6話 スライム
「んー、スライム討伐とビッグフロッグ討伐かなぁ……。」
一つ目の鐘が鳴る前の5時辺り、ルフツはギルドのクエスト掲示板の前で受けるクエストを選んでいた。
この世界の住人の感覚からすればさほど早い時間ではないため、ギルドは多くの冒険者で既に盛り上がっている。
「よし、決めた。」
ルフツはそう言うとクエストを2つむしり取った。
「すみませーん。これお願いします。」
「はーい、クエスト2つの受注ですね。……あ、やっぱり魔物の盗伐だった。」
流れ作業で提出したクエストの受注作業を進めていたフルローラは、相手がルフツだと気付くと予想通りだと呟いた。
「まぁ、今回はポーションを全部売っちゃったんですけどね……。」
薬草を採取し、翌日に魔物を討伐するのがルフツのお決まりで、ギルド受付であるフルローラにはお見通しのことだった。
「ルフツさんにしては珍しいですね。石橋を叩いて渡る?でしたっけ?安全第一でやっていたのに。」
「大分こなれてきましたからね。時間をかけてゆっくりやれば攻撃を受けることもほとんどなくなったのでそろそろいいかなって。」
「油断は禁物ですよ!と言ってもルフツさんならもう1つか2つ上の魔物でも十分だと思いますが。」
「そこは……臆病だって事で許してもらいたいです…。」
もし、これがロールしているゲームであればフルローラの言うような魔物を狩りに出るが、これはリアルで起きていることで、ゲームオーバー=死を意味している。
ゲームであればクリティカルヒットを含めての安全マージンを取れば、絶対に負けることはないが、リアルはそうはいかない。
突然の乱入など、いくらでも予期せぬ事態が起きてしまう。
だから実力に見合った敵ですら怖い。
これは主観的に見ても臆病という他なかった。
「いえいえ、無事に帰ってくることが一番大切なんですよ!」
営業スマイルなんだろうが、フルローラの笑顔には癒しの効果がある。
ルフツのマイナス思考が晴れ、気分がよくなった。
次の冒険者の気配も背後に感じるので、そろそろ頃合いだろうとルフツは話を切り上げることにした。
「ありがとうございます。では、そろそろ行ってきますね。」
「はい、行ってらっしゃい。」
◇◇◇◇◇
「よい、っしょっと。」
ブシャーっという効果音が似合いそうな勢いで体液を飛ばすスライム。
ルフツの斬撃がスライムのコアまで一直線に飛び、そこまでにある体液が四散していた。
フルローラの指摘通り、ルブテーの実力ではスライムは大した脅威ではなく、一切りで倒せる。
これほどまでに圧倒していなければ怖いというのだから、自分でも呆れるなっとルフツは自虐し、鼻で笑った。
「そういえば、スライムの体液って割と回復薬の素材に使われるよな。」
ルフツは思い出したように呟く。
この世界にはアイテムドロップというものは存在しない。
核を失ったスライムはドロドロになり溶けて、外なら地面に、迷宮なら壁にスライムの体液は消えていき、いずれはなくなる。
ドロップとしてスライムの体液を拾えていれば調合に試していただろうが、消えてなくなってしまうため、今更になって気が付いた。
というか、スライムの体液を無事に保存できるかも定かではない。
ルフツは取りあえず試してみることにした。
試してみた結果はというと、生きているスライムの体液は採取不可であったが、コア破壊後の体液は採取可能であった。
採取した量はというと、ポーション用に持ち歩いていた瓶4本にスライムの体液が入ることとなった。
「んー、こうなるとちょっと調合を試してみたいな。……んー、クエストのこともあるしビッグフロッグが先かぁ。」
ポーションの手持ちは0。薬草の手持ちも0。調合を試すには薬草を取ってくる必要があった。
しかし、薬草が採取できる場所はビッグフロッグの生息地とは別の場所にあり、現在地からはビッグフロッグの方が近い。
元々、スライム→ビッグフロッグと効率よく狩れるようクエストを組んであるため、ビッグフロッグの生息地が近いのは当然であった。
そういう地理的な面も踏まえてビッグフロッグを優先せざるを得なかった。
ただ、ルフツの中で薬草の採取は決定事項となり、周辺の探索はまた次回へと持ち越すこととなった。




