出雲撫子は、子を思う
前回の話の前半────全く関係無い話だと思いました?
ざんねーん☆めちゃくちゃ関係あります。
特に今回登場する人物には、ね。
好き嫌いに分かれると思います。
とりあえず、一旦ここで区切りかな?
『大和国』の大和王族に次いで権力を有する『出雲家』。
そこは和風の造りではあるが、少し西洋の要素も混じる城の王の間で一人の女性が君臨していた。
九つの尾を持つ狐の獣人であり、『出雲家』当主である女性『出雲撫子』である。高貴なる存在だけではなく、その王座の近くに十の武器が突き刺さっており、それを扱い戦う事も出来る女性なのだとわかるだろう。
王座に座る撫子は、その先に膝を付き頭を垂れる犬の獣人の少女を冷酷な目で見下ろしていた。その少女は使用人のメイド服を着用した、撫子の息子篝の幼馴染みである皇奈瑞菜である。
「───以上、です」
「で、あるか」
皇は嘘偽りなく、これまであったことを撫子に報告していた。しかし、報告していたのは皇自身のことのみである。自分が女神の分身体であり、篝の命を狙っていること。もし、次身体を乗っ取られてしまえば、自分自身で抑える事が出来ないこと。そしてもう自分は篝の元にいてはならないと。
涙を堪え、皇は篝から去ろうと決意していた。
これ以上、篝を傷付けなくない。
「成る程。ではあなたが私の息子に対する想いは、偽りだったと」
「……っ」
皇は、そこで違う、と言い切りたかったが、撫子が言う通り女神の分身体として都合よく操られていたとしたならばこの想いも嘘偽りだったのかもしれない。女神によって、そう思わされていたのかもしれないのだ。だからこそ、撫子の言葉に反論する事ができなかった。
「ならば────」
撫子は王座の近くに突き刺さる刀の柄を握ると、そのまま王座から立ち上がる。そしてその刀『雷切』の先を皇に向けるのだ。
「選びなさい。ここで私に殺されるか、それともこの国を去るか」
「!?」
皇の身体は突如硬直してしまう。
それは撫子が殺気と共に皇にぶつける"神通力"による影響だ。まるで身体全体の筋肉が固まったかの様に指一本動かせない状態。瞼も閉じることも許さず、皇だけ時が止まったかの様である。皇は潔く撫子の手を汚さぬ様に国から去ろうと発言したいが、それが言えぬ程撫子の"神通力"は強力過ぎた。
ゆっくりと、コツっコツっと撫子が『雷切』を持って皇の元へやってくる。目が離せず、言葉も発することもできない。撫子の目は怒りに染まっており、皇を確実に息の根を止めようとしていたのだ。
あと数歩、近付けば皇の首は落ちる。
その瞬間、後ろから声がかかった。
「撫子殿。そこまでにしてはもらえぬか」
「……『大和王』ですか」
後ろから現れたのは黒髪のエルフだ。腰には一本の刀を携えており、その容姿からは男性か女性か見分けが付かないが、美しい他ならない。
「何用ですか」
「話は聞かせてもらったよ。まさか彼女が女神の分身とは、ね。しかも狙いは撫子殿のご子息ときた。ならばその分身である彼女を殺すのは間違いではない」
「ならば、邪魔をしないでもらいましょうか」
「しかし、だ」
大和王は金縛りが解けたかの様にその場で座り込む皇を見ながら懐からあるものを取り出したのだ。
「それは……?」
「かつて、神を封じる為に作り出され鎖"グレイプニル"。これを皇奈瑞菜に持たすのはどうだ」
"グレイプニル"は鎖と呼んでいるが、それは細く細かい紐である。それほど長いものではなく、精々手首に巻いてもまだ余裕がある程。大和王は皇の元へやってくると、"グレイプニル"を彼女の首に着けたのだ。
チョーカーの様に巻かれた"グレイプニル"は青く発光すると、少し余裕があったのにも関わらずピッチリと首に埋め込まれてしまう。が、その"グレイプニル"は皇の首を締め付けた、というより取り込んだ様にして首に鎖の刺青が入ったようになっていたのだ。
「これ、は……?」
「相手女神。分身体を殺せば何をしてくるかはわからない。これでも妥協してるんだよ、撫子殿」
「……何を目論んでいるのです」
