九十九篝は、ヒロイン⑤に戸惑う
おまたせ☆
しゅらっ、しゅらば……?
どうして、こうなったんだろうか。
俺はただ、家に帰ってきたというのに……。
「お帰りなさいませ、篝様」
玄関前にはヒロインの一人であり、俺の幼馴染みである犬の獣人『皇奈瑞菜』が……。そして何故か彼女は使用人の服───つまり、メイド服を装備した状態で待っていた。
いや、ね?
今日は学園がありますことよ?そんな格好じゃ弄られるに決まってるでしょうに……。しかも口調もお堅い感じは全く違和感があるな。
俺が知る皇奈瑞菜は、人懐っこい本当に犬のような明るい娘だった。けれども今の彼女は真逆のイメージしか湧かない。
どうしたどうした?
何があった、『皇奈瑞菜』。
一応だが、彼女とは最初は恋人同士になった一週間後にNTRていたというヒロイン中一番NTRが速かった。いや、この時はむしろすげぇって素直に思ったよ。一週間後よ一週間後。何か、どんなNTR方したのか気になったわ。二番目は結婚式直前にウエディングドレス姿で男とヤってんのを目撃。奈瑞菜は悲鳴を上げて驚いたのと表紙に魔法を撃って、俺顔面直撃。無事死亡である。
そして、最後が問題だった。
結婚して、息子を授かったのは良いものの……やっぱり間男の子であった。あの子を本当の息子みたいに可愛がっていたし、『いつか、ちちうえのようなきしになります!』とか嬉しいこと言ってくれてたんだけどなぁ……。彼女の差し金かは不明だが、何故か俺に身に覚えのない罪を着せられ、祖国の敵となったんだ。そして、息子───いや、間男の子によって俺は殺されたんだ。あの時がキツかったな。あの子が『父上』って呼んで泣きながら俺を斬ったんだから。多分、あの子は俺が悪者だと信じていたんだろう。でも、な。あの時……確かにあの子は間男の子供だったけど、俺は本当に自分の息子だと思って育ててきた。だからこそ、俺はあの子にあんな顔をさせた事が何より悔しかった……。
あれからどうなったのかはわからない。
けれど、あの子は……洗脳とかはされてなかったと感じた。
はぁ……嫌なことというか、懐かしいな、本当に。
「篝様……?」
「……何のようだ、貴様」
「はい。今日から篝様と使用人となりました。改めて、『皇奈瑞菜』でございます」
「名などどうでもよい。何故、貴様が俺の使用人だ」
「撫子様の御命令です」
……うそぉん。
撫子───俺、九十九篝の母親だ。
因みに九十九撫子、ではない。
出雲撫子。一応俺は訳有りで九十九という苗字を名乗っているが、本当は出雲 篝だ。今更感あるけど、ごめんね?
しかし、我が母の命って……どうしたんだ?
そもそも、そんな命令権なんてある筈がない。あったとしたら、1つ。俺の母親が『出雲家』の当主となったこと位……って、まさかのまさか、か?
「おい、まさか……」
「はい。撫子様は出雲家当主として、命令されました」
oh……マージっか。
予想外デース。
出雲家は、代々狐の獣人が当主になるという特殊な家系なのだ。けれども母は当主という立場が興味ないのか代理として祖父が当主としてやっていた。何時でも母がやる気になれば当主として君臨するのだが……何があったのだろうか。と、言うかそんな事前でも起きたこと無いぞ?
一体全体どうなってる?
黒騎士君といい、母上の件といい……。
そして、皇奈瑞菜……お前が一番どうした、である。
ウザくも可愛いあの彼女は何処へ行った。多少はペットの様で愛らしかったんだけども……。それにしても、そのメイド服……やはり、バイトのやつよりもしっかりとしてるなぁ。
「……篝様。私の身体、何処かおかしいでしょうか」
いや、おかしくないよ?
