一歩 異世界で出鼻をくじかれた
桜の花びらが枚散る。
まるでこれから始まる大学生活を祝福してくれているようだ。
──ろ。
大学と言えば合コン。
美人なあの子や可愛いあの子とキャッキャウフフ。
───きろっ。
そして念願の彼女ゲットだっ。
始まるっ。薔薇色の生活がっ。
「起きろ、バカもんがっ」
バシーンという音とともに後頭部にものすごい衝撃が走った。
「あふっ、…っ」
頭が吹っ飛んだと錯覚させるほどの衝撃で思わず眼を見開く。
「天王寺せんせ…白鬼先生じゃないですか」
目の前で腕を組みながら仁王立ちする女性。
白衣に身を包み凛とした美人顔、サラッとした美しいロングヘアー。初見の人間なら見惚れてしまいそうになるものだが、見知った人間は畏怖を込めてこう呼ぶ。『白鬼』と。
「何故言いなおした。納得する理由があるのならば許してやろう」
明らかに怒気を乗せた声色に反射的に体を起こし敬礼をする。
「はっ、清潔感溢れる白い白衣に寝起きの覚醒していない脳の状態であまりに美しい天王寺先生様のお姿が眼に写り、これは天使なんじゃ…いや、天使なんて甘いものじゃない、暴力的なまでの美しさ、そう、鬼のような美しさだということを思ってしまい思わず口から白鬼という単語を発してしまったわけでありますっ」
「そっ…そうか」
ふぅ、捲し立てるように一気に喋ることでなんとか誤魔化せたようだ。
「で、ここはどこで、どんな状況なんですか?」
キョロキョロと周りを見る。
まるで中世ヨーロッパの城にある謁見の間。壁際には兵士らしき人が並んでいる。貴族っぽい人数名、そして明らかに高級ですといった椅子に王様らしき人物。
隣には白鬼と知らない男女が5人。
「それがだな…」
「そろそろ、よいかな」
先生の話を遮るように偉そうな態度の王様(仮)が声を出した。
「余はカラバンナ王国の国王、グローリオ=カラバンナである」
やっぱり王様だったか。優しい王様って感じではないな、どっちかっていうと王である自分が絶対とか思っていそうな顔だ。
「異世界の勇者達よ、急な召喚で呼び出してすまぬ」
言葉では謝罪を述べているがこのジジイ本当に悪いとは一ミリたりとも思ってないな。
「えっ、勇者?」
「なんでこんなことに…なんで」
「ふむ、なるほどあの魔方陣が原因ということですね」
「勇者召喚、異世界…グフフッ…テンプレ」
「あぁ、召喚?ふざんけんな今からダチとペットショップ行く予定だったんだよ。帰せよテメー」
ランニングウェアを着たスポーティーな女の子。
新入社員ですといったようなパリッとしたスーツの女性。
インテリ気取ったメガネの中年。
胸元に100トンと書いてあるTシャツを着たデブ。
明らかにヤンキーな特効服ヤロー。
なんて個性的な勇者達であろうか。
ってか、特服ヤロー予定が可愛いな。
「しかし、なぜそこの者は何も着ておらんのだ」
目線の先には下半身と頭にタオルを巻き木刀を握りしめている俺。
あれっ?俺が一番危ないヤツ?
ひっ、変態と隣の方から聞こえる。
違いますよー。変態違いますよー。
「風呂入ってる時に召喚したそちらの落ち度でしょ」
「それはすまなかった。誰か着るものを用意しろ。まずは身を整えてからじゃ」
置物のようにピクリともしていなかった兵士の一人がどこかに走り去った。
「して、服を着ていないのに何を持っているんじゃ?」
「これはですね素振り用の木刀と…」
木刀を持ったまま右手を突き出し召喚される際に何かを掴んだのを思い出し左手を開いた。
「…姉ちゃんの…黒レースの…パンツ…ですね」
ヤバい、非常にヤバい、広間の空気が完全に凍りついた。
「やっぱり変態…」
ヤバい、取り返しがつかなくなってしまう。
「ち、ちが…」
「勇者殿こちらをどうぞ」
いつの間にか戻ってきた兵士が服らしきモノを差し出す。
空気読めよ兵士っ。こいつ若干ニヤついていやがる。
弁解のタイミングを外されたため、しぶしぶと服を着る。
服に身を通し終えるとあら不思議、ほぼ全裸の男がどこに出してもおかしくない平民に…これ、勇者に渡すような服か?
