九十九篝は、黒騎士君に止められる
とりあえず?みたいな。
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【神命:天照】に成った事により、九十九篝は無意識に『五大属性』の一つ火を操る事が可能となった。まさしく女神として君臨するその姿は神々しくもあるが、荒々しくもある。
「耐えてみせよ!!」
九十九の左手に生み出されたのは刀身二メートルの炎を帯びた太刀である。
名を【天羽々斬】。
神殺しを宿した太刀であり、九十九の意思によって刀身の長さを自由に伸び縮む事が可能。九十九は容赦無く、【天羽々斬】をリベリア?と皇?に向けて二度振るうのだ。振るわれた【天羽々斬】の刃から斬擊が出現し、それぞれがリベリア?と皇?に向かっていく。
「Oops.しかし、問題ない」
「これでも女神ですから、神に成ったばかりの人間に負ける筈がありません」
皇?とリベリア?の両者は斬擊を防ぐとリベリア?は【閃光の剣】を、皇?は【三又槍】を持ち構えると天候が突如ガラリと変わってしまう。
その理由は、皇?が所有する【三又槍】が影響しているのだ。【三又槍】は『五大属性』の一つ水を操る事が出来る槍であり、その効果は嵐を呼び雨を降らせる。場所が海であるなら武器の中で最強クラスの威力が誇るのだが、現時点で地上戦では嵐と雨を降らせる事しか出来ない。しかし、所有者が『五大属性』の水を操れるのであれば降った雨水をも操れるので効果と能力は倍増するのは間違いないのだ。
雨と風は激しく降りかかるが、九十九の周りは晴れている。九十九がいる範囲だけは【三又槍】の影響は受けていないのだ。
「ならば、これならどうだ!」
九十九の周りに何処から徒もなく沸いて出てきた【八咫烏】が現れたかと思うと次々にリベリア?と皇?の周りに飛び回っていく。【八咫烏】達は二人を狙い定めているが、何時襲ってくるかはわからない。だからこそ、リベリア?は目障りな【八咫烏】を片手から閃光を生み出してそれを光線として放ち、撃ち落とそうとする。
「Stop!それは罠───」
けれども、それが罠である事に皇?は気付いたのだが、時既に遅し。
一羽の【八咫烏】に光線が当たったかと思えば、【八咫烏】はいつの間にか一つの【八咫の鏡】となり、跳ね返ってきたのだ。
「なっ!?」
リベリア?は透かさず避けたのだが、光線はリベリア?の後ろにいた【八咫烏】に被弾するのだ。しかし、その【八咫烏】も【八咫の鏡】となり、反射してくる。それが次々に連鎖していき、徐々にその反射スピードも加速していくのだ。
その結果、リベリア?と皇?が避ける暇も無くなっていく。
「これで、終わりだ!」
【八咫の鏡】となっていた【八咫烏】達は身体を不死鳥の様に炎と化して、一斉に二人に向かって突っ込んでいく。加えて光線もあるので致命傷は免れないだろう。
爆発が起こった、と思えば花火の様に次々に爆発が引き起こされていく。
しかし、女神である彼女等がここで終わる筈がなかった。
「ぅくっ!?」
九十九の右肩と左腹に氷の槍が突き刺さり、そこから鮮血が飛び散っていく。身体を貫通しているが、九十九はその場から倒れぬこと無く、その場で食い止まった。
「───ぐごはっ!」
更にもう一撃が、九十九の右胸に突き刺さる。
けれども、九十九は倒れない。
血反吐を吐きながらも、九十九の顔は苦しみや痛み、そして絶望もない。
笑みだ。
笑みを浮かべていたのだ。
恋い焦がれた人に、漸く会えた高揚感を九十九はしていのだ。
そして、突き刺さった氷の槍は傷口と共に炎と共に再生されていく。これこそが女神、というべき能力。既に人の領域を超えた、超越した存在なのだ。
けれども、既に九十九篝は、普通では無くなっていた。
「殺す、ごろす、ゴロスコロスコロスコロスコロスコロス────あァ、楽しイ!!!コれこソ、おレが望む、戦いダ!!!もっと!もッットだ!!!これコソが、戦い!!!これガ、殺しアイ、ダ!!!わかル!!!ふはハっ、ふはハハハハハハ───!!!」
「Pathetic.」
「既に女神の姿をした壊れた兵器そのもの。驚異ではありますが───何れ壊れるのも時間の問題です」
