九十九篝はハンデを与える。
ねむねむ……( ´・ω⊂ヽ゛
修羅場は一段落してから。
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正午。
学園の第一闘技場では、噂を聞き付けたギャラリーが賑わいを見せていた。天気は申し分ない晴天であり、夏にしては心地好い風が吹いている。人にとっては丁度良い気候だろう。
そんな格技場はコロシアムの様になっており、その中心にはこの学園の生徒会長シャルロットが佇んでいた。学園指定の制服の上には本来戦闘用に付けられた鎧もある。
「生徒会長~~~!!!」
「シャルロット様!!!」
「生意気なあの一年、潰してくださぁーーーい!!!」
観客席から飛び交う轟音の如きなる声援はどれもシャルロットに対する応援であった。特にシャルロットは全学年の男子生徒達から人気が絶大である。その為、シャルロットファンクラブというのが全学年で結成されており、既に新一年でもそのメンバーが多くいるとか。
「……」
しかし、シャルロットは目を閉じたまま観客席のギャラリーに対して返事はしない。彼女は極限なまでに集中しているのだ。彼女にとって、この戦いはこの世で最も大事な戦いである。だからこそ、ギャラリーの声援等は彼女にとって単なる雑音でしかなかった。
「待たせたな」
同じくシャルロットが立つコロシアムに新たに入場する者がいた。
九十九篝である。
制服を着ているが、ボタンは胸元まで外れシャツの下をズボンの中に入れずに全て出ていた。完全に服を乱している。本来なら生徒会長であるシャルロットは注意すべきなのだろうが、今はそんなことどうでもよかった。
「ようやく、来ましたね九十九篝君」
「ほぅ……中々多くのギャラリーがいるではないか。お前の差し金か?」
「まさか。けれど、コロシアムを使うとなれば必然的に情報は回るでしょう?」
「それもそうか」
第一格技場を借りる場合、その手続きをしなければならない。その為、何故使うのかという理由の大半が決闘だったり今の様な戦いをしたりするのである。だからこそ、予約が取られている格技場についてギャラリーが集まるのは必然でありそこで何をするのかもそこから内容が流れていったのだ。
「さて、始めましょうか」
シャルロットは試合の審判に目で合図をする。
審判はそれに従い、マイクを使ってルール説明をし始めた。
「これから、シャルロット・レヴィリレールVS九十九篝の試合を始める。ルール形式は『ダイヤモンド・ブレイク』です」
『ダイヤモンド・ブレイク』。
この世界の競技一種であるそれは、先に敵の周りに浮遊する特殊な魔石を先に壊していくゲームだ。その魔石の数は人プレイヤーにつき、5つまで。それをどう壊していくか、死守していくかの攻防戦である。本来は団体競技で障害物もあるこのコロシアムよりも広い競技場で行われるのが大抵である。
しかし、単なる相手の魔石を壊す単純なゲームであるが、これはプレイヤー自身の実力にも左右されるのだ。
「……ダイヤモンド・ブレイク、詰まらんな」
思ったのと違う、と言いたげな九十九篝は拍子抜けな表情をしてしまう。しかし、シャルロットは戦うとは言ったが、具体的にどんな戦いをするのかを明言していなかった。これは"戦う"という単なるキーワードで受けてしまった九十九篝の落ち度である。そもそも、学園で殺し合い等出来る筈もなく、学園もこの格技場を貸す条件として"競技という勝負"ならば了承したのだろう。
だからこそ、九十九は溜め息を着きながら仕方がないと割り切るしかなかった。
「勝利条件は、相手のダイヤモンドを全て破壊、或いは相手の戦闘不能で勝利とします」
審判の指示によって、シャルロットと九十九の元に魔石が置かれた皿を手渡される。どれも虹色に光る魔石ではあるが、これが己のライフポイントとなるのだ。
「仕方があるまい」
九十九はその皿に魔力を流すと中に入った5つの魔石は九十九の魔力を吸収して輝きながら徐々に大きくなっていく。そしてそれは風船の様に膨らんだかと思うとそのまま九十九の周りを浮遊し出したのだ。輝きが収まると小さかった魔石は、バスケットボール程のダイヤモンドの様なものとなっていた。魔力の影響か、九十九のダイヤモンド達は金色に輝いている。
