表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

七歩 初戦の弊害

村に戻るとさっさとギルドへと向かう。

ギルドの受付には登録した時と同じようにエレナさんがいた。


「おぅ、エレナ。ハヤトの討伐報告だ」

「おかえりなさい。ハヤト君も無事に帰ってきたようね」

「俺らがついてるんだから当たり前だろ」


袋に入れていたゴブリンの耳と魔石をベルガがカウンターの上に置く。


「6匹分だ。魔石も買い取りで頼む」

「わかりました。では、確認させていただきます」


エレナさんは耳と魔石を分けて確認する。


「はい、間違いなく7匹分で魔石込みで銀貨10枚と銅貨5枚です」


1匹あたり銀貨1枚と銅貨5枚、だいたい1500円くらいか。

弱い魔物と言っても命のやり取りをして、この金額か。

俺はたった1500円の相手に殺されかけたようだ。


「ほらっ、ハヤト。お前の稼ぎだ。」


ベルガが受け止った銀貨と銅貨をそのまま俺に渡してきた。


「俺はいくら貰えばいいんだ?」

「はっ?全部だよ。いいよなライナス」

「まぁ、ボランティアみたいなものだからかまわないよ。と言っても僕は何もしてないけどね」


何言ってんだこの人ら?

俺は4匹しか倒してないのに、しかも危ないところを助けて貰ったのに。


「何言ってんだよ。確かにBランクからしたら端金かもしれないけど、こっちは命まで助けて貰ってるんだぞ」

「あぁ?んなもん知るかっ。冒険者デビューの祝いだバカっ。祝儀だ祝儀」

「貰っておきなよ。何言っても受け取らないから」

「それでも…」

「うるさいっ。じゃぁ、明日からは均等に分ける。」

「明日から?」

「当面、面倒見るっつたろうがっ。それにお前は危なっかしいから鍛えてやる」

「ハハッ。よかったねハヤト君。Bランクが2人で鍛えてくれるなんて、そうそうないよ」

「だから、ちょっと失敗したぐらいでしょげてんしゃねぇ。その金で気晴らしでもしてこい」


バシッと背中を叩かれる。

何この人ら。ちょっと泣きそうになるんだけど。


「本当にいいのか?」

「いいんだよっ。まぁ、そうだなお前が1日で白金貨でも稼げるようにでもなったら上等の酒でもよこせっ」

「ハハッ、いいねそれ。じゃぁ、僕はミスリルの武器でも買ってもらおうかな」

「わかった、見てろよ。白金貨ぐらい、あっという間に稼げるようになってやる」

「楽しみにしてるぜ新人さんよ」


声を出して3人で笑い合う。


「あっ、それと。時間があったら今から買いたいものがあるんだけど、店教えてくれないか?」

「あ?何買いに行くんだ?」

「世話になってる人たちに土産買っていきたいんだよ」

「グワンダさんたちだね」

「ライナスさん、知ってたんですか?」

「小さい村だからね。グワンダさんの家に住み始めた黒髪の子がいるって皆知ってるよ。この辺じゃ、黒髪なんてあまり見ないからね」

「そうだったんですか。グワンダに酒と奥さんと双子ちゃんにお菓子でも買って帰りたいんですよ」

「酒なら任しとけっ。グワンダのオッサンの好みならだいたい分かる」

「じゃぁ、お菓子は僕がオススメを教えてあげるよ」


二人に買い物を手伝ってもらい、初めて冒険者として稼いだ金はほとんどが酒とお菓子に変わった。

買い物が終わると2人と別れ、グワンダの家に帰る。

庭では双子ちゃんが何やら不思議な踊りを踊っている。


「ただいま」

「「あっ、おかえり。はやにー」」


こちらに気づいた2人が俺に向かってダイブしてきたのを受け止める。


「くさいーはやにーくさいー」

「はやにーごみよりくさいー」


辛辣な言葉に胸がえぐられる。

子どもは素直だな。エレナさんなんて、ちょっと眉を潜めたぐらいだったのに。


「あら、ハヤト君おかえりなさい」


手に持っている籠いっぱいに野菜を乗せたロリ巨乳ドワーフ、いや、バンナさんが近づいてきた。


「バンナさん、ただいま」

「くさっ、ハヤト君すぐに井戸のところで水を浴びてきなさい」

「…はい」


子どもだけが素直なわけでもなかった。

とぼとぼと井戸に向かって歩いていくと先回りしていた双子が桶を担いで待っていた。


「「いくよー」」

「よし、こいっ」


持ち物を横に起き両手を広げる。


「「くらいさらせーこのやろー」」

「ちょっ、言葉がきたな…ガボッ」


桶から飛び出した水が予想外の汚い言葉に驚いた口の中に勢いよく入り込む。


「ゲホッ、ゲホッ。ちょっと待って…」


咳き込んでしまっているのに容赦なく連続で水を被せ続ける2人。

なんか恨みでもあるの?