てか、母上が寄越した相手に『失せよ』なんて言えないんだよなぁ。正直喉の奥までその言葉が出かかっていたりするんだけど。
ふぁぁ……うむ、流石にオール二日目は多少眠たくはなるか。
奈瑞菜の事については……仕方がない。
「女、お前が俺の使用人と理解した」
「ありがとうございます」
「だが、今は必要ない。さっさと帰るがよい」
そう言って俺は鍵を使って自分の部屋に入る。このままシャワーでも……ってそれは面倒臭いか。一度眠ってから食事とか何とか考えよう。そう思いながら靴を脱いで寝室に向かおうとするのだが……。
「何故入ってきた」
「篝様の使用人ですので」
「必要ないと───」
「篝様の身の回りの世話は私が行います。ご安心を」
安心できないな───?
本当はここで何とか適当に言って家から追い出したいが……眠い。一度寝ようと決めてしまえば余計に眠たくなってしまう。くぅ……奈瑞菜をどうしよう。
「……もうよい。俺は今から寝る。お前はテレビでも見て寛いでおけ」
「ですが──」
あ゛~~~俺は寝るんだぁぁぁぁあ!!!
何か奈瑞菜言ってるけど知らねーよ。眠らせろぉぅ!
さて、寝室に入ってベッドへダイ……ぶ?
「…………おそいじゃない」
「は?」
何故にギャルが?
しかもベッドにギャルだけではなく狼女とビッチまでもが寝ていやがる……!俺の寝る場所ねーじゃねぇか!!!
「ねぇ……」
「話は後だ。寝させろ」
「じ、じゃぁ、横に寝る?」
「……もう、いい」
ヤバい、とりあえずベッドに寝させて。
ギャルが両手伸ばすから、もうどうでもいいや。俺はゆっくり倒れる様にしてギャルの胸に顔を突っ込んだ。
……うむ、柔らかい。極上の枕だな……♪
「えっ、ちょっ、ほんとにっ!?」
「黙れ、ギャル」
俺を寝させろ。
何でここにいるとか、弁当で引いて来るわけがないだろうとか、今はとりあえずどうでもいい。そんな事起きてから考えればいい話だ。
……あ、そう言えば奈瑞菜はどうしよう?
ヤバくね?
それよりも、眠くね?
…………うん、寝よう。
とりあえず、おやすみぃーーーzzzzZ
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ギャルこと、ルナの胸に顔を預けて眠る篝は実に穏やかであった。険しいそうな眉を緩め、何処にでもいそうな子供の様に眠る姿にルナは溜め息を着いてしまう。
「アンタ、本当に……」
そう言いつつも、ルナは気付いた。
彼から匂う女性ものの香水を。その香水はルナだけではなく雨宮(狼女)とマリ(ビッチ)とも違う別のもの。加えてネットリとした知らぬ女の匂いも彼から匂っていた。
「……誰なのよ、もぅ」
頬を膨らませながら、ルナは眠る篝の狐耳を摘まむ。最初の頃は、それをしてしまうと咄嗟に起きて機嫌が悪くなるのだが、今ではもう起きる様子もなく耳もピコっピコっと反応するのみ。ふにゃりっと、寛いで和む篝の表情に思わずクスッとしてしまう。
けれども、そんな事もしていられなかった。
「……誰よ、アンタは」
「御取り込み中、失礼します」
部屋に入ってきたのは、九十九篝の幼馴染み皇奈瑞菜であった。茶髪で短髪な犬の獣人である彼女は、ベッドの前で正座したのだ。突然現れた彼女にルナは警戒はするものの、篝の関係者だと察するが一体どういう関係か気になってしまう。と、いうより、何故メイド服なのかツッコみたいが、そのメイド服自体使用人の様に実用性のあるものだったのだ。
「何者なのよ?」
「私は皇奈瑞菜と申します。本日から九十九篝様の使用人として参りました」
「……へぇ?」
何となく九十九篝は高貴な存在なのは薄々勘づいてはいた。先に気付いたのは雨宮である。同じ獣人として何かそういうのを感じ取ったらしい。けれども、目の前にいるのは使用人以前に女性だ。篝とそういう関係な可能性は十分ある。
「使用人、ねぇ……」
「私は篝の使用人です。それ以下でもそれ以上もありません。ですが、篝様の御意志であるなら……」
