九十九篝は、力を失う
おまたへ!
そろそろ区切りが来るかな?
そして、少し何かしら判明することがあるかも……?
あっ、感想・評価ありがとうございます!
【伊邪那美】の副作用により女体化した九十九篝と"原初の火"ヒノカグヅチはどちらも引かぬ攻防が繰り広げられていた。空を、大地を、震わせる爆発的な力のぶつかり合いは超越的なものであり、止めに入ろうと思えば巻き添えを喰らうのは間違いない。
この状況を、誰も止める者などいないのだ。
ヒノカグヅチは、女体化した九十九篝を伴侶にする為に───。
九十九篝は、初めて出会えた強者と全身全霊で戦う為に───。
お互いが一歩も引くことがない、激戦。
戦いの合間にヒノカグヅチは陽炎に輝く身体をくねらせながら九十九の姿を眼に写し,染々と呟く様に唸ってしまう。その呟きは、九十九にとって無視できないものであった。
≪我が伴侶よ……何とも奇数な運命を何度も辿るとはな。よりにもよって、あやつに目を付けられるか≫
「なんだと?」
≪伴侶よ、我ならばお前を守ろう。そして愛そう。我と共になれ≫
「いや待て、"あいつ"とは誰だ!誰だかわかるのか!」
≪我は神殺しでありながらも、紛いもない神でもある。分からぬ訳がなかろう?≫
ヒノカグヅチは九十九が幾度もループしているのを見抜いていた。そしてその度に何があったのかも明確に、鮮明に見えたヒノカグヅチは哀れむ様に九十九に求婚する。九十九にとってはヒノカグヅチの呟きを問い質す方が大事なのだが、ヒノカグヅチの力は無尽蔵に高まっていき、その膨大な力は今にも大爆発を引き起こしそうだ。
≪伴侶よ、その力は我にとっては脅威。しかしだ。例え炎を触れる事が出来ても、"炎は熱い"だろう。そして"火傷もする"だろう≫
「流石に気付くか」
九十九は【伊邪那美】の力でヒノカグヅチの火の身体に掴み、触れる事が可能となった。けれども、攻撃手段が増えただけで"火の概念"までは破壊出来ない。現に九十九の拳や掌、そして所々火傷の痕がある。掴む、触れるだけでもダメージを受けてしまう姿に痛々しいものを感じるだろう。
≪我はこれ以上、伴侶が傷付くのは見るに耐えぬ。だからこそ、大人しく我の伴侶となれ。そしてお前をあやつから守り通そう≫
「……何を言っている」
≪伴侶よ。あやつからの呪縛から解き放とう。安心せよ。伴侶だけは───≫
「バカバカしい。失望したぞ、ヒノカグヅチ」
≪───なに?≫
ヒノカグヅチは耳を疑う。
九十九篝を繰り返すループという名の呪縛から解き放とうと言っているにも関わらず受け入れようとしないのだ。ヒノカグヅチは何故九十九篝が何度も何度もループという呪縛に囚われているかはわからないが、その呪縛を解き放つだけの力を有している。けれど、そんなヒノカグヅチに九十九は失望してしまう。
「何度も言わせるな。俺が欲しくば、力で示せ!!!」
≪────くっ、クハハハハハ!!!戦闘狂とは、しかしそんなお前を愛そう。我が伴侶よ!!!≫
「(ボコって、洗いざらい吐かしてやる!!!)」
ヒノカグヅチは灼熱の業火を纏う己の身体が、ギラギラと眩しく失明してしまいそうな刺激が強すぎる光を放ち、空を照らす本物の太陽のように全てを埋め尽くしていく。九十九も端から負けるつもりはなく、意味深な発言をしたヒノカグヅチを何とかして捕らえようと考える。どうにかして倒さなければならないが、仮にここで死んでしまってもそれはそれで良いだろう。全身全霊で戦ったのだから───。
≪伴侶よ、これで終わりだ。文字通り、終わり。あやつの駒ごとこの世界を焼却する───どうやら、伴侶を狙うのはあやつだけではないらしい≫
「なん───」
≪『終焉の炎剣』───これこそ、世界を燃やし尽くす炎の剣。安心せよ、伴侶以外の人間は全て消し去る。これで、我と伴侶のみの世界となるのだ≫
