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12話 気付くことの価値

ルブテー夫妻の危機を救ったなと勝手に満足したルフツは、ようやく自分の話を切り出すことにした。


「…で、何をしに来たんだっけ?」


幼女(エチア)を愛で、フルシェに迫られ、ルブテーの悩み相談を受けている内に、すっかり自分の用事を忘れてしまっていた。

もうボケが始まっているようである。


「お前なぁ…。お前が何か見せたいものがあるって言ってきたんだろ。」


未だに照れが引かないのか少し恥ずかしそうにしている。

それを見たルフツは、こいつ本当に結婚して子供を授かった一児の父親かよと思いながら3つのポーションを取り出す。

もちろんそれはスライムポーション(HP)とスライムポーション(MP)とバッドポーションの3つである。


「俺の見せたいものと言えば、やっぱりこれだ。」


言外にポーションだと告げながら、ルブテーの前にズラリと並べる。


「……。おい、何だこれは!?」

「ん?何だって何だよ。ポーションじゃないかポーション。」

「この、()()のがか?」

「そうだろ。違うのか?……あぁ。」


長い間、自分の作ったポーションを見せ続けたルブテーがポーションを前にして、なんだ?という質問が生まれるのか不思議だったルフツはここで察する。

ポーションの色である。

ルフツが今まで作成してきていたポーションの色は緑色をしていた。

ちなみに、市場に流通しているポーションも緑だ。

よって基本色は緑だと思われる。

しかし、今回スライムの体液を調合したポーションの色は青色になっていた。

ルフツにとってはさほど気にする点ではなく、ただ色が変わっただけ。っとそう思っていた。

そりゃスライムの体液を調合したら水色になるくね?なんてルフツは考えていた。

だが、ルブテーの反応を見るに、青色のポーションは異常らしい。


「違うのか?ってお前なぁ…。分かんねぇから聞いてんだよ。青色のポーションなんざ聞いたことも見たこともない。どうやって作った!?本当にポーションなのか!?」


顔と顔がくっつきそうなぐらい、ルブテーはルフツに近づき、詰問する。

ルブテーは商人だ。

こんな強引に質問してくることなどないし、相手の極秘情報とでも言える製造方法についてこんなに強引な聞き方をするなどあり得ない。

それほどに青色のポーションとはおかしな存在らしい。


「おち、落ち着けって。な?女性なら歓迎するんだけどさ…。」


転生前から数えた精神年齢がおっさんな男と、実年齢がおっさんな男が至近距離で見つめあう図。

腐った方々の中でさらに腐った人しか喜ばないのではないだろうかというひどい絵面であった。

いや、ルフツの見た目はまだ若いため、全然可能性がありそうだ。…余計にダメである。

取りあえず、流石にルブテーもルフツにはときめかなかったらしく、指摘されると一目散に拒否反応を示した。


「お、おぅ…。すまない。取り乱した。」

「いや、いい。しかし、そんなに凄いのか?これ。」

「凄いなんてもんじゃないのが分かんないのか!俺が売れば、大金持ち間違いなしだ。」


ルブテーの目の輝かせ具合はガチだ。

それほどまでにこのスライムポーションに意味を見出したらしい。

しかし、ルフツにはいまいちピンと来ていなかった。


「大金持ちって…。ただ青いだけのポーションだぞ?」

()()青いわけじゃない。今まで無かった色だ。無いものは売ることができない。だから、売れるし、価値がある。」

と、一見矛盾した理論をルブテーは語る。

売れないから売れると。

頓智(とんち)の聞いた話かと言えばそうではなく、さして難しい話ではない。

分かりやすく言えば特許である。厳密にいえば、独占商売である。

例えスライムの体液を調合しただけの簡単なものでも、現段階で製法、アイディアを知るのはルフツだけ。

他の人が青いポーションを売りたくても作ることができず、売れない。

だが、ルフツは作ることができ、売ることができる。

例えただのポーションだとしても、他の誰からも買えない唯一(青色)のポーションとなれば売れてしまうと。

ルフツもそこまで言われると流石に価値が理解できる。

この世界の人間には厳しい内容なのかもしれないが、義務教育を受けていたルフツにとっては簡単な話であった。


「まぁ、確かにな。貴族とかも欲しがりだすか…。」

「あぁ、間違いない。珍しいものは自分の品位を高めると信じて疑わない奴らだからな。」


この世界も例に漏れず、貴族は貴族らしい傲慢さを見せている。

もちろん中には例外もいるだろうが、関わりたくない人種であることは間違いない。

…フラグが立った気もするが、全力で否定しておこう。

ルフツは露骨に嫌そうな顔をしてルブテーを見る。


「貴族とか絶対嫌じゃん。面倒ごとの代名詞じゃん。」

「まぁ、分かるがな…。でも、どうせ売るのは俺だろ?」


一攫千金。降って湧いた儲け話。

ルブテーにとっては大きな商談でしかない。

普段から目立つことを嫌っているルフツをどうにか説得させたいという様子が見て取れた。


「いや、バレるんだ。ルブテーが口を割らなくてもこういうのはすんなりバレる。」


未来を見てきたかのようにルフツは言う。

未来ではないけど、並行世界とでも言おうか。似たような世界のことならちょっと詳しい。

バレて一騒動。なんなら二、三と騒動が連鎖するまである。

この手の話の鉄板である。

それを理解しているわけではないだろうが、ルブテーも肯定を示す。


「まぁ、確かにな。隠すより探る方が簡単だしな…。」


何やら実感が伴っているような発言であった。


「まぁ、そういうわけだ。この青いポーションは一旦様子見ってことでいいか?」

「ぐぬぬ…。しかしだな。大金だぞ?下手したら一生遊んで暮らせるぞ?」

「残念だったな。―――俺は冒険がしたいんだ。」


やはり、ルブテーは目の前の宝をどうしても手放したくなかったようだ。

それでもルフツは冒険を取る。

なぜなら、ルフツがこの異世界に望んだもの。そのものであるため。

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