「「ふーこれでだいじょうぶだよー」」


辺り一面が水溜まりができるまで水を浴び続け漸く解放された。

お兄ちゃんは陸で溺れ死ぬところだったよ。


「はい、きがえー」


何処からともなく出された着替えを受け取り着替えると手を引かれ家の中に入る。

食卓に着くと、すでに料理が用意されておりグワンダも待っていた。

皆で夕食を食べ土産を渡す。

酒とお菓子は喜んでもらえたようだ。

双子ちゃんはお菓子を持って不思議な踊りを披露してくれるぐらいだ。

夕食が終わると部屋に戻る。


部屋には誰もいない…1人きりだ。

1人になってしまったことで今日のことを思い返してしまう。

耐えていた感情が噴き出す。


「ふぅ…あ…うぁ…」


ファンタジーだからと言って簡単に冒険者になって初めて生き物の命を奪った。

ゴブリンの光の灯っていない目が脳裏を過る。


「う…おぇっ」


せっかく食べたバンナさんの料理を吐きそうになるのを堪える。

体がガタガタと震える。

命を奪っただけでなく、俺も殺されかけた。

平和に暮らしてきた地球での暮らしではたぶん1度もすることがなかったであろう生死のやり取り。

命を奪った罪悪感からか、殺されかけた恐怖からか、それともこんな世界で暮らしていかないといけない絶望感か。

負の感情で押し潰されてしまいそうだ。

誰かと一緒だったからこそなんとかいつも通りを装うことができたが、もう限界だ。

ベルガは言った「また、明日」と。だったら明日には俺が死ぬんじゃないのか?あのゴブリンたちのように簡単に命を奪われるんじゃないのか?


「…いやだ…いやだ…」


死にたくない。

でも、あんな目に合うくらいなら死んだほうが…いやだ、死にたくないっ。


「…おぅ、入るぞ」


扉の向こうから声がした。

声の主はこちらの返事も聞かず扉を開け部屋の中に入ってきた。


「やっぱりそんな感じになってたか。」


ガタガタと震える姿を見てグワンダは予想通りといった顔をしている。


「初めて魔物と戦った後はそんな感じになるヤツが少なくないからな。まぁ、異世界から来たってヤツは見たことないが」


優しげな顔で近づいてくる。


「なん…だよ。なんで俺が…こんな…こんな目に合うんだよ」

「そりゃ、召喚されたからだろ?」

「アイツの…あのクソ王のせいか…クソっ」


王の顔が思い出され思わず拳を床に叩きつける。


「おいおい、家を壊すなよ。まぁ、召喚されなかったらこんなことにはなってなかったかもな。…でもな」


王に対しての憎悪が溢れてくる。

グワンダはそんな俺の心境を読んでか言葉を続ける。


「冒険者になったのは誰の指図でもなく、ハヤト、お前が決めたことだ。稼ぐにしたって他の道もあった」


話を聞いて、何も考えずに冒険者になったのは俺だ。


「それにな普通の生活をしていても虫なんかの小さい生き物ぐらい殺してるだろ?メシに並ぶ肉だってそうだ。少なからず俺たちは命を奪って生きているんだよ」


当たり前のことに慣れすぎて考えもしなかったが、地球にいたころからその通りだ。


「でも…俺…殺されかけて」

「んなもん、俺たちだって強盗に襲われりゃ殺されるかもしれん。盗賊なんてもんもゴロゴロいるだろう。誰かの恨みを買えば後ろから刺されるかもしれん。それこそジェームスのように仕方なく人を指す場合もある」


そりゃそうか。どんな時だって死ぬ時はある。

ん?ジェームスやっぱり指してたのかっ。その話気になる…


「おっ、もう大丈夫そうだな」

「えっ?」


いつの間にか震えが止まっている。

沈んでいた気持ちもマシになっている。


「まっ、気落ちした時はこれだよ。いい酒が手に入ったしな」


グワンダは俺が先ほど土産で渡した酒を突き出してきた。


「いい酒じゃねぇよ。安酒だ」

「うるさいっ、俺にとっちゃいい酒だ。さっさと飲むぞ」

「わかったよ、つき合うよ」


心に余裕ができたのか自然と笑顔で答ていた。



──数十分後


「くそがぁ、ゴブリンごときで秒殺だー」

「わかる、わかるぞ。俺もバンナに秒殺だ」

「根絶やしにしてやるー絶滅させてやるー」

「わかる、わかるぞ。俺もベッドの上でバンナに根絶やしにされる」

「やってやるーやってやるー」

「わかる、わかるぞ…ガフッ」

「聞いてんかーグワンダー…ひっ」


テーブルに突っ伏すグワンダの後ろに仁王が…


「オヤスミなさい、ハヤト君」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