「───こいつ!」
ヒノカグヅチは確信しているのだろう。
九十九篝は、ヒノカグヅチに勝てる筈がないと。
そして、必ず伴侶になる、と。
己が全身全霊をぶつけたい九十九からすれば、初めから自分の勝ちを確信しているヒノカグヅチが非常に不愉快でしかない。やっと全身全霊をぶつけられるはずの相手は、世界を巻き込んで全人類を滅ぼす手段を行使しようとしているのだ。
確かに、ヒノカグヅチの様な強者と戦う事を望んでいた。
しかし、同時に死を望んでいたのにも関わらず、これ以上戦おうともせずに全人類を滅ぼす手段に出たのだ。全ては女体化した九十九篝を伴侶とするために。そして自分以外の人類を滅ぼす、というのは幾ら九十九でも看過できぬこと。
望むのは、戦って死ぬだけ。
「(だが───あれを止められるか?)」
ヒノカグヅチの上空には、『終焉の炎剣』が降臨しつつある。しかし、それはまだ未完成であるのは九十九の【千里眼】でわかっていた。
けれども、それを止める術はない────。
「(───いや、一つある!)」
一か八か、九十九は唯一の手段の賭けに出る。
失敗すれば、只では済まない。恐らく死ぬだろう。その失敗は、全人類を滅ぼす結果となる。
かつて、九十九は不滅の悪霊を封印した経験があるが、当時はまだループが始まったばかりで、倒せることは倒せるが決して消滅しない悪霊には苦労させられた経験がある。その時に消滅しない悪霊を封印したのだ。
封印する為には一つ必要なものがあった。
それは、封印する為に必要な道具。数珠や像、神聖な石等で、封印したい者を封じ込めるための入れ物だ。
だが今ここに、そんなものは無いし用意する暇も無い。
「───いや、あるだろう。ここに!!!」
九十九は即断した。
今あるものを、使えばいいと。
ヒノカグヅチを封印する為の入れ物に───九十九は、己自身がなると決意する。
「(あの時の様な封印では、容易に破られる。ただの魔糸では、意味もなさない。で、あれば────)」
封印する為に発動する魔糸に、【伊邪那美】の力を注ぎ込めばいい。それで足りなければ、己の生命力を糧にすればいいだけだ。
即席で、魔糸をヒノカグヅチにも破られぬ【伊邪那美】の力を合わせた神をも捕らえる力【天羽槌】を生み出す。
≪なんだ、それは≫
【天羽槌】の糸や鎖、帯となってヒノカグヅチの周りを取り囲む。一本一本がヒノカグヅチの身体を拘束し、それが無間大数の数で襲い掛かる。けれども、最初は拘束したとて、【天羽槌】の糸や鎖、帯は燃やされてしまう。だが、何度も何度も、糸や鎖、帯が一つの織物の様に編み込まれていき、ヒノカグヅチが炎で燃やしたとしても間に合わなくなる。加えて徐々に身体を食い込まれる様に縛られていくので、最強最大の大技を叩き込む為の力まで削がれ落ちていくのだ。
≪伴侶よ!!!≫
「お前とは全身全霊で殺し合いたかったが───封印させてもらう!!!」
≪それが、答えか!≫
「あぁ!」
ヒノカグヅチの上空にあった『終焉の炎剣』は形を保てずに、崩れる様に消滅してしまう。ヒノカグヅチ自身も、九十九による【天羽槌】の力によって身体を拘束された事によって身体と力を鈍らせてしまう。【伊邪那美】による力を行使した九十九との戦闘で弱っていたのだろう。
徐々にヒノカグヅチは【天羽槌】の糸・鎖・帯によって全身が封じ込められる。だが、抵抗しているのか隙間から炎が噴き出している。数秒もすれば【天羽槌】の糸・鎖・帯は燃やし尽くされ、吹き飛ばされるだろう。だからこそ、封印を終えるまで何度も何度もヒノカグヅチを上から上から封じ込めていく。
そしてヒノカグヅチの巨大な尻尾から九十九の腹へと入っていき、一部を体内に取り込んだ瞬間、服は焼消してしまう。ヒノカグヅチは神であり、肉体と言うべき肉体はない。
