二人を目に焼き付ける様にガン見した後に「キャ~~~っ♪」とか言うな。あれだよな、多分───腐ってんだな?
「お願いっ先輩!」
「……わかった」
「やたっ!」
行くだけ行くか。
特に用事は───あるけど、つまらんことなら即帰る。
で、だ。
何故、鎧を脱がされて手を引かれてしまうのか。
鎧を脱ぐのはわかる。けど、何故手を握りながら?余計に女性メイド達は頭が腐っているのか、変な事をぶつぶつ言ってくるんだよ……勘弁してくれよ。
そうこうして───何か、連れ込まれた様にしてトゥールの部屋に入った俺。まあ……それほど部屋の中は豪華ではないな。貴族としては普通かな、たぶん。
「で、何様だ」
「ちょっと、待っててね先輩」
するとトゥールは風を起こしたかと思うと、この部屋全体に強固な結界が現れたのだ。しかもその結界は、恐らく外部からは気付かれない程の精密なもの。
一体、なんなんだ……?
「……これで、よしっと」
「トゥール、一体何を───」
「久しぶり、ですね。篝さん」
────は?
────え、待て。
篝さん、だと……?
しかも、今のトゥールの雰囲気……まさか……。
「誰だ、貴様」
「……私です。トゥールですよ。篝さんの……妻だった、あの時のトゥールです」
「……」
まさか、だとは思ったがな。
してやられたな。完全に別人だと思っていた。だって、男だし。雰囲気とか、イメージ的にも違ってたからな。何度もループしている中で登場人物の性別が変わってたりするのか、的な感じで考えていたんだ。
抜けてるな、最近の俺……。
「……で?」
「ふふっ。その様子、覚えいるようですね」
「トゥール、貴様は───」
「どんな罵倒でも受け入れましょう。ですが、一つお聞かせください」
「何だ」
「……私との、最後の時を覚えていますか?」
最後の時。
つまり、最後にトゥールと結婚して、その最後の結末か。
んなもん、お前に殺され────て?
いや……待て。
俺、覚えていない。
だが、俺はトゥールに殺されて……でも、どうやって殺された?いや、そもそも───覚えていないのに、何でトゥールに殺されたと決めつけていた?
「俺、は……」
「やはり、そうでしたか」
「どういうことだ」
「記憶を消されたのです。あの人によって……」
「なんだと?」
「あの時、私と篝さんは追い詰めたのです。ですが、最後の最後で……私達は、倒れてしまった……」
どういう、ことだ。
俺とトゥールが……追い詰めた、だと?
あの人……まさか、散々NTRってきた主人公をか!?
いや待て、よくできたな?あの主人公って毎回毎回違ってるぞ。しかし、何故覚えていない───のは、記憶を消されたのか。マジか、全然覚えてねぇ……。
や、しかし!
トゥールの発言が真実とは限らない……。
「それが真かは───」
「あなたには、もう一人会ってほしい方がいるんです」
「もう一人……?」
え、誰?
てか、この場に誰かいるのか?だって、この結界めちゃ強固だから外部から入ってこれないぞ。しかも、このトゥールの部屋に隠れそうな場所なんて───。
と、辺りを警戒していたのだが、突然トゥールの背中から控え目な白き翼が出現する。その白き翼は、見覚えがあった。
リベリアと奈瑞菜が女神になった姿と同じなのだ。
───ああ、そうだった。
確か、女神は言っていたな。
七姉妹、と。
ヒロイン七人は、女神の分身体なのだ。
……くそっ、俺本当に抜けてるな。
まあいい、女神とは言え強者なのだろう。
ここで戦い、死ぬのは俺の本望────。
「───九十九篝様。七姉妹の一人が末妹として、謝罪させてください。私の名は"メロペー"……ごめんなさい。貴方を散々苦しめた女神の言葉等聞きたくはないでしょうが……」
「女神、か」
トゥールの目が蒼眼から碧眼に変わった瞬間、メロペーとかいう女神から謝罪を受けた。正直、へ?である。戦闘でも起こるのかと身構えていたのだけど……どういうことだ?意味わからんし、頭の処理が追い付かん。
「安心してください。私は貴殿方の味方です」
「何を根拠に───」
「覚えていないでしょうが……せめて、私の記憶を」
トゥールの姿をした女神メロペーは両手から幾つものフィルムが絡まらず、織り込まれた球体を差し出したのだ。そのフィルムにはうっすらと俺とトゥールの姿があった。しかも、俺とトゥールは"誰か"と戦う場面───加えてトゥールが、今目の前にいる女神メロペーと成って戦う姿もあったのだ。
「真か、これは」
「ええ。私も対抗しましたが……申し訳ありません。最後の最後で……」
……わかっている。
その"誰か"を倒したと気を緩んだ瞬間に、心臓を貫かれているな。いやーん、グローいっ♪しかし……マジか。いや……ほんと、マジかぁ……。
「信じて、くれましたか?」
「……ああ」
まあ、仕方がない。
信じてやろう……今のところは。
で……困ったな。フィルムを通して分かったんだけど、和解してるなトゥールと。そしてこの女神メロペーもだ。そして協力してその"誰か"を追い詰める事に成功して、あと少し……で、か。しかも、その時の俺───成功したら、一からやり直して恋人どうしになろうって約束してるじゃん。えー、マジでー?
