六月の就活生Ⅱ
完結詐欺が発生いたしました、申し訳ありません。10日知から新しい話を始めるので、それまでに二劇の最終話を投稿します。
0時を回った頃、中村はそっと自室を抜け出すとマンションの前で月を見ていた。
美しい曲線を描いた下弦の月だ。
「あれだけ騒いでおいて深夜徘徊とはもしかして不眠症かしら?」
静寂を裂くような高い声に中村の方がビクッと上がった。
音もなく背後に立っていたのは、緑の髪を下げたシャウだった。
「や。不眠症ってわけじゃないんだけど。ちょいと散歩かな。最近のルーティーンなんだ」
中村は後頭部に手を当て、あははと笑う。その声はどこか空虚でどこか空々しくも見えた。。
「……その散歩同行しても?」
「勘弁してくれよ」
この時間にシャウほどの子供が出歩いていれば補導されかねない。一度は断る者の幼女は引く様子がなかった。
結局「話しておくことがあるの」といったきり中村を抜かし、前を歩いてしまう。
「あ、ちょっと」
中村は慌ててその背を追いかけた。
「あなた背を丸めて歩くのやめたら? 腰とか痛めるわよ?」
ずっと前だけを向いているのになぜだろう。この子は中村の猫背を今も見ているかのように注意してきた。すっと背筋を伸ばす。
「人間の心のモチベーションってね。意外と姿勢に表れるものよ。悩みが多い時期だもの、仕方のないことかもしれないけど」
「はは……」
まさかこんな年幼い女の子に諭されるように話されるとは。思わず苦笑が漏れた。
「就職活動うまくいっていないんでしょう?」
一度立ち止まったシャウは流すように視線だけ背後を歩いていた青年へ投げた。
「……随分ませているんだね」
「見た目は可憐な少女でも中身は魔導士ですもの。それなりに理を知らなければ務まらなくてよ」
凛とした口調で話すその姿は冗談をいっているそれとは異なっていた。先ほど彼らから伺った事情も普段の心持ちからでは到底受け入れられるものではなかったものの、今は不思議と疑念を感じはしなかった。
「あなたの部屋で未開封の封書を見たわ。あれって中身は履歴書でしょう?」
「察しがいいね。先んじて企業からはお祈りメールが届いていたから中は見るまでもなかったんだ」
自分が履歴書を送った企業からそのまま返される経験は今回が初めてではなかった。
「どこか内々定はもらっているの?」
「ずばり聞くね」
さっきから口が笑いっぱなしだ。嘘をついても虚しいので素直に答えた。
「もう梅雨の季節になるっていうのにね」
漆黒の闇を仰いだ。近視となってからは、最近では星もぼやけてしか見えない。
「あなた理系? それとも文系?」
シャウが尋ねた。まだ続けるのかよ、と思いつつも無下にせず答える。
「大学は理系。僕は情報科を専攻している」
「へえ。それなら早い話がプログラマーよね。企業の人材需要としてはなかなか見込めるんじゃない?」
今時大学を出ておいて、PCを全く触れられない人種などあり得ないという風潮が高まっている。
「あいにく僕は組み込み系は苦手でね。志望業種も印刷や広告業に絞っているんだ」
まるでキャリアセンターの職員でも相手にしているかのような錯覚に陥っていたが、一度開いた口はなかなか閉じない。
「でもそうなると買い手が集めてるのは営業かデザイナーでしょ。少なくとも前者に向いてるては思えないけど」
「きっついな」
否定はできなかった。只でさえあがり症なうえ交渉事には常に相手の条件を飲むことが多く、面接のフィードバックでは「相手の目を見て話はするのは苦手」だと評された。無論、その企業とは縁を切られた。
「それでもってデザイナー志望だと専門学校の人たちと競うんでしょう? あなたポートフォリオとか作ったの?」
一応、講義で提出した課題の寄せ集めた作品をまとめたサイトは制作した。しかしながら、あくまで基礎を教えるに過ぎない講義で作ったものはクオリティが低く、オリジナリティの主張も乏しい。編集ソフトを使ったことがるだけの人間とそれを使いこなせる人間とでは意味合いがまるで異なるのだ。
