ヒノカグツチ、降臨
おたませ。
FGOで、爆死してショックを受けてる作者だよ?
……泣きたい。
「一体、どうなっている!?」
『火の神殿』へと一人の騎士が向かっていた。
銀髪の髪を靡かる麗人が白き竜に跨がり空を駆ける姿はまさしく竜騎士である。颯爽と『火の神殿』へと降り立った時には既に辺りは火の海である。元々『火の神殿』は自然豊かな緑溢れる場所だった筈。
しかし、そんな風景は既にない。
地面は火山地帯にいるかの様に罅割れた大地から溶岩が見え隠れしている。既に地震と共に火山は噴火しており、火口から巨大な黒煙の塊と火山弾が噴き出していた。あまりにも甚大な災害が前触れも無く起きてしまった事にリベリアは動揺を隠せない。
『許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……パパと一緒に行った、神殿を壊すなんて、絶対、許せない』
「抑えるんだハーツ」
荒ぶる白き賢竜ハーツは、かつて父親が通っていた神殿が崩壊しかかっている状態に怒りを露にしていた。別に『火の神殿』が壊された事に怒っているのではない。父親───篝との思い出の景色を壊された事に怒りに怒っているのだ。そんな怒り狂うハーツを母親であるリベリアは抑える。
『でもっ、パパの───』
「私だって、怒ってるんだ。だが、今はこの状況を解決しなければならない。このまま被害が広がれば……パパが住んでいる国にも被害が出てしまう」
『それはダメ。パパ、困っちゃう』
リベリアの言葉にハーツは怒りを抑える。けれどもハーツの気持ちはリベリア自身理解していた。だが、今はこの異常事態を解決させなければ次に新たな被害が広がるだろう。
「賢竜か。中々面白いモンスターを連れているな」
「!」
『だれ!?』
崩壊しかかっている『火の神殿』の奥から声が響く。その声は女性なのは間違いない。リベリアとハーツは警戒しながら、その声の主の正体を確認する。
長く青白い髪に腰にレイピアを携えた女の軍人だ。その風貌から単なる軍人ではない事が理解できる。リベリアはその女軍人が中々の手練れだと理解しつつも、腰に携えた剣の柄に手を添えていた。
「この国の者ではないな」
「『トラジェディア王国』の騎士か。いや、竜騎士の方がしっくりくるな」
「何者だ。そして、この『火の神殿』に何をした!」
「何を……か。そうだな。『火の神殿』、と言うのか?そこに眠る存在を目覚めさせただけだ」
「なに?」
リベリアは女軍人が言う内容がわからなかった。そもそも『火の神殿』は火の神を祀るための祭壇だ。しかし火の神の名前は誰も知らない。そして『火の神殿』自体、そこへ赴く人もあまりいないのだ。だが、太古の昔から存在する歴史的建造物である為『トラジェディア王国』が管理している。本来は『火の神殿』には代々神官が火の神の加護を受け継いでおり、護衛対象として騎士達が護衛していた筈。
女軍人から微かに血の臭いがすることから、そう言うことなのだろう。
「神官は───」
「あぁ、あの火の神の加護を持つ女か。今なら、私の部下達とお楽しみ中だろうさ」
「!」
「何を驚くか。あの女は弱かった、只それだけだ。殺されようが、犯されようが、弱者であるならば仕方がないことだ。負ければ、人権などない。ただ慰め者になるだけだ」
「そんなこと、許される訳が───」
「許す?誰がだ。弱者は虐げられるのみ。そうだろう?この世は強者が支配し、弱者は虐げられる。どんな時代でも同じだ。まさか、弱者を守る事が正義だと思っているのか?」
「当然だ!」
女軍人の問いに怒りを露にしながらリベリアは即答した。今にも斬りかかりそうなのを抑えているが、そろそろ限界だ。同じくハーツも唸り声を上げながら口から微かに火を漏らしている。
リベリアの返答に女軍人はつまらなそうに、乾いた拍手をする。
「素晴らしいな。だが、弱者を守れば守る程、弱者共は守られる事を当然と思い込み、更に要求を求めてくる。それが、本当に弱者か?いいや違う。怠慢になり、守る強者を貪り喰らうただの獣だ。真の弱者とは、声も出せずそんな獣達に良いように利用される。本当に救うべき、守るべき者はまさしくそれではないか?」