「いゃね?分身とはいえ、もしかしたらその女神の力を使えるかもしれない。その女神の力を自由にコントロール出来たらこの国の戦力になるからな。それに……まだ彼女は若い。人生もこれからだ。そんなに早く若い芽を摘まないでくれるかな、撫子殿」
「……わかりました。ですが、条件があります」
「なにかな?」
「皇奈瑞菜。金輪際、篝に近付くのを禁じます。いいですね?」
撫子は座り込んだままの皇を睨み付けながら言い放つ。腰を抜かしていた皇はただ撫子の言葉に黙って従うしかない。けれども横にいる大和王は透かさず割り込んでくる。
「仮に彼女が、女神の力をコントロール出来るようになったら?」
「……なんです」
「彼女が女神の力を掌握出来るようになって、操られなくなったら?」
「なにを馬鹿げたことを」
「どうなのかな?」
「……女神に操られず、そして女神の力を己のものにしたならば───考えましょう。ですが、篝に危害を加えばその命ありませんからね」
そう言うと撫子はその場を後にして出ていってしまう。
この空間の中には大和王と皇奈瑞菜のみ。
大和王はふぅ、と溜め息をつけると皇を見ながらやれやれと言った感じに撫子の出ていった扉の方へ眺めていた。
「いやー、子を思う母親は恐いねぇ。で、勝手に言っちゃったけど、よかったかな?」
「は、ぃ……」
皇からすれば大和王は、滅多に御目にかけられる存在ではない雲の上の人。大和王は大和王族の王であり、対成す存在が出雲家の当主撫子のみである。この二大トップが君臨しているが、互いに手を取り合って太古から現代まで協力しあった仲であり、云わば兄弟家とも呼ぶべき間柄なのだ。
だからこそ、そんな仲である撫子は大和王の話を傾聴し、大和王の要望を飲んだのだ。
「しかし、撫子は篝君をこれまでに無い程溺愛してるからね。幾ら私でも篝君に危害を加えたら只じゃ置かないだろうなぁ」
「そうです、ね」
「あぁ、一応さっきの話は何も考えずに言ったわけではない。君には我等大和王族から伝わる"修行の洞窟"に行ってもらおう。そこはかつて、我々大和と出雲の祖"アメノウズメ"と呼ばれる巫女が"天津神"を己に封じ込め、己の力にしたという伝承があってね。絶対、とは言いきれないがそこへ行けば私の姉がいる。彼女に頼んでもらうといい。私からも口添えはしておくけど……」
「あっ、ありがとう、ございま、す!」
皇は大和王の言葉に希望を見出だして、今にも歓喜で泣き出しそうになるがそれを耐えて感謝を述べた。だが、それは確実な話ではない。けれども、皇にとっては絶望の中にキラリと光る希望であった。
そして、場所は代わり撫子は寝室で背中からベッドへ倒れる様にダイブしていた。そして悲しみに染まった目で、この国にはいない愛する息子の名前を溢してしまう。
「かがり……」
彼女にとって、篝は自分の命よりも大切な息子。
何度も何度も、子の幸せを願っていた。
撫子は、出雲撫子は前世の記憶がある。
かつて、一人の母親として生きていたが己の欲望に負けて最愛の子を捨ててしまった愚かな女。母親としてではなく、一人の女として生きようとしても、結局は己が最も大切な人を失ってから気付いた。
しかし、浮気して、子まで裏切った己に再びあの子の母親として生きるのは不可能であった。浮気相手の男と別れたのにも関わらず、ストーカーになってしまう。しかし、何度も拒絶した後諦めたと思っていたのだ。
けれども────。
「かがりぃ……」
夫と最愛の子を裏切った自分に幸せ等来る筈がない。あったとしても、何れこんな女は地獄に落ちる運命だと理解し、何時か来る因果応報に覚悟を決めていた。どんな罰でも受け入れようと。
けれども、そんな事は自分自身に降り掛かることはなかった。
元夫から慰謝料はなく、むしろ自分の責任もあると言って財産分与をしたのだ。そして自分は己の行いに恥じて、罪滅ぼしをする様に仕事をしていった。そして会社を起業し、何時か息子───燎の為に財産を残し、それを渡そうと考えたのだ。