皇?とリベリア?は狂気に満ちた九十九を哀れむ様に見下ろしている。二人は無傷───とはいかず、二人の背中から生える白い翼がボロボロとなっていた。だが、彼女二人の身体自体は無傷である。
「ふははははハ!!!流石は、女神ト言うべきカ!!!」
「Damnit!」
「まだ、こんな力を!!!」
既に皇?とリベリア?が手に終えない程の力を無尽蔵に放出する九十九に初めて恐怖を抱いてしまう。この時にはあの"原初の火"ヒノカグヅチの脅威を遥かに越える危険度を誇っている。
それもその筈、九十九はもう暴走しているのだから───。
「どうします、"アルキュオネー"」
「……っ!Sister!!!」
「なんっ!?」
リベリア?に目掛けて漆黒の剣が飛んでくる。それを回避したリベリア?はその漆黒の剣を投げた敵を目を向ける。
「あなたは───」
「……」
現れたのは黒騎士。
しかも前に吹き飛ばした黒騎士とは姿が違っていた。
鎧で分かりにくいが、右目から静かに凍える白銀のオーラがゆらゆらと揺らめいている。そして背中は黒き翼が生えているが、それは翼というにはあまりにも硬すぎる。翼は黒く、一つ一つが巨大な太刀が重ねられていた。どれもが鋭利であり凶器である。
透かさずリベリア?(アルキュオネー)はその黒騎士をレンズで視たのだ。
「───っ!あなたも、神に!?」
【神命:月読】
それが、黒騎士の力───いや、神と成った黒騎士であった。
「Emergency.人とは言え、二神を相手にするのは不可能」
「待って下さい、アルキュオネー」
表情には出さないが、焦った様子の皇?だったがリベリア?(アルキュオネー)は制止させる。
「……」
【神命:月読】の黒騎士はリベリア?(アルキュオネー)と皇?に目を向けていない。むしろ意識までも向けていなかった。と、いうより興味もなにも抱いていない。無関心である。
「オ、前、は!」
「……」
【神命:天照】の九十九は【神命:月読】の黒騎士を見てただ驚いていた。九十九からすれば戦いの邪魔をした黒騎士に怒りも沸いていたのだが、何故か、不思議と、無視する事が出来なかった。
「それで、いいのですか」
「────」
黒騎士からの、その一言で、九十九は言葉が詰まってしまう。
身体が、動かない。
目を、背く事が、出来ない。
「それで、あなたは納得するんですか」
「な、にを……俺、は、全力で、戦って、死ぬこと、が……ってか、お前喋れる、のか……」
「本当に死ぬことで───あなたの気持ちは晴れるのですか」
「く、どい!」
「ボクは知っています。あなたがどれ程絶望したのかを」
「知ったような口を───」
「わかって……いるんでしょう。例えここで殺され、死んだとしても再び繰り返されることを。そしてあなたは限り無く低い可能性でも藁でもすがる様に実践していく」
「───ッ!」
その通りであった。
黒騎士の言葉は、的確に九十九の心を抉っていく。
何も言い返せず、九十九は黒騎士を睨み付けて一歩踏み込んだのと同時に【天羽々斬】を離した左手で殴ったのだ。しかし、その拳は黒騎士の胸にガツンっと響くだけでそれ以外なにも起こらない。
九十九はその左手の拳を納める事無く、そのまま顔を俯かせてしまう。そしてポタッぽたっと小さな涙が地に落ちていた。
「じゃぁ……どうすればよかったッ!!!」
涙を溢しながら、九十九は助けを乞う様に叫ぶ。
もう、何をしても無意味だと理解しながら足掻く九十九は限界であった。口では気にしていない様に言っているが、九十九は九十九なりに苦悩はあったのだ。
全身全霊で戦って、そして死ぬ。
それは、救いを求めていた。
この地獄の様なループから脱げ出したい、と。あんな地獄をまともに過ごしていた筈がない。それに耐えるには、己自ら狂うしか方法がなかった。
けれども、何度も何度もループを繰り返した。
結局、ループから抜け出す事もできず、ただただ迷子になった子供の様にひたすらさ迷っていたのだ。
「おれは……もう、いやなんだ……」
二度と裏切られたくなかった。
黒騎士の顔を睨み付けながらも、九十九は彼の胸を叩く。それはとても弱々しく、睨んだ目が悲しみの目に変わった瞬間、力を失った様に黒騎士の元へ倒れ込もうとしてしまう。
が、それを黒騎士は受け止めた。
「そう、ですよね」
黒騎士は染々と呟く。
