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九歩 少女VSゴブリン?

悲鳴が聞こえた瞬間、俺は何も考えずに左の道に向かって走っていた。


「おいっ、ちょっと待てっ」


ベルガが何か言っていたが、相手にしている場合じゃない。

全力で声がした方に向かって走る。

少し開けた場所に出ると、そこには予想だにしていなかった光景があった。


「キャーッ。誰か助けてー」


助けを求め叫ぶ少女とゴブリンが5匹。

着ているローブは乱れ、少女の武器だろう杖がポッキリと折られ転がっている。

少女は魔法使いなのだろうか。

複数のゴブリンに襲われ奮闘したが武器を破壊され、追い詰められたというところか…本来ならば。

俺が見たものは想像だにしていなかった光景だ。


「…誰か…助け…て」


もう、人生の幕が降りるといった声を出している少女はゴブリンのマウントを取り拳をゴブリンの顔を容赦なく殴りつけていた。

ゴッ、ゴッ、と鈍い音が響く。


「私…ここまで…なのね」


ここまで言動が一致していない光景は生まれて初めて見た。

拳がゴブリンの血で染まっていようが、お構い無しに何度も殴り続けている。

仲間であろうゴブリンたちは壁際に寄り添いガタガタと震えている。


「あ…あの」


恐る恐る声をかける。

ピタッと拳の動きが止まり少女の顔がゆっくりとこちらを向く。


「あ…あぁ…天は私を見放さなかったのね」


いやいや、見放すも何も、そこに今にも天に召されそうなゴブリンならいますけど。

少女はスッと立ち上がりこちらに向かって走り出した。


「ひっ」


突然のことで短い悲鳴を出してしまった。

目の前まで少女がきたと思ったら、いきなり抱きつかれた。


「ありがとう、本当にありがとう。死ぬかと思った」


泣き声で震えるながら抱きつく少女。

男なら1度は憧れるシチュエーションだろう。

…ゴブリンを殴り殺そうとしていた光景を見ていなかったら。


「ゴブリンに襲われて…もう少しで…殺され…」


チラリと震えていたゴブリンを見ると、ボロ雑巾のようになったゴブリンを助けようとしていたところで目が合った。

ゴブリンが全力で首を横に振っていた。


「危うく…純血も…散らされるところだったの」


うん、血を散らされていたゴブリンは見たけどね。

ゴブリンは首が千切れて飛んで行くんじゃないかと思うほど首を横に振っている。

ボロ雑巾ゴブリンは2匹のゴブリンに支えられピクピクしている。

少女に気づかれないように右手を動かし腰のポーチからポーションを1つ取り出しゴブリンに向かって軽く投げる。


「ギッ」


1匹がそれを掴み驚きの表情でこちらを見る。

あまりに可哀想だと思ってしまい、ついポーションをあげてしまった。

こちらに向かってペコリと頭を下げピクピクしているゴブリンにポーションを急いで飲ませている。


「ギッ…ギャッ」


意識を取り戻したのか痙攣ゴブリンはこちらを見て短く声を発した。


「ギャ…アリ…ガト」


俺はどういたしましてと声を出さずに頷く。

…えっ?ゴブリンって喋れるの?

瀕死だったゴブリンがどうやら意識を取り戻したようで、ゆっく りとこちらを向いた。


「オマエ…イイヒトゾク」


少女にバレないように小さな声で話すゴブリンはそれだけ言い、出来るだけ音を出さないように静かに逃げて行った。


少女はまだ泣き続けている。

そういえば女の子に抱きつかれた経験なんてなかったな…何かいい匂いがする。

ゴブリンがいなくなったことを確認し、漸く少女に声をかける。


「もう、大丈夫だよ。ゴブリンどもは逃げていったから」

「ホント?」


バッと顔をあげる少女と目が合った…顔が近い。

衝撃的なことがありすぎたので確認していなかったが、素朴な感じがするが美少女と言ってもおかしくない女の子だ。

赤いロングヘアーを1つに纏めている髪型も可愛らしい。年は俺と同じ年頃だろうか。


「あぁ、俺が現れたのに驚いたのかさっさと逃げていったよ」

「ホントだ、いつの間にかいなくなってる…あっ、ごめんなさい」


抱きついていたことを思い出したのか俺から離れる。

顔が赤くなっている…可愛いなぁ。

もっと抱きついていてくれてもよかったのに。


「おいおい、突然走っていったと思ったら女とイチャついてんのか?」


現れるチンピラと爽やかさん。

ちっ、ちょっといい雰囲気だったのにジャマすんな馬鹿野郎。


「ひっ…チンピラの人ですか?」


俺の後ろに隠れながら少女が言う。

初対面の人間をチンピラ扱いするとは…この子やるな。


「誰がチンピラだ」

「まぁまぁ、チンピラ君は黙ってて。ハヤト君現状の説明お願い」

「はい、この女の子がゴブリンに襲われ…戦っていたところに駆けつけるとゴブリンはさっさと逃げて行ったところです」

「何故言い直したのかよく分からないけど」


あれはどう見ても襲われていたというよりも襲っていた。


「あっ、あの。私、ミリナと言います。助けていただいてありがとうございました」


頭を深く下げるミリナ。

…ゆったりとしたローブの首元からほどよく実った果実が見えそうだ…もう少し、もう少し。


「ハヤト君見すぎだよ」


ライナスさんの言葉で俺の目線の先に気づいたミリナは両手で胸を隠した。


「ハヤトさんって言うんだ…エッチ」


顔を赤くしながら照れるミリナ。可愛い。


「ごめん、いや、つい、ごめんなさい」


言い訳らしいことも言えず謝る。


「いいよ、助けてもらったし。」


助けた覚えはまったく無いが、許してもらえるのならよかった。


「んで、なんでゴブリンごときにやられそうなってるヤツが1人でこんなとこいるんだ?」


どうやら、ベルガはチンピラ扱いされたことで少しご立腹気味だな。


「それは…初心者用のダンジョンがあるって聞いたから、冒険者になったばかりの私でもいけるかもって思って」

「馬鹿かお前っ。初心者ダンジョンって言ってもズブの素人が簡単に入るとこじゃねぇだろがっ」

「でも、魔法があるし、1階層の魔物も簡単に倒せたから…」

「それで調子に乗ってゴブリンたちに囲まれたんですね」

「それは…」

「初心者にありがちですが、それで命を落とす冒険者も少なくないんですよ」


ライナスさんの正論に返す言葉も無くなり俯いてしまった。


「取り敢えずは何事も無かったんですから、次からは気をつけるってことでいいじゃないですか。」


これ以上言うと泣いてしまいそうな顔をしていたので、つい庇ってしまった。


「まぁ、命がありゃ次にいかせるからな。今度からはもっと慎重にいけよ小娘」

「…はい」


しょんぼりしてしまったミリナ。

なんとか元気づけてやりたい。


「俺たちは2階層突破したら戻るけど着いてくるか?」

「いいんですかっ」

「こんなとこに置いていくわけにもいけないしな。いいよなベルガ」

「魔法使えるって言ってるんだから足引っ張られねぇんならいいんじゃねぇか」


ハッハッハー、俺は理解してるんだよベルガ、お前のことを。チンピラ臭漂っているお前がこんなところに女の子1人置いていけるわけがねぇってことをなぁ。


「ハヤトさんありがとっ」


俺にだけ聞こえるように小声でお礼を言われてしまった。

何故か鼓動が速くなった気がする。

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