原初の火
これは、主人公も知らぬ設定。
何気に男キャラ初登場?
それは、まさしく"火"であった。
しかしながら、その姿は鳥か龍なのかはどちらにも見えてどちらにも見えない。だからと言って鳥と龍を足した様な姿ではないのだ。どちらかと言うと足して割った姿だろうか。
"原初の火"は轟々と身体を燃え上がらせながら周りにある熔岩を燃やしていく。熔岩自身、泥々に熔けている筈なのにそれが水の様に蒸発していくのだ。
"不滅の炎"・"始まりの灯火"。そんな名を持つ"原初の火"は酷く憤っていた。
原因は一つ。
"原初の火"が眠る火山の麓に存在する、己を祀る神殿に侵入者が現れたのだ。その侵入者は多数存在しており、"原初の火"からすれば騒々しい邪魔な者達。しかもその者達はどうやら"原初の火"を探している様だ。
何の目的かは知らない。
が、"原初の火"も己の眠りを妨げる人間達を許す筈がない。深く、深く眠りに着いた"原初の火"は己が眠る場所から怒りと共に火を燃え上がらせる。
"原初の火"は決して消えぬ。
常識が通用しない掟破りな存在だ。
かつて、"原初の火"を巡って数多の神々が我が物にしようと大きな戦争を起こしたと言う逸話を残す。しかしながら、"原初の火"の名は人々の記憶から消え去った。
人間達にとって"原初の火"は、文化と技術等の恩恵をくれた神と呼ぶべき存在だ。けれども、それはあくまで人間達が勝手に思っているだけに過ぎない。"原初の火"にとって、単なる気紛れであり己を祀る神殿を建てた人間達も単なる都合の良いものでしかない。しかし、己を祀り崇める人間達の中で気に入った者を一人二人に力の一端を授けている位だ。その授けた者の一人がこの神殿を守る女神官が、今侵入者達に危害を加えようとしていたのだ。
お気に入りを手を出すならば容赦はしない。だが、そんな侵入者に何も出来ずにいる女神官も、もうお気に入りではない。心底幻滅した"原初の火"は、人間達に牙を向く。
"原初の火"『ヒノカグツチ』が、この世に降臨するのは火山の噴火と同時であった。
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数刻前。
九十九篝はとある場所へ訪れていた。
「何だ、クソガキ」
「そんなガキ相手に苛つくでない、『ヴァッカス』」
大きな部屋の一室。そこが客室間だと分かるだろう。その社長室にありそうなソファーに座るオールバックの男『ヴァッカス』は九十九を見て巻き煙草を口に咥えながら眉間に皺を寄せていた。年齢は 20代後半から30代前半。まさしくマフィアのボスに相応しい服装と威圧感ある風貌は大の大人であっても、恐ろしく感じるだろう。
「今日は何だ。いいもんでも見つけたか」
「最近いい穴場を見つけてな」
そう言いながら九十九はアタッシュケースをヴァッカスの目の前に置き、向かいのソファーに座った。そのアタッシュケースはまさしく貴重なもの、金目のものが入っていそうな高級なもの。
ヴァッカスは近くにいたサングラスの男に目で合図すると、そのアタッシュケースを開かせたのだ。そして、そのアタッシュケースの中を目の当たりにしたヴァッカスは微かに片眉を動かした。
「宝石か」
「あぁ、見たところ鉱山みたいでな。価値ありそうなものを持ってきたが……どうだ?」
「……お前が削ったのか」
「当たり前だ。単なる天然石では価値にもならんだろう?」
「確かにな」
ヴァッカスはアタッシュケースの中に丁寧に納められていた宝石を一つ手に取り、確認する。強面な彼だが立派な大商人だ。しかしながら彼は大商人だけではなく、この国の元締めの様な存在である。
「……こりゃ『属性石』。いや、もうこれは『属性宝石』、か」
「ほう?」
『属性石』。
名の通り『五大属性』と呼ばれる属性の力を宿す天然石の事であり、希少価値が高い鉱物だ。長年魔力が蓄積された鉱石だ。人工的に生み出すのは不可能とされている。そもそも『属性石』自体、発掘されたのはこの国で二桁もいかないのだ。世界的にも希少な天然石。
しかもその『属性石』を九十九は加工して宝石にしていたので、『属性宝石』になってしまう。
『属性宝石』───只でさえ希少能力とされる『五大属性』を保有するのは滅多にいない。恐らく国に二人三人だけでも多い方だ。現にこの国では第二王女と王国宮廷魔導師長の二人しか存在していない。
「こりゃ、喉から手を出してでも欲しがるだろうなぁ」
「だろうな」
『属性宝石』があれば『五大属性』を扱える事が可能だ。誰でもこの世で希少な能力『五大属性』を扱えるならば、誰でもは欲しがるのは間違いない。特に王族や貴族であるならば、尚更だ。
「クソガキ、お前『五大属性』は?」
「使えんが」
「じゃあ、お前が持っておいた方がいいんじゃねぇか?『属性宝石』一つで世間の目は───」
「いらん」
九十九は即答する。
その返答にヴァッカスは『お前ならそう言うか』と言いたげに溜め息を吐いていた。九十九も九十九で不満そうな目でヴァッカスを眺める。