リベリアは何か言い返そうとするのだが、それが出来なかった。守ってくれる存在を貪り、そして殺してしまったのは一体何処の誰だったのか。幾ら操られていた、洗脳されていたとは言え九十九篝という強者を陥れ、彼の財を貪っていたのは、誰か。
自分達だ。
夫に守ってもらうのが当然と思い込み、ただ守られるだけに成り下がった獣は、自分自身。
「今の世の中、殆どの弱者と名乗る者達はその毛皮を被った獣等だ。そんな奴等、救う意味があるか?本当の弱者を隠して、己だけ甘い蜜を啜ろうとする獣風情を。あの女神官も同様だ。騎士達に守られるのを当然とし、己自身火の加護があるにも関わらず弱かった。当然の結果だ、敗者は大人しく強者に従われればいい」
「何を勝手な!」
「勝手等ではない、事実だ!もう、この世は弱者の毛皮を被る獣は増えすぎた。しかし、それでも世界は回る。だが、何れ限界が来るだろう」
女軍人は己の信念なのか、それとも何者かの意思によって動いているかは定かではない。けれども、彼女は彼女の意思で動いているのには間違いないのだ。
確かに、現実問題人類は増加している。
今はまだ余裕があるかもしれないが、何れ人類人口が爆発的に増えてしまえば土地・食料・水が足らなくなってしまう。そして日常生活で使用するエネルギーまでもが枯渇するのは、遅かれ早かれその問題に直面するのは時間の問題であった。
「弱者は、"悪"だ。弱者と成り済ます者も含めて、弱者は淘汰されて仕方があるまい。切り捨てられるのは弱者のみ。それが世界の、自然の摂理として当然の結果だ。弱者を守ろうとする事でその摂理は崩壊し、弱者の皮を被る獣が現れるのだ」
女軍人はチラリと崩壊しかける『火の神殿』の視線を向ける。
そしてゴゴゴゴッと再び地鳴りが響いた瞬間、火山は噴火したのだ。
噴火口から、まるで龍の様な長い身体を形どった炎が、天へと昇っていく。その炎の龍の背中には大きな鷹の様な立派な炎の翼は、一度はためかせると辺りが熱風を引き起こす。
『ママ、あれ、なんなの……?』
「……ッ!!!」
ハーツの問いに言葉に出来ないリベリア。あまりにも規模が違い過ぎる炎の翼龍に呆気に取られてしまったからだ。女軍人も軍帽を吹き飛ばされぬ様に手で押さえながら炎の翼龍の姿を目の当たりにしていた。
「流石は火の神と呼ばれるだけはあるな」
火の神が君臨した瞬間、リベリアとハーツが立つ大地が赤く光出す。そしてゴボゴボと溶岩が吹き出そうとする前にリベリアはハーツに跨がって空へ回避する。もう、『火の神殿』の辺りは真っ赤に染め上がっていた。赤き炎と全てを飲み込まんとする溶岩によって。
「ハーツ、あの火の龍から離れるんだ!」
『わかった!』
近付いてもいないのに火の翼龍による熱気は凄まじい。草木を一瞬にして、中にある水分は蒸発し枯れて燃え出したのだ。加えてそこらに転がる石や岩も溶けたチョコレートの様にどろどろとしている。
「神話から伝承する通りだっ、流石は"無限のエネルギー"を有する火の化身ッ!!!」
女軍人は火の神を恐れもせず、むしろ不敵な笑みを浮かばせて腰に携えたレイピアを抜いたのだ。そして彼女の剣から冷気が発生する。しかも女軍人を中心に大地は元の状態へ戻っていく。
「『五大属性』の一つ、水を操る私であれば火の神を捕らえる事が出来る筈だ!」
レイピアを火の神へ掲げた瞬間、上空に水の塊が出現する。その水の塊は徐々に大きくなっていくと巨大な火の神の身体全体を覆ってしまいそうな規模の巨大さになってしまう。
「さあ、はじめよう!」
女軍人がレイピアを振り下ろした瞬間、水の塊は巨大な蛇となって火の神に襲い掛かったのだ。水の大蛇は大口を開けて火の神の首を食らい付く様にして突っ込んでいく。その際に灼熱の炎と津波如く押し押せる大量の水によって水蒸気が雪崩れ込む様に辺り一面に広がっていった。
「させるかッ!!!」
「!」