「しかもデザイナーを志望する動機がただ、プログラムを組む仕事に就きたくないからじゃ弱すぎじゃない?」
シャウは容赦がない。しかし冷淡としている口調だが、あくまで客観的見地を述べているに過ぎない。ふっとため息をつくと、
「まあ、実際は方便を使ったんでしょうけど」
シャウ再び歩き出してしまった。
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「そろそろ戻ろう」
気がつけばだいぶマンションからは離れ、もうすぐ繁華街へと入ってしまうところにいた。灯りが強くなる。
「警察も見回りに出てるかもしれないし、見つかると僕に迷惑がかかるんだけど」
少しだけきつめに呼びかけると、シャウは半眼になった。
「迷惑だろうがついてきてくれないとあたしが困るのよ」
そういえばとっくに中村のいつもの徘徊コースとは逸脱していた。彼女は何か目的があって、足を運んでいたというのか。
「せっかく勿体ぶっていたのにまるで聞いてくる素振りがないんだもの。ぼーっとあたしの後をつけてるだけ」
「ええー」
中村はなぜ少女が憤慨しているのかまるでわからなかったが、とりあえず謝った。
「ごめん。でもここで何かあるっていうのかな?」
「まあ、ついて来るといいわ」
シャウを追って路地を曲がり裏道に入ると、抜けた先は少し薄暗くなっていた。人気がなく、静寂に包まれている。
「あそこ見て」
促されて、視線を向けると道の端に一組の男女が。髪を染めた大学生風の男が、同年代の女性に肩を貸している。
「……ただ介抱してるみたいに見えるけど。あとキミがあまり見るものじゃない」
「この後の及んで子供扱い?」
不満気だが、このちびっ子自称魔導士は中村から見れば正真正銘、子供そのものだ。いくら口調が変わっていたとしても。
「あれって本当に介抱してるだけなのかな。あたしが見た限り付き合ってるようには見えないけどねえ」
中村は口を閉ざした。仮に付き合っていないとしてなんだというのだ、自分には関係ない。
「聞いてきてよ」
「……え?」
「あの男の人に。あの女の人が彼女なのか、違うのか」
「……なにをいってるんだ」
中村はシャウの手を取った。これ以上付き合ってられない。来た道を戻ろうとした。
「いいわよ。帰っても。でもその前にあなたの力について教えておくわね」
シャウは歩きながら話す。
「ジークフリートやベーオウルフはご存知? 神話などで竜を殺した英雄として名高い名前よ?」
「ゲームでそんな名前聞いたことがあったかもね」
「彼らを竜をも殺す者としてドラゴンキラーあるいはドラゴンスレイヤーと今では呼ぶこともあるわね」
思わず足が止まった。話の意図が全く見えない。
「魔導士はね。突飛な考えを持つ変人も中にはいるのよね。例えば現実に竜を喚ぶことはできるのか、また制御が可能なのか。その変人は何十年も研究を重ねたけど、実際に生まれたのはトカゲのような竜だった。中にはカエルに食べられるような貧弱過ぎるものもいたそうよ」
シャウはおかしそうに笑った。
「しかもタチの悪いことにそいつはその竜もどきを圧倒する術も作ってしまったそうよ。学会で発表したものの使用用途がないと当たり前のように突っ込まれたそうだけど、案外生かすチャンスってあるものね」
「なあ、話が見えないんだけど」
正直まったくついていけなかったが、錯乱しているわけでもなさそうだ。会話が通じると考え疑問を呈した。
「まあつまりはあなたがスレイヤーと同属性の能力を宿していると言いたいわけだけど」
三劇のプロローグの投稿予定日は5月10日(木)です。
それまでにもう一話、二劇ラスト投稿します。定期更新とはなんだったのか。
へたくそなCMもどきも10日までにtwitterに上げるつもりではいます。(._.)