一方のシャルロットは、サファイアの様な色のダイヤモンドだ。そのまま売れば高値で売れそうではあるが、残念ながら見た目だけ綺麗である為、それほどの価値はない。これはあくまで競技用の道具なのだ。
「ふむ、どうしたものか……」
正直、遠距離型最強のシャルロットに有利な競技である。別に不満などなかった九十九であったが、どの様なハンデをするか悩んでしまう。
「ふふっ♪さぁ、戦いましょう九十九篝君」
「勝負は勝負。不本意な形ではあるが仕方があるまい。受けてやろう。精々俺を楽しませろよ、女」
「そんな余裕、あるかしらね?」
既にシャルロットは戦闘態勢に入った。一方の九十九は面倒臭そうに腕を組んで仁王立ちである。相手が遠距離型なら少しでも回避する構えをする筈だが、そうする気もないらしい。
審判は両者が無事に魔法を起動させた事を確認した後、戦いに巻き込まれない様に下がりながら口に笛を咥える。その笛は勢いよく吹けばかなり高い音が出るが一瞬。それがこの競技開始の合図である。
「では────はじめ!!!」
同時に笛が鳴り響いた。
シャルロットは右手を握り締め九十九へ向けて突き出すと、その右腕に付けられた籠手からクロスボウが現したのだ。そしてそのクロスボウに蒼天の矢が納められたかと思うと、直ぐに九十九の肩を狙って発射したのだ。
そしてその蒼天の矢を、九十九はつまらない様子で自らのダイヤモンドの一つを盾にして相殺したのである。が、ダイヤモンドはライフポイントそのもの。前例があるにはあるが、それは単なる試合放棄したのと同然。次々と矢を撃ってくるのだが、九十九は己のダイヤモンド4つを盾にして全て相殺したのだ。
「おぉっ、あと一つだ!!!」
「生徒会長の矢は、流石に逃れられないのね!!!」
「そのままやっちまえー!!!」
ギャラリーからすれば、そうせざる終えない状況に九十九は追い込まれているとされていた。確かに自分が戦闘不能になればその場で終わりなので、ダイヤモンドをギリギリまで使って耐えるしかない。だからと言ってダイヤモンドを全て破壊されれば九十九の敗北だ。
もう、後がない九十九。
誰もがそう思っていただろう。
「あと一つ……これで、御仕舞いよ!!!」
そして最後の矢が放たれる。
その矢は九十九ではなく、ダイヤモンドを狙ったもの。
しかし───。
「え?」
カンっと、弾かれる乾いた音が響き渡る。
確かにシャルロットの【鷹の目】では、今射た矢は最後のダイヤモンドに命中した筈。だが、全身全霊で魔力を込めた矢はダイヤモンドを破壊する処か、傷一つ付けられなかったのだ。
「焦るな女。お前にハンデをくれてやる」
そう言い九十九は組んでいた腕を解いた。そして、これからが戦いと言いたげな表情にシャルロットは不思議と焦りが出てしまう。
「ハンデ?」
「左様。既にダイヤモンドは残り一つ、しかしそれではまだハンデにしては弱い。だからこそ、俺は体術のみで戦おう。ああ、安心しろ。得物は使わん」
ハンデというにはあまりにも無謀しかない九十九の宣言。つまり、先程ダイヤモンドを盾にしたのはわざと壊される為にしたということ。加えて遠距離型のシャルロットに体術のみという発言。それには流石の彼女の怒りを募らせていく。
「貴方、私をなめているの?」
「なめる?ハッ!対等な条件なのに、何を言うか」
「対等な、条件、ですって……?」
シャルロットは何度もループしていく中で、自分自身強くなっているのは実感していた。それは何よりも彼の為に強くなったのも同然なのだ。なのに、そんな彼が自分の力を否定したのと同じであった。実際にシャルロットは最初のループ時よりもかなり強くなってはいる。しかしながら、それは今の九十九篝からすれば弱い、のだ。
「ふざけないで!!!」
シャルロットは矢を連続射撃する。
───私は貴方の為に、ここまで強くなった!!!
───貴方を、救うために!守る為に強くなった!!!
───なのに、なんで?なんで、なんで!!!