少し、何とも言えぬ様子に気が付いた俺に元のトゥールが女神メロペーから変わって、少し気まずそうに話す。
「……男になっちゃった」
「仕方があるまい」
「……ごめんね」
まあ、うん。
何か……うーん。
どう思うかは人によるけど……嫌悪感は、今のところは無いな。まあ、よりを戻す気はない……というか、相手は男になってるからネ。結婚とかそういうのはまず無理だろう。
すると、トゥールは何やらもじもじしながら俺に近付いてきたかと思うとそのまま俺の胸にぽふっと顔を着けた。なんじゃいな?
「ごめん、ね……」
「なんだ」
「───あの時、次は私も、篝を守るって、言ったのにッ!守れ、なかった……ッ」
「過ぎた事だ、気にするな」
「……うん」
まあ仕方がないんだよ。まあ、どんまい?
しっかし……トゥール。お前、本当に男か?いや、本当に男装した姿にしか見えないし……しかも、身体やわらけぇ。まあ、人の事言えないけどな。
けどな……一番、問いたい事がある。
「メロペー、と言ったな」
「───はい」
おぉ、直ぐにトゥールから女神に!何ちょっと、ちょっとだけかっこいい。変身シーンみたいな?
「何故、味方をする」
「そう、ですね……私はそもそも、"この計画"は反対だったのです。ですが……その、恥ずかしながら抵抗したものの強引に封印されてしまい───」
「大体理解した。もうよいぞ」
何だろう。
俺、兄弟いないから分からないけど多分大変だったんだろうね。一番下って、甘やかされてるイメージが強いけど……うん、上の姉に反抗しずらい様子ですな。
「でも、篝さんが覚えていないなら……」
「なんだ?」
「……あの時の篝さん、"あの人"の正体を知っていたと思うんです」
「ほう?」
うん、でも俺覚えていないヨ?
……え、ちょっ、マジ?
「何故そう思った」
「あの時……篝さんが、言っていたんです。『お前だったのか!』、と」
……誰だ?
うーん、めちゃ気になる。
お前って……結構言うかも。
しかし……記憶を消す前の俺は、知っていたのか。不味いな、全く覚えていないなら、打つ手なし。あったとしても、トゥールに聞きたいのだがトゥール自身は知らないのだ。
けどね?
俺は、どーでも言い訳よッ!!!
ま、驚きはしたが、それまでだ。
俺の目的は変わらないさ!
誰であろうと、関係ない。気になりはするが、そこまでだ。その誰かが強いのならば、面白いではないか!!!
「トゥール、お前が言いたいのは何だ?」
「……そう、ですね。もし、あの時の記憶を覚えていたのならその人を見つけ出して殺す。ただそれだけです。篝さんは───何をする気ですか?」
「何をする気……か。貴様には関係無いだろう」
「一応、友達ですよね?」
「戯け。貴様は───」
「わかってます。幾ら洗脳をされていたとはいえ、結果的にあなたを深く傷付けてしまったのは変わりありません。私は弱かった、ただそれだけ。あなたの邪魔はしませんから」
「わかればよい」
「ですけど、学業を疎かにするのはどうかと」
「俺の勝手だろう」
何だよトゥール。
諦めた目で見るんじゃねーよ。
全く……わかってるのならまあいいや。邪魔しない奴は俺の好感度上がるよ?まあ、Maxにはならんけど。
で……一番、俺が知りたい事を聞かなければならない。
「女神メロペー、他の姉妹達の目的はなんだ」
「全ては知りません。ですが、一つ解っている事があります。それは……」
「それは?」
「……怪物達の祖とも父とも呼ばれる"怪王テュポーン"。かつて、我等が"神王"と肩を並べる程の存在を私達七姉妹の主は躍起になっているのでしょう」
「"テュポーン"……だと?」
知らん知らん。
何だ、その新たな設定とか新キャラは。
アップデートでもありました?しかも大型アップデート?何か俺が知ってる物語から、世界が広がり過ぎてね?正直、もういいよ、お腹一杯だぞ?
