11話 夫婦の仲
幼女の爆弾発言でルブテーの導火線に火が付き、ルフツとフルシェは消火に励むこととなった。
ルフツはルブテーを何とか奥の部屋に連れ出し、フルシェは幼女の面倒を見る事となった。
しかし、ルブテーの火はまだ消えておらず、ルフツの精神をじりじりと焦がしている。
「おい、ルフツ。俺の嫁と娘を奪うつもりならそうだと言え。俺の全てを以てしてお前を殺す。」
オマエ、コロス。と有無を言わさぬ形相でルブテーはそう言う。
しかし、ルフツにそんなつもりは全くない。
「いや、待てって。俺にそんなつもりはない。そもそも、フルシェさんは完全に悪乗りだし、エチアちゃんはそういうお年頃だろ?」
ルフツはそう弁明するが、ルブテーの形相は変わらない。
「フルシェはともかく、エチアは本気だろう?違うか?」
「いや、まぁ、そうかもしれないけどさ、あぁいう歳の子って気軽に将来のお嫁さんを約束しちゃうもんだろ?」
幼稚園児とかがよくお嫁さんになるとか言ってるけど、ルブテーは見たことないの?っとルフツは思ったが、この世界に幼稚園など無い。
この世界の子供はお嫁さん宣言とかしないのか?などとルフツは少し不安になった。
「なんだ?エチアが好きでもない男に軽い気持ちで嫁になると言うような低俗な奴だとでも言いたいのか?」
あっ、ダメだ。ルブテーの奴、親馬鹿になってる。
「いや、だから、年頃って奴だよ。フルシェさんにも聞いてみなよ。きっとそういう事があったって言うぞ。」
年頃としか言いようがない。
同じ女性に聞いてみろっとルフツはフルシェの名前を出した。
すると、ルブテーはなぜか少し固まってから、より一層不機嫌そうな表情へと変化した。
「…ゃ…。」
「え?」
ルブテーの声が小さい。
「いやだ。」
今度は聞き取れたが、まだ声が小さい。
ルブテーの様子を見ると、ルフツと顔を合わせないよう視線を逸らして床を見つめていた。
ルフツはあぁ、親子なんだなぁと思いながら今の状況を推察した。
ルブテーの先ほどの反応は明らかに不貞腐れていた。
不貞腐れたタイミング的にはフルシェさんにも聞いてみろと言った時。
では、なぜフルシェさんに聞くのが嫌なのか。
実はフルシェさんとはうまくいっておらず、会話ができないから…?
いや、そんなことでルブテーはそうはならない。
ではなぜ?
フルシェがルブテーにとって嫌な事を言うから…?
有り…得るか?
どんな嫌味だ?いや、どんな嫌がらせだ?
実際にフルシェさんが言いそうなことは…?
あぁ、あったなぁ~。私も。○○君と将来結婚するっ!!って。今じゃいい思い出だなぁ~。
……。
そうか。
そうかそうか!
「っぷ。あっはっはっは。」
ルフツは大笑いした。
別の人と結婚の約束をした事があるとフルシェさんの口から聞きたくないのか。
この男、こんななりをしているくせして実にかわいい。
こんなギャップを見せられてはルフツに笑うなという方が無理な話であった。
「な、なんだよ。」
「てっきり、フルシェさんとはあまりうまくいってないのかと思っていたけど、大丈夫そうだな。その独占欲があれば。」
「う、うるせっ!全然うまくいってないわ。お前みたいなたらしと違ってな!」
「あ?たらしってなんだよ。彼女いたことなんてないんだぞ。嫌味か?」
「あれだけたらしこんでおいて、未だに誰ともくっついてないのが不思議だね、俺は。」
「それはもう、逆にたらしこんでないからって証明になってない?」
「いや、なってないだろ。」
なぜかたらしのレッテルを貼られてしまうルフツ。
そんなことは一つもしていないので何が何でも否定したかったが、ルブテーの中ではどうも確定事項らしかった。
異世界転生でハーレムなんて鉄板中の鉄板。
異世界に転生する奴は大概モテる。
あのふざけた神も、俺をこの世界に送るときにハーレムを築くある種の呪いのようなものを授けたのだろうか。
だから唐突にたらし呼ばわりされる羽目になるのでは?とルフツは考えたが、不毛さを感じ、深く考えないことにした。
「で、やっぱりうまくいってないの?」
ルフツは先ほど、たらしの否定を優先してしまって聞きそびれた重要な話を聞くために、強引に話を戻した。
ルブテーもこの話を誰かに話したかったのか、すんなりとこの話題転換に乗っかる。
「そりゃあ…、見ればわかるだろ?さっき旦那に迫ってたのだって俺への当てつけさ。」
ルブテーが言うように、ルフツも見ていてなんとなくではあるがルブテー夫婦の仲に違和感を感じていた。
当てつけってのは被害妄想のような気もする。
場の雰囲気というか、幼女とルフツをからかっていたというか…。
「俺はさ、商いには自信があんだ。だから、人間関係や意思疎通は人一倍長けている自信がある。けどな、女心ってやつはてんで分かんねぇみたいでよぉ、何もしてやれねぇ。」
ルブテーはそう心の内を話す。
流石と言えば流石なのだろう。
話すべき時には隠したい心の内でもしっかりと話す。これが意思疎通なのだろう。
そこは凄い。だが、やはり違う。とルフツはそう思った。
「何言ってんだ。これは女心以前の問題だろ。分かってないのは問題点だ!馬鹿め。何もしてやれねぇとか言ってるくらいなら、何かしてやれ。あてつけてるって思うんなら、お前がそれをやってやれ。さっきフルシェさんに何を要求されてたか教えてやるよ。なでなでだよ、なでなで。まずはルブテー、お前がフルシェさんの頭を撫でるところからだ。」
ルフツは一気に捲し立てる。
友人ルブテーの危機だ。そりゃいくらでも助ける。
傍から見ると大したことない、くだらない問題ではあるが…。
けれど、致命的な問題でもあった。
ルブテーは意気地の無さのせいを女心が分からないせいだと勘違いしていた。
そのズレは致命的で、気づかない限り永遠に修正できない。
だからこそ、ルフツは語気を強めた。
「頭を撫でっ!?えっ?はぁ?」
「お前なぁ、どんだけ初心なんだよ…。今呼んで撫でるか。」
ルフツは言うが早いか、部屋の出口に体を向けて声を飛ばせるように右手を口に当てた。
ルブテーは慌てて待ったをかける。
「ちょっ、ちょちょっと。待てって!な?落ち着けって。」
「……。」
ルフツはジト目をする気分でルブテーを見つめ、しばらくしてからため息をついた。
「分かったよ。今はやめにする。俺が帰った後。少なくとも今日中にはしろよ。でないと、俺がフルシェさんを全力で奪うからな!!」
ルフツは半分本気で寝取り発言をした。
別に寝取りたい分けではなく(※半分本気ではある)、ルブテーを奮い立たせるために敢えてルフツはそういう危ない言葉を選んだ。
しかし、この発言は後に問題になる。
ルブテーが裏で噂を流すのだ。
夫婦仲が悪いと、嫁さんがルフツに奪われてしまうっと。
とまぁ、後でちゃっかり復讐に出るルブテーではあるが、現時点ではルフツの思いやりが伝わっているらしく、顔を真っ赤にしつつも「分かった。」と答えるのであった。




