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九十九篝はドラゴンと戦う



冒険者ギルド。


それは冒険者という狩猟・探索・採取の依頼を受ける為の集会場であり、王族や貴族・商人や村人まで幅広い者から依頼を出されている。


冒険者になるには13歳以上と、この世界で成人すれば誰でもなれるのだ。しかし、それでも依頼を受けられる範囲は決められている。


ランクというものがあるが、上から『★5』・『★4』・『★3』・『★2』・『★1』・『☆3』『☆2』・『☆1』という星の数で区分されているのだ。『★』と『☆』の違いは、『★』はモンスターの狩猟・討伐等の危険性が大きい依頼が主だ。『☆』は探索・採取のみであり、基本的に危険性は低いが『☆3』になれば地形等が複雑だったり、モンスターの遭遇の可能性がある場合だ。


危険性に伴い、依頼の受注時に契約金を払わなければ依頼を受ける事ができない。その契約金は依頼に失敗すれば違約金として返金されず、成功すれば契約金の約三倍報酬として手に入れられるのだ。



「お願いですっ、村を、村を救って下さい!」



冒険者ギルドに一人の女性と子供が悲痛に叫んできた。


冒険者達は彼女達を知っているのか、見てみぬ振りだ。



「村にドラゴンが現れて、誰か、村を───」



ドラゴン。


生物上最強のモンスターとされており、様々な種類はいるが最低でも『★4』はある。『★4』は冒険者の中でも異質の中の異質と呼ばれる程、規格外の存在。しかし、そんな規格外の冒険者達は大抵高難易度の依頼を受けて日頃からギルドにいなかったり、或いは王族や貴族から直属の依頼を受けたり、と常に居ない状況なのだ。


だからこそ、この場にいる冒険者達にとってドラゴンをどうにかしろ、というのは死んでこいと同義なのである。なので冒険者達が目をそらしてしまうのも無理はない。己の力量を理解しているからこそ、懸命な判断なのである。彼等を責める理由にはならないだろう。



「★4から★5の冒険者はこちらから収集します。部隊を編成するまで、速くても早朝でないと……」


「そんなっ!今じゃないととても間に合わない!」


「お気持ちはわかります。ですが、何の準備も無く冒険者達を向かわせることは出来ません!!!貴女達の領主は何をしているのですか!?」


「領主も、領主の騎士達も、既に逃げて……」



領主というのは、地球で言う船長の様に最後まで領民を避難させる義務がある。それこそが領主にとって最大の責任だ。領主は残り、その家族は先に避難するのは問題ないが、領主自身自ら先に領民を残して逃げると言うことは責任義務を放棄したこと。


由々しき事態である。


その事に冒険者ギルドの受付嬢は同情するしかない。


しかし、そんな状況に一人の人物が声を上げたのだ。



「ほぅ、ドラゴンとな?」


「あなたは……その制服、【ヴァールリ学園】の───」


「女、そのドラゴンは強いのか」


「は、はい……」



その人物───九十九篝は非常に面白そうな表情をする。それは待ちに待った強者との出会いが訪れて嬉しそうにしているのだ。



「ならば、お前の村まで案内せよ」


「えっ!?」


「一刻の猶予もないのであろう?ならば、さっさとしろ」


「そ、そんな……あなたはまだ、こども───」


「鬱陶しいぞ、女。二度まで言わすなよ」



その怒りに満ちた九十九の容姿からは想像つかない程、低い声に母親は思わず悲鳴を上げそうになってしまう。この場にいる冒険者達も九十九の異様な存在感に誰も口出せずにいた。



「わ、わたし、転移魔法が使えるので」


「よし、ならばさっさと転移せよ。時間が惜しい」



どうやらこの母親は転移魔法の使い手らしい。なのでここまで母娘だけでやって来て助けを求めてきた、ということだ。すると母親の後で怯えた様子で九十九を見ていた小娘は恐る恐る顔を出していた。