……てか、何で今なんだ?
これまで何度もループしていたが、そんな話は無かった。
「メロペー、何故今なのだ」
「端的に述べますと、その"怪王テュポーン"の封印が一つ解けてしまったのです。封印は私達、七姉妹が施していたのですが……その、七姉妹の一人長女のマイアが、殺されたのです。七姉妹全員が封印を保つ事で成していたのですが、一人欠けてしまった為に"怪王テュポーン"の封印が解かれたのです」
「ほぅ。ならば、そのテュポーンとやらが現れると」
「いえ、テュポーン自体は封印されたままです。ですが……"怪王テュポーン"と共に封印された"七体の怪物"の一つ、"怪王テュポーン"の妻である"蛇姫エキドナ"が解放されたのです。その"蛇姫エキドナ"が己が産んだモンスター達を、私達七姉妹の分身体を狙っているのです」
「……ふむ」
要約すれば、そのヤバい奴の奥さんが旦那の封印を解こうとヒロイン達を狙っていると。へぇ、つまらん。何だよ、俺じゃねーの?主人公じゃねーからダメなのか?
てか、情報量多いが───聞き捨てならんことがひとつあるな。
「死んだ、だと?」
「……はい。恐らく、分身体によって何らかの手段で殺されたのでしょう。マイア姉様の分身体は、『アヤメ』様でしたね」
そう、最後の七人目のヒロインはトゥールと同じ一つ下後輩のくノ一のアヤメである。大体皆が想像できる格好はしてるな。にしても、アヤメに関しても最後の時は覚えてない。……そういうこと、なのか?
はぁ……だが、面白い事を聞けた。
テュポーン。怪物達の祖でもあると聞いた。
……全く、飽きさせないな。
「"テュポーン"……それの居場所は」
「何をする気ですか────まさかっ、テュポーンと戦う等と思っているのですかッ!?!?アレは次元が違いますッ!我等の"神王"でさえ、小細工をしなければ勝てなかったバケモノですッ!!!」
「尚良いではないかッ!万が一、勝てないと判断したとして───最悪、この力を使ってやろう。それが、格上に対する礼儀というやつだ!」
俺は、女体化させて身体の中に眠るヒノカグヅチの力と己の力を融合されて生み出された新たな力を呼び起こす。炎の衣に纏い、そして手には灼熱の太刀を握り締める。……俺の都合のいい解釈かもしれんが、今のこの姿は、この力は俺自身のものだと自然と理解しているのだ。ヒノカグヅチのなのにな。因みにヒノカグヅチはグースか眠っていやがる。男の時の俺には干渉する気はないらしい。が───多分、俺が女体化したら暫くすると起きるぞ。いつもそうだもん。
「なッ────その力、【神命:天照】!!!」
「ほぅ?【神命:天照】……というのか。覚えておこう」
「何故、その力を────まさかっ、ヒノカグヅチを取り込んだ影響で……」
「細かい事は捨て置け。俺が有する、全ての力を使い全身全霊で戦おう。さて、テュポーンは何処だ?」
「……わかりません。封印はしましたが、何処にいるかまでは」
何だよ、つかえねー。
「ふんっ、まあよい。メロペー、貴様俺に謝罪の意志があるなら一つ条件を飲め」
「なんでしょう……?」
「"怪王テュポーン"、そしてその親族等が現れれば随時俺に報告しろ。出来るであろう?」
「し、しかし───」
「飲めぬ、と言うなら仕方がない。今ここでトゥールと共に殺せば───更に封印が解けば、活発に動くであろう?」
「────わ、かりました」
うんうん、脅迫だけどごめんネ?
本気に殺ろうとは思っていないが、ガチトーンで言えば何とかなるネ!
さて、言質は取った!
むふふっ、報告が楽しみ☆