何の躊躇いもなく、淡々とした話す皇は感情を圧し殺している様にも見えてしまう。皇は恐らく篝が求める事ならどんなことでもしてしまいそうな危うさを感じ取れる。まるで、篝の事を崇拝すべき神の様な感じであった。
「宜しいでしょうか」
「なによ」
「篝様は、貴女に心を許している様にも見えます。篝様の恋人でしょうか。あと、そこに寝ている二人も……?」
「……そういうもんじゃないわよ。篝と私達は、身体だけの関係。ただそれだけ、よ」
「左様で御座いますか」
「それに、私達以外にもヤってるみたいなのよね。ほんっとに……」
「───それは、貴女達の身体では満足出来ないだけなのでは?」
「は?」
思わずルナは皇を見下ろす様に睨む。それに対して皇は何食わぬ顔で真っ直ぐな瞳でルナを見ていた。
皇の発言は事実なのかもしれない。いや事実なのだろう。だが、それを自分達では力不足・不十分とでも言いたげな発言にルナの感に障ったのだ。
「なに、喧嘩売ってんのかしら?」
「事実を申し上げただけですか……」
本当に悪怯れる事なく、本心からそう発言する皇にルナは内心怒りに怒っていた。ポッと出の女にそんなことを言われなくはないのだ。例え事実だとしても、そんな事を言われる意味がわからない。
「じゃぁ、アンタなら篝を満足出来るっていうこと?」
「どうでしょうか。もし、篝様が求めるのであれば精神敬意お応えしましょう」
「……(この女)」
敵だ、とルナは理解する。
恋敵程ではないが、それに近い。明らかに皇は篝に気があるのは確かだ。その証拠に表情は出ていないが、少し頬を赤らめるのはダメである。
「ですが、安心してください。私は篝様と貴女方の間を引き裂こうとは思っていませんので」
「?」
「貴女方を応援しましょう。ですが、篝様を傷付け、悲しませる様な事があれば───殺します」
「!」
殺気はない。
殺意もない。
ただ、それが動作の一貫の様に皇の両手には鋭利な短剣が握られていた。自分達を殺害するのも躊躇もせず、それを動作だけで実行してしまう安易な雰囲気が恐ろしさを出している。もし、ここで殺気を出せば流石に篝が起きてしまうだろう。
「私達を、殺すって?」
「いえ。あくまで篝様に害成せば、の話です」
そう言うと皇は握られていた短剣をいつの間にか消していた。恐らく彼女ならば、そうなってしまった場合本当に殺しに来るだろう。だが、本当に起こってしまえば、だ。
「……」
「恐ろしい事言うッスねぇ?」
「起きてたのね……」
寝ていたと思われていた雨宮(狼女)とマリ(ビッチ)もむくりと起きて皇を見下ろす。篝は皇を全く害の無い相手、というより敵にもならないとわかっているのか完全にルナの胸の中で熟睡していた。
「皇奈瑞菜。確か入学後直ぐに祖国へ帰省してるッスね?」
「よくご存じで」
「情報は命ッスからねぇ♪」
裸の姿でマリは皇にニヤニヤしながら目を細める。マリが言う通り、皇は入学後直ぐに祖国へ帰ったのだ。その理由は不明である。マリは情報収集能力は高いが、自分の周りの環境についてのみしか収集しないのだ。
「……」
「お久しぶりです、時雨様。お元気そうで」
「……えぇ」
皇奈瑞菜と雨宮時雨(狼女)。
この二人は特に互いに見合いながら、睨み合っている訳でもないが妙な威圧感がある。しかし、そんなことは他の二人にとって関係ない。ルナとマリはこの二人が知り合いなのだろうとはこの雰囲気で察していた。
「───では、私は朝食を御用意しましょう。貴女方は篝様をお願いします」
「ちょっと、待ちなさ───」
「……ルナ、大丈夫」
ルナを制止し、雨宮は篝のカッターシャツのみを着て皇と共に部屋へ出ていく。恐らく手伝うのだろうが、二人は二人で話があるのかもしれない。二人は───同じ出身国だ。これ以上あまり口を出すものではないと理解したルナはふにゃふにゃと珍しく気持ち良さそうに自分の胸に埋めて眠る篝の髪を鋤かす様に撫でながら溜め息を吐いてしまう。
「本当に……全く」
「ライバル、登場ッスかね?」
「めんどくさいわね……起きたら訊ねましょうか、篝に」
「そッスね♪」