「なんだ、小娘」


「っ!?」



娘はサッと顔を母親の背に隠れてしまう。最初は人見知りか、と思っていた九十九であったが、実際は九十九の威圧に怯えているに過ぎなかったのは彼にとってどうでもいい話。



「で、では、転移魔法を」


「うむ」



そうして、母親は娘と九十九と共にドラゴンの被害を受けた村へ転移するのであった。




▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




ドラゴン。


それは地上最強の種族モンスターであり、人が滅多に目にする事の無い程一般市民からすれば伝説やお伽噺の生物である。冒険者でも滅多に遭遇することもなく、その姿を見ずして一生を終える者が一般的だ。


しかし、人々はドラゴンの恐ろしさを知っている。



曰く、一夜にして国を滅ぼす厄災であると。


曰く、その姿を間近で見た者は死をもたらすと。


曰く、あらゆる魔法を無効化する最強の生物であると。



そんな伝説やお伽噺しか現れないドラゴンが今、村の上空で轟く咆哮を放ちながら王者の如く優雅に羽ばたいていた。


ドラゴンの襲撃を受けた村には元冒険者の魔法使い達が壁を作り、ドラゴンからの攻撃に備えていた。ドラゴンがこの村に攻めてきたことは、非常に視力と気配探知が優れた弓兵が発見し、直ぐに村中に伝えたのだ。そして数名の実力のある元冒険者等が村人の避難と領主に救援の時間を稼ぐために足止めをしていたのだが、やはり相手は空を飛ぶドラゴン。最初の数十分はドラゴンのその者達と交戦したのだが、空から降り注ぐ炎のブレスには太刀打ちが出来なかったらしい。


そして、辺り一面を焼け野原にした後ドラゴンは次に村に向かって現在上空を見下ろしていたのだ。


この時、村人達にとって何よりの悲劇はその報告を受けた領主は護衛を連れ逃げてしまったこと。


それこそが何よりも最悪な状況であった。


唯一の救いは、村には一人だけ転移魔法を行使できる女性がいて、領主達が逃げた事で真っ先に冒険者ギルドに助けを求めていったのだ。


誰もが一刻も速く、助けが来てくれと願った。




そして、その願いは───叶う。



「ほぉ。あれがドラゴン……中々楽しませてくれそうではないか!」



狐の獣人、九十九篝はその転移魔法の使いである女とその娘と共に舞い降りた。そして九十九はドラゴンの姿を初めて目の当たりにして心を踊らせてしまう。何より前世がそういうファンタジーものには眼がなかった九十九。そんなファンタジーのモンスターの中で最も有名なドラゴン。それをその目で目の当たりにして何も思わないわけがないのだ。



「楽しませてくれよ、ドラゴン!!!」



その瞬間、九十九の近くの地面数ヵ所がまるで液体の様に渦巻いていた。渦巻く渦の中心から、土で作られた鎖が幾つもドラゴンに向けて放たれる。しかも土だけではなく、近くの木々からも木で木や根で絡み付いた鎖擬きも同じくドラゴンに狙いを定めていた。


ドラゴンは威嚇して咆哮を上げると、攻撃を仕掛けてきた九十九に向けて鎖を回避しながら急降下していくのだ。その姿は流星の如く、身体に熱から火を生み出しながら突っ込んでいく。



「中々素早い動きだ……が、これならどうだ?」



あと3秒ほどでぶつかる、といった時に急にドラゴンは驚いた様子で九十九から上空に向けて何か(・・)から回避し出したのだ。



「気付くか、俺の()に」



九十九が立つ半径数メートルに魔力で生み出した数多の糸───【魔糸(まし)】が至るところに張り巡らせていた。もし、ドラゴンがあのまま通過していれば幾らドラゴンの固い鱗とは言え只では済まなかっただろう。


ドラゴンは上空に回避していくのだが、後ろから九十九の糸によって既に包囲されてしまっていた。ドラゴンも強引に抜け出そうと口から炎を出したりして何とかしようとするのだが、無数の糸の内、一本の糸が右足に粗め取られてしまう。そしてそれを始めに次々に翼や首、尻尾等にも絡めとり身動きが取れない状態となってしまう。


