加賀 蓮は尽くしたい
こんちくわ
感想・評価ありがとうございますm(__)m
私は……どうすればよかったんだろうか。
教師として、恋人として、妻として相応しくない人間だった。私はかつて、18の時に結婚したのだ。しかし、その時から私は仕事人間だった。夫は貴族の人間だったので、家事などしなくても使用人が全てやってくれている。私も、夫も仕事を中心とした生活たった。
それでも私は夫を、愛していた。
しかし、夫は他の女の元へ行ってしまった。あの男は死んだとされているがそれは違う。私を捨てて、他の女がいる外国へ行ってしまったのだ。死んだことにしているのは、彼の親が己の貴族としても面子を保つため。彼が浮気した等、家の評判を悪くにしかならないのだ。
それからだろうか。
貴族や男など信じず、頼らずに生きてきた。
教師として、一生独身として生涯を尽くそうと誓っていた時もあった。
けれども、私は出会ったのだ。
彼───九十九篝に。
『先生、プリント持ってきましたっ!』
子犬のように尻尾を振って私の元に来てくれる可愛い生徒だと最初はそう思っていた。あの可愛さは彼が獣人ということもあり、それを余計に愛らしさを引き立たせていたのだ。彼は素直で、真面目で何事にも真剣に取り組む熱心な子だった。誰にでも愛嬌ある容姿は女子生徒だけでなく男子生徒からも人気があったのだ。無論教師達でも、一部アイドル的な存在でもあったかもしれない。
けれど、私は何時から間違えたのか。
あれほど浮気等、一番嫌っていた行為を私はやってしまったのだ。
何故かは、わからない。
何故、と自分でも問い掛ける事は多々あった。しかしそれをずるずると彼と付き合う前から、そして結婚後も関係を持ってしまったのだ。その結果、彼が仕事から帰ってきた時に目撃されてしまった。
ごめんなさい、ごめんなさい。
何度も謝罪をしたが、その時の彼は怒ることも泣くこともしなかった。ただただ、何も感情を現さず涙を溢すだけ。そして最後に『幸せに出来なくて、ごめんなさい』と告げた後彼は何処かへ行ってしまった。
それが、あの時が彼の最後の言葉だった。
当時、その時は大国との戦争があったのだ。
そこで、私は知らされた。
九十九篝が戦死した、と。
頭が真っ白になりながらも、私は自ら戦前に行く候補をした。彼の遺体は未だに敵国にあると聞かされていたからだ。私は己の罪を償うという理由で彼を取り戻そうとした。
けれども───。
敵国の将軍を見た時に、私は目を疑ったのだ。
その将軍の女が、首に巻いている金色のファーは、それは……。
『あははっ!これ?これはかわいい狐の獣人の尻尾さ♪かわいくて奴隷にしてたんだけど、色々遊んでいる内に死んじゃった!でも、敵は敵だし、仕方がないよねぇ?』
彼の、尻尾は、あの女がまるでオシャレの一部にされていた。そして既に彼の尻尾以外は焼却したと笑いながら話していた。私は怒り狂ってその女を殺そうとしたのだ。けれども相手は将軍。実力は私より上だった。
あの女は、私の薬指に填められた指輪を見て言うのだ。
『その指輪って、あの狐君と同じ……ってことは、あなた彼の奥さんだったの?ごめんねぇ~、狐君、私がおいしくいただいちゃった♪』
私は地に伏したまま身動きが取れず、その女の話を聞くことしか出来なかった。しかし、あの女が言った最後の言葉に私は絶望してしまう。
『実はさ?あの狐君を普通に殺すのは嫌だったから……幻覚が見える薬を何度も注射したんだ。そしたらどうなったと思う?彼、私の事を奥さんだと思って泣いてたんだぁ♪だって、そうだよね?最後に自分を殺したのは奥さん───つまり、あなただって思って死んでいったんだから♪』
わたし、が……殺した、ことに?
なんて、酷いことを。
けれども、私は言い返せなかった。何故なら、もう既に私は浮気という彼の心を殺してしまったのだから。だからこそ、私は悔いて悔いて……そして、本当に己を呪った。
もう、彼に会えない。
そして、私に殺されたと思って死んでいったんだ。
何が妻だ、何が浮気が嫌いだ!
私は、私は───あの男と同じじゃないか!!!
彼を、傷つけ、死まで追いやった!!!
