5話 拭えぬ不安
「色って額じゃないだろう……、これは……。」
ポーションの話をつけ、ルブテーに買い取ってもらった帰り道。
ルフツは代金として渡された布袋の中身を確認し、そう呟いた。
ポーション1本の値段が普段の2倍以上はあった。
フルローラとルブテーの反応からして需要があるのは確かだし、lv7のポーションの質の高さも確かだが2倍は流石にない。
そうルフツは思うが、受け取ってしまった以上、ルブテーも動かない。
これは別の形で還元するしかないなぁと思いなおし、家で待つルップアの夕食へと食指が動いた。
「ただいまー。」
「おかえりー。」
時間は大体20時。
時計はなく、日に3回鳴る鐘と空の色で時間を確認するしかない。
ルブテーの元へ出かけた時に3回目の鐘が鳴っていたため、そこから約1時間経って20時という推測である。
空も暗く、この世界ではもう寝ていてもおかしくない時間であったが、ルップアはルフツの帰宅を待っていたようである。
ルフツはそのことに感謝しながら、食卓に着いた。
「いやー、食った食った。やっぱりルップアの料理は美味しいね。」
「あらそう?嬉しいわね。それで、明日はどうするの?」
ルップアはテーブルの上にお茶の入ったコップを置きながらそう尋ねた。
ルフツは置かれたコップを口まで持ち上げて啜る。
「明日は魔物を狩りながら周辺を探索をしようと思ってる。帰りは今日と同じぐらいになると思う。」
「…大丈夫だとは思うけど、ちゃんと帰ってくるんだよ。」
「もちろんさ。俺は石橋は叩いて渡るからさ、安心して。」
「えぇ……何度も聞いてるもの。分かっているつもりだわ。」
石橋を叩いたからと言って安全とは限らない。
ルフツが言い切るように、ルフツは今どきの冒険者には珍しいタイプで、かなりゆったりとした冒険をしている。
薬草採取や周辺探索は初歩の初歩で、報酬が乏しい。
稼ぎがいいとされる冒険者と言えど、駆け出しの頃は日銭を稼ぐのがやっとで、満足な食事にありつくのが難しいことさえある。
簡単に言ってしまえば芸人やアイドルとかの下積み時代と同等かそれ以下である。
どでかい夢はあるが、非情な現実と向き合い乗り越えていかなければならない。
そんな事情も背景にあり、冒険者はすぐにリスクを負って迷宮へと向かう。
その結果命を落とす冒険者は後を絶たず、駆け出しの冒険者が一番死亡確率が高いとされている。
ルフツの場合は調合スキルと住む場所に助けられ、最低限の暮らしを可能にしているため、まだ迷宮に入ったことが数えるほどしかなかった。
そんなルフツは冒険者にしては非常に安全な生活をしていると言えるが、危険がないわけではない。
ルップアの心配していることは、冒険者である以上どうしても拭えない部分の話で、決してルフツを信用していないわけではない。
子を持つ母親の心情というやつだ。
ルップアは実の母ではないが、ほとんど同じようなものだろう。
ルフツはルップアのそんな心情を理解しているため、寝床に隠れてから服の胸元を強く握りしめた。