翼を封じられてしまえば、ドラゴンは空から落ちていくしかない。身体はまるで九十九の方に引き寄せられる様にドラゴンは地面に叩きつけられたのだ。


やはりドラゴンの身体は鱗で覆われている為、墜落してもピンピンしていた。地面にも縫い付けられた様にドラゴンは九十九に向けて唸り声を上げながら睨み付けていた。口も完全に縛られており、食らいつくことも火を吐くことすらままならない。



「……つまらん」



正直な感想を九十九はドラゴンを見下ろしながら呟いた。彼からすればもっと激しい戦いが長時間続くとでも思っていたのだろう。しかし、あまりにも呆気なかった。無力化までしてしまえば止めも刺す気にもならない。



『……せ、……の……か……、せ』


「む?」


『我の……我の、子を、返せ……!』


「……驚いた。テレパシーを操るとは……まさか『エンシェントドラゴン』とは、な」


「エンシェントドラゴン!?!?」



『エンシェントドラゴン』、別名『古代龍』。


種族の名称ではなく、全ドラゴンにとって上位の存在なのだ。人によっては数々の戦いを潜り抜けて生存競争で生き残った『歴戦種』とも称される。


『エンシェントドラゴン』という存在は、紛れもなく伝説の中の伝説だ。確かに過去に『★5』の冒険者が討伐・狩猟した経歴はある。だが、ドラゴンの中のドラゴンであるエンシェントドラゴンは普通のドラゴンよりも目撃例が極端に少ない。


そんなエンシェントドラゴンが何故、この村を襲ってきたのか。


理由は明白だ。



「子を返せ、と言ったか。何者かによって盗まれたのだろうな」


『あの青薔薇の人間、どこにいる!!!』


「……青薔薇、だと?」



青薔薇というキーワードに九十九は直ぐにある存在に思い当たるものがあった。


青薔薇とは、ゲーム内では『赤椿』・『青薔薇』・『黄梅』と呼ばれし秘密組織が存在しているのだ。


『赤椿』は王族直属。


『青薔薇』は貴族直属。


『黄梅』は商人直属。


この組織は三大秘密組織はかなりの実力者を多く有している。しかもその三大秘密組織のリーダーは国の総騎士団長と同等の戦力だと公式サイトから公表されている。


その三大秘密組織の一つ『青薔薇』が関わっているのならば、話は速い。


恐らく逃げたこの領主が主犯である可能性が極めて高い。領主の命によって『青薔薇』はエンシェントドラゴンの巣から子を誘拐したのだろう。



「ドラゴン、お前は子を取り返したいのだな?」


『なんだ、バケモノめ』


「ほう、蜥蜴風情が俺をバケモノ呼ばわりか。まあよかろう。で、どうなのだ?」


『……何を企んでいる』


「なに、簡単な取引だ。お前の子を取り返してやろう。あはぁ、信用しなくていい。暫くそこで大人しくしてもらうからな」


『ぐ』


「安心するがいい。俺が不在の間、この場にいる者達には指一本貴様には触れさせぬさ」


『もし子が助からなければ……っ!!!』


「───貴様、己の立場理解しているのか。敗者はただ勝者の言いなりになるしか他ならん。例え子が助からなかったとしても、俺には関係ないがな」



話終えた九十九は近くに呆然としていた母娘へ釘を刺す様に睨み付ける。その目は本気そのものであり、容赦しないものであった。



「俺が帰ってくるまで、このドラゴンに手を出すなよ?」


「は、はぃぃい!」


「あいっ!」



母娘だけではく、辺りにいた村人達にも睨みを効かせて「わかってるよな?」と言いたげに見渡した。村人達も九十九の威圧感にやられたのか黙って皆頷くしかない。


それを確認した九十九は村人から聞いた領主の館へ向かうのであった。







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