もう、もういい……いいや。
誰か、私を殺して。
もう、何もかもが嫌だ。
『ん~っ、殺すのは止めとこっかな♪その代わり、その指輪とこの尻尾はわたしのだからね☆じゃー、バイバーイ』
あ、あぁ、嘘だ。
その指輪は、その指輪だけは───彼が、初めて私にくれた大切な───。
やめて、やめて!!!
これだけは、これだけは────。
けれども、あの女は私の指輪を奪いその場から離脱するのであった。そして、私は、助かってしまったんだ。
私は、周りから夫を敵国に殺された可哀想な未亡人と認知されていた。
何もかも、失った。
いつの間にか、浮気相手も消えて居なくなった。
因果応報だ。
当然の報いなんだ。
苦しんで当たり前なんだ、私は。
自分は、悲劇のヒロインとか微塵も思っていない。むしろ極悪非道な女だと理解している。もう、私には彼がいない。あぁ、もし、出来るなら……彼の手料理を食べたかったな……。私も妻として炊事洗濯を彼に教えてもらい、漸く人並みに出来るようになった。けれども、彼が作ってくれるオムライスは格別だっんだ。何度も彼が作るのを真似しても、上手く出来なかった。ただ普通なオムライス。
親からは何度も見合いの話は設けられたが、私は余程窶れていたのか相手は見合い後に御断りしていた。
もう、どうでもいい。
こんな事になるなら、あのまま欲に溺れたバカな女に成り下がればよかった。何も考えず、こんな罪悪感も無く無様に堕ちるところまで堕ちてしまえばよかった。
私は、生きた屍の様に実力を認められて騎士となった。そして、彼を殺した敵国の基地へ独断で乗り込み、自ら自爆することによって基地を半壊させて私の命は自ら断った。
けれども、私は生き返った。
いや、生き返ったんじゃない。
ここは、私の部屋。
まだ彼が入学するまで、アパートだ。
……あぁ、凄い散らかってる。
こんなこと、してたら篝は怒りながらも掃除してたっけ。
本当に、前の私はバカだなぁ……。
私は夢の中にいる様な感覚で、汚い自分の部屋を掃除して学園に向かったんだ。
そして、私は───彼と出会い、再び何度も間違えた。
あの男だ。
あの男が、全ての元凶だったんだ。
けれども、どうすることも出来ない。
私は無力な女だった。
他の女と結婚した彼の姿など見たくはない。けれども、私は───胸が締め付けられる日々が毎日毎日、いや、何度も何度も、何年、何十年、何百年と過ぎても変わらない。時間が巻き戻される度に、私は彼の思う気持ちは強くなっていく。
彼は、何をしてくれれば喜ぶんだろう。
誰を消せば、安心するんだろう。
どうすれば、彼は私の物になるんだろう。
自分でもよくわかる。己が異常な思考に陥っているのは。けれども、それが私が生きる意味となっていた。
「私は、心配なんだ。入学早々に孤立してしまったお前が。一年だけではなく他の学年もお前を恐れている。だからこそ、私を頼っ───」
「で?」
「───なに?」
「だからどうした、というのだ。俺は俺がしたいようにやっているだけ。何時かその報いを受けると言うのであれば───面白い。楽しみに待っていようではないか」
「バカな事を。私はお前の事を思って……」
「要らん心配だ。そもそも一クラスの担任が、たった一人を贔屓するのは問題ではないのか?」
「それは」
私は自分が正常なのか、異常なのかわからない。ふと気付けば恐ろしい事も考えていたり、彼の事を思って当然な考えもしていた。もう、自分自身がよくわかっていない。
けれども、私は彼を抱き着きたかった。
しかし、私は教師だ。
葛藤の中、今の彼を見て泣きたかった。
その言動・態度が、昔の九十九篝とは遠くかけ離れていたのだから。何時もの様に『先生!』と呼んで欲しい。『必要ない』なんて言わないで。
あの時の様に、私を頼ってよ。
君が望むなら、何でもする。
誰だって殺せる。
だから、私を見て。
私だけを見ていて。
次こそは、貴方を幸せにする───なんて事は言わない。
私は貴方を幸せにするまで、私の全てを尽くそう。そして、他の女と結婚しても構わない。けれども、次こそ彼を幸せにしない女だったら私がこの手で抹消しよう。
貴方の姿を見れるだけでいい。
もう、貴方が幸せな姿を見れるだけ十分だけど───。
私は、私は、貴方をここ先ずっと───愛しています。
次回は、唯一篝が名前を覚える女性キャラが……。
因みに次は風俗でありんす。
加賀 蓮はどちらかというととことん尽くしたい派かな?