「さて、それでは話の続きだが、この世界『メルゲイナ』では───」
長々と話された内容は簡単に説明するとこうだ。
このメルゲイナという世界では魔族を纏める魔王がいて、世界を手に入れようとしている。
現在魔族優勢の為、各国を代表して異世界から勇者を呼び出すことにした。
勇者は召喚される時に世界からスキルという特別な力が複数与えられる。
元の世界に帰るためには魔王を倒さなければならない。
魔王を倒した後に神が勇者の願いを叶えるため降臨する。
さらに簡単にすると、力やるから世界助けろ、そしたら帰してやる。以上。
ふむ、よく漫画などでよくある話だ。
「選択肢な無さそうですね」
インテリ眼鏡が声を出したが、他は沈黙していた。
白鬼に関しては立ったまま寝かけている。
「状況は先ほどの国王の説明より理解していただいたと思いますので、早速ですがスキルの確認をさせていただきます」
貴族っぽいひとの一1人が、あまり質が良さそうには見えない紙を数枚持って近づいてきた。
「全てを見透せスキル鑑定っ」
大声で叫んだと思うと持ってきた紙を1人づつ額に張り付けていった。
額に張り付けられた紙が数秒でハラハラと落ちた。
貴族っぽい人がサッとそれを拾うと国王に手渡した。
「これはなかなか…ん?」
7枚の紙を見た国王が説明を始める。
「詳しいスキル内容は後程説明するが、まず、カナデ=シキジョウ、『聖剣召喚』『聖剣技』聖剣を召喚し、その力を存分に振るえるようじゃ」
「えっ私っ?」
スポーティーな女の子がビクッとしながら声を出す。
「次にマヒロ=ダテ、『魔物使役』『使役魔物強化』『闘拳術』じゃ」
「あぁ、なかなよさそうじゃねぇか。…カワイイ魔物とかいるのかな」
特服ぅぅ。お前がマヒロかよっ。何カワイイ魔物をゲットしようとしてんだよ。もう駄目だ特効服着たヤンキーが可愛く見えてきた。
「次に──」
特服のせいで他のメンバーの内容が頭に入ってこないが何やら強そうなスキルばかりっぽい。
「最後にハヤト=カミヤ…『古代文字理解』古代文字が読める。以上じゃ」
「へっ、それだけ」
「それだけじゃ」
返す言葉も見つからない。
横で白鬼が笑いを堪えているのが眼に入った。
「皆、慣れないことで疲れておるだろうから今日は用意させてある別室で休むがよい」
微動だにしなかった兵士たちが数名動き出し、誘導を始めた。
「ハヤト様はこちらです」
どうやら各自部屋が用意されているようで他のメンバーとは別の道に誘導される。
色々疲れました。もう今日はゆっくりと休みます。
ボンヤリと兵士の後を追っていると何故か城の外に連れ出され城壁の裏門のような場所までやってきた。
「それではご自由に生きて下さい」
「はっ?どういうこと?」
意味がわからない。いきなり召喚されて勇者になれと言われ、挙げ句には自由に生きていけと。
「なんの戦略にもならん役立たずは必要ないんじゃよ」
疑問への返事はいつの間にか後ろからゆっくりと歩いてきた国王が答えた。
「じゃぁ、元の世界に帰せよ。こんなとこで放り出すなよっ」
「じゃから帰せんと説明したじゃろうが。おぉ、そうじゃ餞別にこれをくれてやろう」
ポイっと投げられたソレは門の外まで飛びガチャンと音を立てた。
放り投げられたものは何の装飾もされていないナイフだった。
「今すぐ出ていけ。さもなければ斬る」
抜剣した兵士から冗談で言っているのではないことが読み取れた。
茫然としながら門の外へと後ずさる。
門がゆっくりと閉まる。
国王が下品な笑みのまま、ゆっくりと口を開いた。
「古代文字が理解できるだけの能無しは勇者とは呼べんのじゃよ 」