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五歩 冒険者の洗礼

金髪の悪そうな顔をした男が馬鹿にしたようにニヤニヤしながら立っていた。


「誰ですか?」

「あぁ?Bランクのベルガ様を知らねぇとはてめぇ村のもんじゃねぇな」

「昨日村に来たばかりですけど…」

「こんはヒョロイの村にいたら知ってるか。しかもお前、装備が木刀とナイフだけかよ。ワッハッハ、こりゃゴブリンの一撃で死んじまうぞ」


これはアレだな新人イビりってやつだな。

助けてくださーい。と、気持ちを込めてエレナさんを見ると片手で頭を押さえて首を振っていた。

そんなにヤバいチンピラなのコイツ。


「話きいてんのか、あぁ?ちょっとこっちこいや」


胸ぐらを捕まれグイっと引っ張られる。

誰か助けてー。と周りを見ても生暖かい目でこちらを見ている。

助けろよ。このままじゃ俺ボコボコだぜ?酒が不味くなるほどボコボコにされちゃうぜ?


相手いる席に放り投げられたことで覚悟を決めた。

どっちにしろボコボコにされるなら一撃ぐらい殴り返してやる。


「チンピラにかまってるほどひ──」

「まず採取でも魔物の1匹や2匹出会うもんなんだぞ。それなのに防具の1つも装備してやがらねぇ。」


被せてくんなよ。確かに防具の1つも買う金が無い。こそこそと依頼の物を採取して逃げ出すしかない。


「まぁ、それは俺のお古があるからそれをくれてやるとして」

「はっ?」

「次にポーション1つも持ってねぇんだろ?ほら、取り敢えず2つほどやるから持ってろ」

「え?えぇっ?」

「まぁ、武器は頑丈そうな木刀持ってるようだし、当てれば弱い魔物ならなんとかなるだろう。でもな、魔物は複数でくる場合がある慣れないうちは対象なんてできねぇ。仕方ねぇから当面は俺が一緒についてってやる」

「はぁ?えぇぇっ?」

「チッ、めんどくせぇがいいなライナス」


チンピラは近くにいた爽やか好青年風の男に乱暴に言う。


「急ぎの依頼も無いし、いいんじゃないかな」

「よしっ、取り敢えず採取なんて後回しで最低ランクでも取れる討伐依頼いくぞっ」


なんか勝手に話進んでいる。


「えっと、どういうこと?」

「キミが少し慣れてくるまでサポートしてあげるってことですよ」


爽やかさんがチンピラに代わって答えてくれる。


「これ、新人イビりとかじゃないんですか?」

「バカかお前。目の前で冒険者登録してた小僧がさっさと死なれちゃ酒が不味くなるだろがっ」


まさか、なんの利益にもならないのに、こんなチンピラ風味醸し出していて、ただの好い人なのか?いやそんなはずないだろ?エレナさん?

