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8話 ポーション+スライムの体液

スキル、火属性魔法の適正を習得した後、ルフツは薬草を採取しルップアの家へと向かった。


「ただいまー。」

「あら、おかえりー。今日は少し早いわね。」


ルップアの指摘通り、火属性魔法の適正を習得した後のルフツはすべての行動を巻いて行っていた。

薬草採取のポイントまでは駆け足で、薬草採取は手早く。

帰り道はピチ行きの馬車を見つけ、それに同乗させてもらうなど、最速に限りなく近い手段を取り続けた。

なぜ、それほどまでに急いだのかと言えば、簡単である。

ワクワクが止まらなかったからに他ならない。

新しいゲームを買った時のやりたくてしょうがない学校の帰り道。

思わず、それは卑怯だろ…と呟いてしまうほど続きの気になっていた漫画の発売日。

そんな気分とでも表現すればいいのだろうか…。

ともかく、ルフツはスライムの体液の調合と火属性魔法の2つに心を躍らせていた。


「ごめん、ちょっと今日は部屋に籠ると思う。」


ルフツは玩具を与えられた子供のような表情でルップアにそう告げる。

そして、ルップアに返事させる隙を与えぬままルフツに貸し与えられている部屋へと駆けて行った。


「……。ふふ、あんな顔っしちゃって。怒るに怒れないじゃない…。」


ルフツの勢いに圧倒されてぽっかり口を開けてしまったルップアであったが、すぐに笑みへと変わる。

ルフツが成人してこのピチの街に来た時の顔とそっくりで、まだまだ子供なんだなっとルップアは笑みを深めた。



◇◇◇◇◇



「よーし、まずは調合からだ。」


ルフツは危ない顔をしながらそう呟いた。

部屋の中心でポーションの素材を並べ、ぶつくさ独り言を言っている様は間違いなく危ないやつだった。

まず、ルフツが調合したものはポーションである。

帰りの馬車でルフツは今から行う調合について考察をしていた。

調合のパターンについては、2種類ある。

1つ目が薬水+スライムの体液。

2つ目がポーション+スライムの体液。


1つ目はポーションではない別の何かが出来上がるのでは?と期待している調合パターンで、2つ目はポーションのバリエーション違い、もしくは上位の何らかのポーションができるのかと期待しているパターンであった。

その内で、最もルフツが期待しているパターンが2つ目のパターンであるため、それを優先しポーションの作成から取り掛かっていた。

ポーションの作成はあっという間に終わり、完成したポーションの隣にスライムの体液の入った瓶と念のため空の瓶を置いて2つ目のパターンの調合に取り掛かる。


「よろしくお願いしまーっす!」


夏を思い出させるセリフとともにルフツは調合のボタンを押下した。


「……。あれ…?」


とぼけた声がルフツの部屋に響く。

ルフツの目の前に置いたポーションの入った瓶とスライムの体液の入った瓶には、しっかりと液体が入っていて変わった様子がない。

そして、念のために置いた瓶も同様で空のまま。

今までの経験でいえば、調合に成功していればどこかの瓶に調合結果(ポーション)が入っており、調合に使用した素材はなくなっているはずで、調合に失敗した場合は調合に使用した素材がなくなっているはずである。

成功の場合は1瓶、失敗の場合0瓶となるため、今のように2つの瓶に液体が入っているなんてことはないはずだった。


「おかしい…。どうなってんだ?スライムの体液は調合素材じゃないから、調合自体発動しなかったのか?」


ルフツはそう呟きながら首と頭をひねった。

けれど、腑に落ちるような回答は浮かばず、何の気なくスライムの体液の方の瓶を手に持つ。


「あれ?」


瓶をもってすぐに違和感がルフツに答えを教えた。


「ポーション…?」


ルフツが手に持った瓶のすぐ上にポーションの文字が表示されている。

スライムの体液が入っていたはずの瓶に、である。

調合は成功していた…?そうルフツが思いを巡らせたとき、すべてが繋がった。


「そういうことかっ!」


ルフツはもう片方の調合前はポーションだった瓶に手を伸ばす。


「……。あれ…?」


手を伸ばした瓶に表示される名前はポーション。

調合前と変わらない表示名。

ルフツの想像した結果とは異なるものだった。

ルフツの考えはこうであった。


ポーション+スライムの体液=新しい何か+ポーション


ポーション1瓶とスライムの体液1瓶を足した結果が1瓶では量が1瓶分少ない。

スライムの体液の瓶が外れ…つまりは調合の余りの分が入っている瓶で、ポーションの瓶が当たり…つまりは調合の本命の分が入っている瓶だと考えた。

しかし、結果はポーションとポーション。

いったい何がどうなったらこうなるんだ?っと狐につままれた気分になった。

ルフツは気を落としつつも、手に持っているポーションの詳細の確認を行う。


――――ポーション HP:34回復

          MP:13回復


「って何だこの回復量は!?」


前回ルブテーに売り渡したポーションと同じで、lv7で調合したポーションはHPが30前後、MPは1前後の回復しかしない。

スライムの体液を調合する前に調合したポーションも回復量が気に留まらない程度のものだったため、HPが34も回復するのはおかしいし、MPの回復量がより一層おかしい。

これは間違いなく、スライムの体液を調合したことが原因で起きた結果である。

そうなると、気になるのがスライムの体液が入っていた瓶の中身。

ポーションと表示されていたそれの質についてである。

ルフツが思考を巡らせるよりも早く、体が手を伸ばしていた。


――――ポーション HP:8回復

          MP:1回復


「うげ…なんだこのゴミは……。」


もう片方の瓶の詳細に顔をしかめながらもルフツはスッキリとした心持になる。


「なるほど、俺の考えは合っていたってことか。」


1瓶が調合の本命で、もう1瓶が調合の残りかす。

先ほどそう考えて、見事に打ち砕かれたかのように思われたが実は正しかったということに気付き、うれしい気持ちになる。


「てか、分かりにくいわ!どうなってんだこの世界は!誤差の範囲をとっくに通り過ぎてんぞ!!!」


ルフツの調べによれば、この世界のポーションの平均回復量は20前後。

この回復量から比べれば、今回調合したポーションは+14と-12の回復量を誇る。

どちらも10を超えており、流石に別名のポーションになってもいいんじゃないかと思えてしまう。

というより、ポーションの調合スキルがlv5を超えた辺りからルフツは違和感を抱き続けていた。

ここに来て積もっていたものが表に出てきた。


「だって、おかしいだろ?何?8回復と34回復って。差がいくつになると思ってんの?26だぞ!ポーション1個分違うのにこれもポーションって頭おかしいんじゃないの?」


何ならポーション1個分にプラスしてMPまで13回復する。

ルフツはまだMPを回復させるポーションである、魔力ポーションを入手したことがないため回復量がどれくらいなのか分からないが、それもどうせ10前後だろうと思っている。

もし、10前後というルフツの仮説が当たっていれば、魔力ポーションも1個分プラスしていることになる。

それほどの差が生まれているものをポーションで一括りにされるのはどうかと思う。


「まぁ、ふざけた神だったからなぁ。細かいところは適当なんだろうなぁ…。」


ルフツは転生前に遭遇した神と自称する老人を思い出して、ため息をつく。


「いくら文句を言ったってポーションと表示されるんだから仕方ないよな…。」


そう諦めると、ルフツは心の中で良い方のポーションをスライムポーション、悪い方のポーションをバッドポーションと名付けた。



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