「己の力でもない力等いらぬわ。そんな『属性宝石』他にくれてやる」
「───ったく、売るのはこっちだぞ。『属性宝石』、それを売れば王族貴族の野郎共がこぞって嗅ぎ回るだろう……まあいいが」
「採掘した天然石は全て加工した。無論その八割は無駄にしたがな」
「勿体ねえ……と、言いたいところだが。むしろ8つだけならばいい。もし仮に全て成功していたら、数は60を越える。しかも御丁寧に失敗したものも持ってくるとは」
「最高傑作は貴様が手に持つその一つのみ。後は……70点80点。それも失敗も同然だがな」
「……お前、意外と器用なんだな」
「細かな作業はどうしても力が入ってしまう。更に上手く、完璧にと求めてしまうのは仕方があるまい」
どうやら九十九は熱心に『属性石』を削る為に苦労していたのだ。元々は、初めて結婚する際にこの世で一つしかない結婚指輪を作ろうとしたのが切っ掛け。一から宝石になりそうな天然石を採掘し、それを削っては失敗を繰り返した経験は彼にとって酷く懐かしい記憶だ。
「それ相応の金額を振り込んでやる。楽しみにしておけ。それと失敗したやつも───」
「その8つ以外は0でよい」
「失敗作とは言え、かなりの値になるが?」
「構わん。その失敗作は何かしら活用法があるかもしれぬ。それについては貴様の方が既に目星を着けているのではないか?」
片目を瞑りつつ、九十九はヴァッカスの様子を見る。ヴァッカスはヴァッカスで煙草を噴かしながら、溜め息を吐いていた。だが、ヴァッカスからすれば8つの『属性宝石』のみだけというのは魅力的だ。しかも失敗作の『属性石』は無償で提供するときた。ヴァッカスは九十九の言う通り既にその失敗作の活用法を幾つか浮かび上がっている。
だが。
「クソガキ、お前欲しいものがあると言っていたな」
「あぁ。確かに一つあったな、あの甲冑が」
「……アレか」
ヴァッカスが苦い顔をしてしまうのも無理はない。
九十九が欲しがる甲冑は、単なる甲冑ではないからだ。その鎧は、誰も身に付けたくはないもの。それは"呪われた鎧"とも呼ばれる曰く付きなものなのだ。
「ヴァッカス?」
「クソガキ、アレをやる」
「!」
九十九は初めて驚愕の表情を露にしてしまう。そもそもそれは売り物でもない。むしろ封印すべきものなのかもしれない。けれども、そんなものを欲しがる者は目の前にいる九十九篝だ。『属性宝石』よりも遥かに価値があるものだと言わんばかりに、何度も交渉してきたことがあった。
「それは、真か」
「そうだ。『戒めの鎧ネメシス』……お前が何に使うかは知らんがな。身に付ければ装備者の魔力を喰らうイカれた鎧だ。確かお前は魔力量だけならかなりの量を保有しているだろうが……いや、お前なら使えるだろうな」
『戒めの鎧ネメシス』を貰える事になり九十九はルンルン気分である。意外と喜んで楽しみにする九十九の姿は希少だったりするのだ。
「何時貰える?」
「この地下にあるさ。今からでも可能だが」
「よし、今行こう直ぐ行こう♪」
「わーかったよ」
九十九は鼻唄でも歌いそうな機嫌の良い姿にヴァッカスはやれやれと言いたげな様子。ご機嫌な証拠に、九十九の尻尾はふりふり♪と揺らしながらソファーから立ち扉の前で待っていた。
しかし、そんな九十九の楽しみを奪う出来事が起こってしまうのだ。
「っ!?」
「地震か!」
大地が波打つ様な異常な地震が、この国を襲ったのだ。地震にしては揺れる範囲が広く、左右ではなく上下に突き上げ、振り落とす様なもの。
地震は珍しくはないが、これは誰でも異常なものだと理解できるものだ。
「地震にしてはあまりにも不自然すぎる揺れだな。クソガキ、お前の目で何かわかるか?」
「わからん。ただ……ほほぅ、これは中々面白そうな気配がする。ヴァッカス、貴様もわかっているであろう?」
「面倒臭いことこの上ないな、ったく……」
「『ネメシス』についてはまた今度にする。用が出来たからな」
「待て、クソガキ」
何処かに向かおうとする九十九を呼び止めるヴァッカス。彼は掛けてあったロングコートを羽織ったのだ。そして腰に携えていた銃を二丁を確認すると九十九の頭を上からわしゃわしゃっと荒々しく撫でる。
「何をする」
身長は196㎝もあるヴァッカスからすれば九十九は小さい。丁度いい位置に九十九の頭があるので、撫でやすいのだろう。
「行くぞ、クソガキ」
「貴様もか?」
「後々面倒になるかもしれねぇからな」
そう言って煙草を吸いながらヴァッカスは先に行ってしまう。その後ろ姿を追うように不満そうな九十九は渋々着いていくのであった。
場所は、『火の神殿』と呼ばれる火の神が眠りし火山の麓。そこが地震の発生源であり、急激に莫大な魔力が発生していた場所。そしてそこには『五大属性』の一つを操る"原初の火"『ヒノカグツチ』が目覚めた場所でもあった。
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