チラッとエレナさんを見ると深く頷いている。


「おらっ、さっさと依頼いくぞっ」


グイっと腕を引っ張られることで体制を崩し、混乱しながらギルドを後にした。




村を出て近くの森に着くころには混乱していた頭は正常に動いていた。

何故かお古だからやると押し付けられたプレートメイルを装備し、初の討伐依頼に胸が高まる。


「おらっ、ハヤト。さっさとゴブリン狩っちまうぞ」

「わかりましたよ、ベルガさん」


チンピラ風味のベルガが面倒見のいい近所のお兄さんに見えてしょうがない。


「ハヤトよぉ、お前そんなに丁寧な言葉使って疲れねぇか?固っ苦しい話し方なんかやめて楽にいこうぜ。」

「そうで…そうか?」

「おっ、それそれ。貴族様相手じゃねぇんだからそれでいいんだよ」

「わかった。ベルガにはこれで喋る」

「俺だけかよっ。まぁ、俺らは冒険者なんだから自由でいいんだよ。冒険者なんてみんな仲間みたいなもんなんだからよ」

「はぁ、またキミは…冒険者でも皆が皆キミみたいじゃないんですよ、まったく」

「わりぃわりぃ、ライナスは冒険者やってるが騎士志望なんだよ」


ライナスさん騎士志望なのか。確かに騎士と言われたほうがしっくりくるような気がする。


「まっ、毎年騎士の試験で落ちてるんだけどな」

「またキミは気にしていることをズケズケと言う」


笑いながら言うベルガに、わざとらしく肩を落として見ながら笑うライナスさん。二人は仲いいんだなぁとボンヤリ思う。

移動中に聞いた話ではベルガとライナスさんは小さい時から友人だそうだ。

ライナスさんが騎士試験に受かるまで冒険者として一緒に活動するようにしているらしい。


「ハヤト君には言っておきますけど、冒険者もベルガみたいな人間ばかりじゃないからね」

「あぁ?どういう意味だ?」

「冒険者でも様々ってことだよ。僕みたいな騎士になりたい人もいれば、小遣い稼ぎがしたいだけの人もいる。それに自分の利益だけを重視して仲間意識なんかなく、金のためなら平気で裏切る人もいる」

「いるか?そんな奴」

「まぁ、少なくともヒツメ村にはいないけどね」


そらそうだと言いながら馬鹿みたいに口を開けながら笑うベルガ。空いた口に虫でも飛び込まないかな。


「おっ、お出ましのようだぞ」


ベルガの言葉でガサガサという音が近づいているのに気づく。


「まずは俺が見本見せてやるからしっかり見とけよ」


黙って頷き音がする方向を見続ける。

現れたのはゴブリンだ。ドワーフよりも小さく緑色の肌、醜悪な顔つき、身にはボロボロの布切れ、想像通りの姿だった。


「ちっ、たった2匹か、準備運動にもなんねぇな」


ギャッギャッと声に鳴らない声を出しながらゴブリンは持っていた汚れたナイフをこちらに向ける。

ベルガはゆっくりと腰に挿していたロングソードを抜く。

先手を取ろうとしたゴブリンはナイフを振りかざしながら走ってくる。

ベルガはそれに対してボーッと突っ立っているだけ。


「あぶな…」


ドゴンッという鈍い音とともに1匹のゴブリンが宙を舞う。


「という感じで、ゴブリンは多少素早いが、ちっこい体だから軽い。だから軽く蹴っただけでこんな風になるわけよ」


軽く?軽くじゃねぇよ。軽く蹴っただけでそんな音出ねぇわ。


「で、もちろん攻撃も軽いんだが頭が悪いせいか攻撃が単純で読みやすい」


もう1匹のゴブリンが切りつけようとしたナイフを流れるような動きで弾き上げ、そのままロングソードを振り下ろした。

ゴブリンは何が起こったかよくわからないといった表情のまま後ろに倒れた。


「で、弱ったヤツはサクッと殺っちまう」


宙を舞ったゴブリンが起き上がりヨロヨロしているところを一瞬で首を飛ばす。

首を失った体が勢いよく紫色の血を吹き出しながらこちら向きに倒れる。

ゴブリンの血って紫色なんだー。


「簡単だろ?って、うわっ、血を真っ正面から被るなよっ」


そう、サクッと殺られたゴブリンの血は見事に俺の体を汚していた。

…臭い。


「テメーがこっちに向けて斬り殺すのが悪いんだろがっ」

「トロくせぇなぁ。まぁ、冒険者やってりゃ一度や二度は血塗れになることもあるわな」

「血塗れデビューなんていらねぇわっ」

「まぁまぁ、ハヤト君。冒険者の洗礼って思って、ね?」


ライナスさんがクスクス笑いながら宥めてくるので、少し怒りが落ち着いてきた。


「取り敢えず、今の感じで次はハヤトがやれよ」

「あんなサクッとできるかっ」

「危なくなったら助けてやるから大丈夫だ。…しかし臭ぇな」

「誰のせいだっ」

「うるさいっ、ゴブリンの魔石と討伐証明部位剥ぎ取るぞ」


ベルガは慣れた手つきでゴブリンの胸辺りを切り開き何かを取り出しこちらに投げる。


「ほら、これが魔石だ」


小さな水晶の欠片のようなものだ。


「んで、討伐証明部位は耳だな。何かしらの薬の材料になるらしい」

「魔物避けの香の材料だね。それくらいおぼえときなよベルガ」


なるほど討伐証明部位は何かしらに加工されるのか。


「さて、次の獲物をわ探しにいくかっ」


手早く2匹目の魔石と耳を剥ぎ取ったベルガが言う。

次は俺の番か、ヤバい緊張してきた。

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