みっともなく泣いてしまう九十九を黒騎士はただ抱き締める。そして九十九を抱き締めつつ、頭を撫でながら黒騎士は言うのだ。
「あなたなら、大丈夫」
「大丈夫、だと?ふざけるなよ」
「いざと言う時はボクが助けます」
「……ふふっ。俺を助ける、か……戯れ言を」
そう軽く笑いながら九十九は涙を溢しつつ、そのまま気を失った様に黒騎士に身体を預けてしまう。そして九十九の【神命:天照】が解除され、【神命:天照】の顕現によって生み出された白と紅の着物と羽衣も消滅してしまう。
結果的に一糸纏わぬ姿となった九十九は意識を手放し、そのまま深い眠りについてしまうのであった。黒騎士は直ぐに黒い衣服を生み出すとそれを九十九の身体をくるませるのだ。そして涙を流し、身体中にあった傷は【神命:天照】の力によって治されていた。
「無理し過ぎましたね」
すやすやと、漸く安心できた様子で心地良さそうに眠りにつく九十九を黒騎士は横抱きをする。まるで少女の様なあどけない表情で眠る姿に黒騎士は仮面の中で思わず微笑んでしまう。
が、今の状況に全く気を抜いている訳ではないのだ。
「……さて」
黒騎士は翼を広げ、リベリア?と皇?に向けて警戒する様に身体中から黒き闇が辺りに広がっていく。その闇は天空や大地にも広がり闇夜が広がっていくのだ。その闇は触手の様に、影のように伸びていき、既にリベリア?と皇?の背後にも伸びていた。
「Unbelievable.まさか、ここまで」
「人の分際で、神の力をッ!」
黒騎士は【神命:月読】を完全に掌握しており、リベリア?と皇?をも凌駕する力で既に身体を封じ込められていたのだ。二人は焦りを露にしておるが、それを黙って見上げる黒騎士は戦闘体勢にもならずに九十九を抱き締めるだけ。
「お二方、そろそろ限界なのではないですか?神とは言え、仮にもその二人はお二方の分身ではありますが残念ながら人でしかありません。分身とは言え、紛れもなくお二方の身体。万が一分身が傷付けば、リンクしている本体にも影響は少なからず出るでは?」
「!」
「何故、その事を……あなた、何者ですか!」
リベリア?の問いに黒騎士は無視して九十九を抱き抱えながら、通りすぎてしまう。既に身動きが取れないリベリア?と皇?は只でさえ己の分身の意識が抵抗する為に徐々に意識が途切れかけている。
答えず無視を貫く黒騎士に苛立ちを覚えるリベリア?であったが、皇?はため息を着くと諦めた様に地面へ降り立った。
「Give up.彼の言う通り」
「……くそっ!」
その言葉と同時に二人の背中から白き翼は消滅してしまう。
二人から二柱の女神が抜けて消えたのだ。
そして、二人は意識を取り戻した。
「これも切っておきましょう」
黒騎士は何もない場所に翼の剣を振るわせると、ぷちんと何かが切れる音が響き渡る。それは九十九がハーツを助ける為に使用した魔糸であり、それにより拘束されたハーツが漸く解き放たれたのだ。
「つ、くも……」
「ごしゅじん、さま……」
顔を真っ青にさせたリベリアと皇は今にも消えそうな声で黒騎士の腕の中で眠る女体化した九十九篝を呼び掛ける。
リベリアと皇も操られていたとは言え、意識はあったのだ。そしてその時の女神と九十九との会話も聞いていた。だからこそ、真実を知ってしまった彼女二人は今にも泣きそうになっていたのだ。何より、自分が女神達の駒だということ。そして九十九に向けていた愛も偽りだったということに、信じられる事が出来なかった。リベリアに関しては、自分の娘を手に掛けようとしたことにショックを酷く受けている。
「九十九篝は、ボクが送り届けます。二人は己が今すべきことをしなさい」
「すべき、こと……?」
「はい。そろそろ騎士達もやってくるでしょう」
そう言いながら黒騎士は二人に背を向けて歩き出す。ここから離れるつもりだろう。けれどもリベリアと皇は止める事が出来ない───出来る筈がなかった。
黒騎士が立ち去る前にヴァッカスと視線が合わさるが、互いが黙った状態である。傍観していたヴァッカスは何か言いたげであったが、頭をかいきながら煙草をふかせてさっさとここから去れと煙草を持つ手と逆の手でシッシッとやるのである。
黒騎士は少し会釈をしながら九十九を抱えてその場から風の様に立ち去るのであった。
ガチャ、爆死したんだよなぁ……( ;∀;)