そんな心の悲鳴を上げながら、シャルロットは矢を放っていくのだが、全て九十九の盾となったダイヤモンドが全て不動の如く防ぎきった。何百という連続射撃をしても、九十九の最後のダイヤモンドは傷一つない。
「なんで……いや、まさか」
シャルロットはそのダイヤモンドが何故ここまで強固なのか、それを過去の競技で実際にあった事例を思い出していた。
このダイヤモンド───魔石は、魔力の質によって強度を増すのだ。しかし、あれほどの強度なものにするにはかなりの技術力と魔力量が必須。例えるなら、大抵の競技者は魔石に魔力を単純に軽く流せば中がスカスカな風船の様なもの。だが、今の九十九篝の最後のダイヤモンドの一つは魔力の密度が非常高い、鉱石よりも強固なものとなっているのだ。
これは、ルール違反でも何でもない。
これこそ、選手の能力と技術によって左右される競技『ダイアモンド・ブレイク』なのである。
「なん、で……」
息を切らしながら呟くシャルロットは絶望するしかない。何度もループして強くなっていた筈なのに、その殆どが無駄となっていた。しかし、同時に納得もしていたのだ。
「(そう、だよね……篝君は、何時も、戦っていたんだ……私みたいに、性欲に溺れていた私が、勝てる筈が無いんだ……)」
これまで九十九篝にしてきた仕打ちを思い出しながらシャルロットは最後の矢を放とうとする。しかしその矢は腕のクロスボウで射つものではない。
彼女の目の前に蒼天の光に満ちた球体が出現する。それはシャルロットが生み出した濃縮した魔力の塊そのもの。今まで射ていた矢とは比べ物にはならない、正真正銘彼女の全身全霊を込めた最後の一撃だ。
───少しでも、いい。
───私は、強くなっていた。
───だから、貴方の側にいたい。
これはシャルロットにとって、九十九篝に己を価値を示す最後のチャンスであった。『生徒会長』や『先輩』と呼んで自分だけ見せるその表情をもう一度、己に向けてほしい、と。
「ほぉ……」
初めて感心した表情をした九十九。シャルロットの一撃の重さを一目で理解したのだろうか。彼は一切臆することなく、その一撃を受け止めようとその場から動く気配もない。
「(篝君───いぇ、あなた!!!)」
シャルロットはその蒼天の球体を己の右拳で、腰から突き放つ。それと同時に球体は太く長い矢となって、九十九に向けて発射したのだ。その威力は、通過した地面が削れる程脅威なものとなっていた。
しかし───。
「多少は楽しめたぞ、女」
その全身全霊を込めた一撃は、九十九のダイヤモンドで受け止められてしまった。しかもやはり、ダイヤモンドが破壊することはない。
九十九は一つ。
シャルロットは五つ。
ダイヤモンドの残りはシャルロットが上だが、完全に実力差で九十九に敗北してしまった。だが、勝負はまだ終わっていない。ルール通り、敵のダイヤモンドを全て破壊する又は相手を戦闘不能、どちらかが棄権しなければ終わらない。
「しかし、それで終わりか……まあいい。直ぐ終わらせて───む?」
シャルロットのダイヤモンドを全て破壊しようと、彼が接近戦の体術"八極拳"で仕留めようとする。九十九篝にとって前世から"八極拳"を習っていた事があり、この世界ではオリジナルに仕上げていた。例えば対人だけでなく、対モンスター専用にアレンジしたものも当然ある。
しかし、動こうとした九十九は直ぐに異変に気付いた。
そこは九十九とシャルロットがいる近くの場所から黒い炎の様なオーラが出現したのだ。それは激しいものではなく、静かなもの。だが、その禍々しさは九十九だけではなくシャルロットや他の実力のある教師生徒達は気付いていた。
「貴様、何者だ」
「……」
その黒き炎から、漆黒に染まった全身鎧を装備した人がいた。九十九の問いに全身鎧の者───漆黒騎士は返答無しで反応もない。
だが、漆黒騎士は九十九を暫く顔を眺めていたかと思うと鎧から黒き炎を噴き出しながら言葉に成らぬ声で叫びだしたのだ。それは狂いに狂った負の感情をごちゃ混ぜにした様な叫びである。
「──────────────!!!」
「俺に殺気を向けるか。面白いッ!!!」
シャルロットの事は既に眼中にない九十九は殺気を異常に向ける漆黒騎士に高揚感を剥き出して耳と尻尾の毛を逆立ちながら己の魔力を爆発的に放出するのであった。
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