会社の経営は、自分が思った以上に上がっていき世界的に有名な社長となった。だが、それでも何時か何かしら罰を受けると思い続けて、娯楽も何もかもせず仕事一筋。社員や部下達には家族を大切にする様に家族との時間を作る事も行った。
それがどういう風に見られていたか不明だが、部下や社員、取引先からの信頼は厚くなっていったのだ。
けれども、不幸は起きた。
元浮気相手が、元夫と息子が住む元夫の両親の家を放火したのだ。そして元夫と、元夫の両親は重度の火傷と建物の崩壊によって亡くなってしまった。
だが、燎は奇跡的に生き残ったのだ。
元浮気相手は逮捕された。
彼女は、入院した息子の元へ向かった。
けれども────。
『涼子、さ……ん……』
もう、母とは呼んでくれなかった。
しかし、それは自分のせいだと理解している。息子に酷い事を言った己に母と呼ばれる資格は無いのだから。だが、息子には親族はいない。居たとしても、遠い親戚だ。
だからこそ、彼女は息子を引き取ったのだ。
こんな愚かな母でも、せめて息子が結婚するまでは育てようと。息子がどんな罵声をぶつけてもそれを受け止める覚悟も出来ていた。もし、独り暮らしを望むなら自分が持つマンションを使ってもらい何れはそのマンションを譲渡しようとも考えていたのだ。
けれども、息子は自分と共に暮らすという選択をした。
最初は母として家事も全てこなそうとしたが、出来なかった。息子が全てやっていたのだ。炊事家事洗濯───かつて、小学生の頃に一緒にやっていたけれども、まさか一人の主夫の様に何でもこなしてしまう姿に嬉しさ反面、己の愚かさを改めて痛感してしまった。
仕事は更に事業展開し、忙しさを増してはいたのだが、必ず家には帰宅していた。そして帰宅すれば家事を全て終わらし、自分の帰りを待ってくれる息子が夕食を温めて出してくれるのだ。私が美味しい、と言うと『よかった』と安心したかの様に微笑んでくれた。
けれども、そんな、夢にまで見た幸せな日常が続かなかった────。
「───っ」
不意に思い出して涙をぽろぽろと流す撫子。
そして次こそ、あんな愚かな選択はしない。我が子を───瓜二つのあの子を、己の命に代えてでも守ろうと決めたのだ。あの時の様に、弱い自分ではない。
「何度も……くるしかった、よね、篝」
何度もループしたのも知っている。何度も篝が幸せになれるなら、と何度も願っても殺されてしまった。だからこそ、もう他の女に関わらせるつもりもない。前までは『出雲家』当主等興味無かったが、篝が幸せにするならばと考え当主座に君臨しのだ。
現在、篝はヴァーリ学園に通っているが、どうやら登校はほぼしていないらしい。が、成績は筆記実技共に最優秀成績を残している。歴代最高の生徒だと言われているらしい。
が、撫子は決断する。
ヴァーリ学園、あの国に篝を任せるのはダメだ。
あの国は、世界的に有名な学園があるからこそ、篝を入学させたがもう必要は無いだろう。
「かがり……」
篝をこの国へ連れ戻す。
既に計画は打ってある。
「『ホリン』」
「何ですかな、撫子様」
傍に現れたのは青い宝石の様な瞳を持つ犬の赤髪の中性的で美形な人物だ。年齢は10代程。そしてその片手には雷を帯びた投擲用の様な槍を持っている。
「篝に伝えて。私の元へ帰ってきなさい、と」
「撫子様の御子息様ですな」
「ホリン……もし、篝に何かすれば───」
「安心してくだされ撫子様。生き倒れかけてた儂を助けた恩を忘れはせん。この命、撫子様に捧やしょう。この『ゲイ・アイフェ』と共に」
《任せておけ》
そしてパチッと静電気が起きたかと思うと、ホリンはそこから姿を消していた。撫子はホリンならば大丈夫だろうと考え、そのまま篝と再び会えることを楽しみにしながら九つの尾を己自身を包み込むようにして就寝するのであった。
読んでいただき、誠にありがとうございます!
その内……多分?章で区切るかもです。
お次は……女軍人ちゃん。彼女に大変辛い思いをしてもらおうと考えています。具体的には精神的なもの。肉体的なものは無しです。篝君にそういうことはやらせませんっ!ていうか、まず性格的に無理☆
さてさて♪篝君、どんな鬼畜な事をするのかな☆
次回をお楽しみに~♪