ゆっくり、ゆっくりと【天羽槌】に拘束されたヒノカグヅチは九十九篝の身体の奥底へと取り込まれていく。
「グッ……ぁがっ……ギッ!?」
無論、九十九も己の身体も、神であるヒノカグヅチを取り込むことで死よりも辛い激痛と苦しみが襲い掛かる。その苦痛は死んだ方がマシと思える程。けれども九十九はこれも一つの戦いだと感じていた。
先に封印できるか、先にくたばってしまうか。
≪オォォォォお!!!≫
ヒノカグヅチは抵抗する。今にも拘束する【天羽槌】の力を燃やしそうだ。現実問題、やはり相手は神。【天羽槌】でも力不足だと感じた九十九は、九つの尻尾を伸ばして拘束したヒノカグヅチの身体を巻き付けて逃れられない様にする。そしてヒノカグヅチを押し込む様に己の身体へ取り込んでいく九十九であったが、歯を食い縛ってその激痛を耐え抜いていく。
そして───。
「く……ぅぅ……」
ヒノカグヅチの全てを己の身体に取り込んだ九十九篝。
九十九の顔は苦痛に染まっていた。
何せ、己の身体にヒノカグヅチを宿したのだから。
身体の中で暴れまわるヒノカグヅチを必死に治めようとしているが、ヒノカグヅチ自身何もしなくても身体中の体液が蒸発するような感覚に発狂しそうだった。
しかし、九十九篝は耐えきった。
けれども、同時に力が失われる感覚もあった。
「(これ、は……力が、消える……?)」
己の力の一つ【伊邪那美】が消滅していく感覚だ。恐らくヒノカグヅチを取り込んでしまった為に【伊邪那美】は同時に消滅してしまったのだろう。しかし、副作用である女体化はそのままなので完全に消滅した訳ではない。どちらかと言うと壊れてしまったのだ。
≪───まあよい。伴侶の身体にいるのもよいか。我、嬉しい≫
「あまり抵抗しなかったのは、それが理由か」
≪うむ!しかし、我が嫁よ。やはり裸体も素晴らしく美しい……≫
「!」
中にいるヒノカグヅチからの言葉で初めて知った。
女体化した九十九は、全裸になっていたことを。
どうやら封印が成功したらしいのはいいが、その反動で身体から炎を噴き出して服を燃やしてしまったらしい。何時もなら家の中では全裸になっていたりするので気にしていないが、今は女だ。流石に───とは思ったものの、「別にいっか」と一応九つの尻尾で最低限隠すべき部分は隠している。
「封印成功、か……呆気ないものだ」
≪我が嫁よ。我めちゃ嬉しい♪嫁と一心同体になれるとはなっ♪≫
九十九と一緒になれるならこれでもいい、とヒノカグヅチは喜んで封印されたらしい。呆気ないというか、拍子抜けというか、何とも言えぬ表情の九十九。
「……やはり、殺しておけばよかったか?」
≪何を言うか、我が嫁よ!我、妻を殺したくはないぞ!?≫
「むぅ」
≪しかし、安心せよ。我も嫁の身体に居れば何時でもあやつから守れるからな♪≫
もう、大分疲労が溜まってしまった九十九はヒノカグヅチの言葉を問い質す気にもならなかった。一旦帰宅し、休息を取った後じっくりとヒノカグヅチから問い質すしかない。多分、ではあるがヒノカグヅチから何か話は得られるだろう。
────が、その瞬間。
離れた場所で強大な力が二つ、出現する。それは、ヒノカグヅチより劣るが、脅威には変わらない。しかし、今の九十九にとっては最悪の一言だろう。
≪動いたぞ、やつらも≫
「な、に……?」
ヒノカグヅチの意味深な言葉に九十九はその力の元を【千里眼】で見つけ出したのだ。そして、思わず言葉を失ってしまう状況が起こっていた。
そこには────。
白く長い翼を生やし、虚ろな表情をしたリベリアと皇奈瑞菜の姿があったのだ。
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