水蒸気の霧から女軍人へ斬りかかったのはリベリアであった。リベリアの剣をレイピアで防ぐ女軍人。リベリアの一撃目は凄まじいのか、女軍人が立つ地面がバキバキっと割れてしまう。
そしてリベリアは一度に三度神速の如く剣を振るうのだが、辛うじて女軍人ではそれを防ぎきった。が、険しい顔付きである。
「剣術に関しては、私より上か!しかし、いいのか。お前、燃えているぞ?」
「───っ」
女軍人の指摘に、リベリアは理解する。彼女が着ていた騎士の鎧は熱で溶け、白き服は突如発火したかの様に小さく燃え出していたのだ。唯一リベリアが振るう剣はそれなりの業物である為に溶ける事はない。
「私を止めるなら、せめて『五大属性』の何れかを有していなければ、なっ!」
「くっ!?」
横から突如として濁流の如き水龍がリベリアに襲う。水龍により攻撃は受けてしまうものの、完全に飲み込まれる前に自力で回避する。結果的には燃えていた服は鎮火したものの、鎧と服は役目を全うできずにリベリアの肌が際どくも露出してしまったのだ。
「中々妖艶な身体をしてるではないか。お前をここで倒し、部下達の慰め者にでもしようか」
「っ!」
『ママからはなれろ!!!』
「!」
リベリアに襲い掛かる水の触手をハーツは尻尾でなき払い、第二擊目は女軍人を狙って吹き飛ばそうとする。
けれども、間一髪でハーツの尻尾は女軍人に直撃する前で止まってしまう。氷の壁だ。女軍人はギリギリのタイミングで氷の壁を張り、受け止めていた。しかし、女軍人も肝を冷やしたらしくハーツの尻尾を見て表情が強ばっていたのだ。少しでもタイミングが遅ければ、即死していた可能性もあったからこそ、である。
「その見た目に反して、これ程の身体能力だとは驚いた。───に、しても雌か。ならばその賢竜を雄のモンスター達と交尾させれば、更に強いモンスターが産まれるかもしれないな」
『っ!?』
「逃げようとしても無駄だ」
一度リベリアと共に離れようとするハーツだが、尻尾が氷の壁にくっついて離れないのだ。しかも侵食する様にハーツの尻尾は少しずつ凍ってくる。
「ハーツを、離せ!!!」
「惜しい、惜しいな。もし他の『五大属性』の一つが使えていたら私に勝機はなかったかもしれん。だが、現実は非常だ。お前は、剣技のみで他はなにもない!!!」
水はリベリアの身体を拘束し、ハーツ共々身動きが取れない状態となってしまった。そして天空には火の神が水の大蛇に襲われ、身体を氷付けされていくのだ。
絶体絶命の状態に、『火の神殿』から女軍人と同じ服を着た男が血相をかいてやってきたのだ。
「しょ、将軍!」
「何事だ、騒々しい」
「い、今すぐお逃げ下さい!侵入者です!」
「……何を言っている。侵入者ごとき、さっさと殺せばいい」
「既に仲間が全員、ころさ────」
ピンっと、女軍人と話していた男の首が風に吹かれた埃の様に飛んでしまう。宙に舞う男はまるで何が起こったのかもわからない様子。恐らく、自分が死んだ事にも気付かずに絶命してしまったのだ。後から残った首から下は、首の断面から血潮が噴水の様に辺りに散らばりながら後ろへと倒れてしまう。
「!」
女軍人はその光景に目を丸くするしかない。
何せ、何が起こったのかもわからないのだから。
何故、どうして目の前にいた部下がどうやって殺されたのかもわからない。
嫌な汗が頬へ伝う感覚がありながらも、女軍人は辺りを警戒する。あの攻撃を見抜けなかった時点で、次己が標的のなれば目の前に死んだ部下と同じ結末になってしまう。
「ほぅ、非常に愉快な事になっているではないか」
『火の神殿』の奥。
そこから現れたのは一人の獣人と人間。
人間の男は煙草を加えつつ、ロングコートで包んだ女神官を抱えている。女神官は気絶しているかどうかは不明だ。先に前に出ていた狐の美少年はその容姿に似合わない妖しく、鋭い眼力は女軍人を戦慄させてしまう程、脅威を感じてしまう。
「───さて、そこの女か。それとも天空に舞う火の化身か。どちらが楽しめそうだろうな?」
後々に『五大属性』の設定等も何処かで紹介します。