イーストシティⅠ
一時間半ほど遅刻しました。当社ではこの事実を重く受け止め、今後このようなことが起こらないように再発防止に努めて参ります。
東に栄える町中から離れたとあるゲート口付近で徴収係を言い渡されていた男は、先ほどまでだるそうにヤンキー座りをしていた。
彼は一組織の末端の人間として上の命令によりここに配置されているが、これが退屈な仕事だった。
都市に立ち入る人間の大半はロビーを伴っておりこの条件下では彼に与えられた任務は遂行は不可能。今日もそうして指をくわえて何人もこの門を通り過ぎていくのを見送っていた。
ー今日も収穫なしか。
そう諦めて引き上げようとした時、彼らは現れた。
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やっと辿り着くことができた都市を前にして、足止めを食らった創はやや不機嫌だった。
門の近くで待機していたこの厳しい男はどうやらこの先に入りたくば通行料を払えという旨の脅し文句を垂れているようだった。
意味のわからない言い草に咬みつこうとした創を制したのは手織だった。
「通行料というのは穏やかではありませんね。それは義務として課せられる類のものでしょうか? 当然義務とあらば法制度が強いられたというわけで今この都市には管轄者が存在するということですか?」
矢継ぎ早に尋ねられ相手も一瞬怯んだ。
この手の相手を刺激すると、ろくなことにならないと考えている創は内心で青ざめ身構えたが、意外にも落ち着き払った声で返答してきた。
「確かにまだそのような体制が整っているかといえば嘘になる。またそれをお前たちが支払う強制力も持ち合わせていないため、あくまで任意的に協力を得たいというこちらからのお願いだ」
男は懐から一枚の様子を取り出し渡してきた。それはまるで選挙のポスターのような仕上がりだった。
「この町では近々、住民選挙が執り行われる予定だ。俺が所属する組織のトップも立候補する手筈になっている」
創は疑問に思ったが、手織が先を促すので黙っておく。
「通行料と銘打ってはいるが、実情的にはこれを援助金と俺たちは捉える」
「つまり選挙金として流用するっていうのか?」
「でも非正規の通行料の名目で集めたお金に使い方が決められてるわけでもないですし、ましてや生まれながらの富裕層など存在しないこの世界では自費で賄うのも限度がありますから」
条件は平等で一律所持金ゼロスタートだ。そこから金を集める手段は都市で働くか集団で活動するかに大きく分類される。
「そもそも選挙という試みが初めてのことでしょうからね。現実世界相当の水準値とモラルを求めるだけ無駄っていうものです」
「達観してるなあ……」
創が呆れるやら感心していると自称下っ端の男が咳払いをして話を戻す。
「おそらく供託金もない低コストでやや簡便的な選挙と予測されているが、選挙は選挙だ。ここだけの話、俺たちのリーダーは支援における心づくしには相応の対価を持って応えると仰っている」
そういって名簿を取り出す。そこには過去に援助した人たちのリストが綴られていた。
「おい、そういった票の集め方は問題があるんじゃないのか?」
後になって問題視され結果的に負け馬になられても払い損だ。
「問題ない」
ところが男は断固とした口調で言い切った。
「見たところお前たちはこの町での住民ではないだろう。あくまでこの町のトップを決める選挙だ。選挙権が与えられることはないだろう」
つまり決して甘い汁を吸わせることを約束に不正に票を稼ぐわけではないという主張だ。
「でもそうなると純粋に支援する人たちよりも厚遇されることになりません?」
「そうだ。実にいい話だろう」
「おい、開き直んな」
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天宮新凪は疲れていた。
喫茶店兼レストラン「ワノール」に勤めてまだ日が浅いが一つわかったことがある。
この職場はブラックだ。
「……!! …………!!」
「はいはい直ちに」
今は昼前だが、早くも店内は人であふれている。
店長に急かされ新凪は呼び出しがあったテーブルへ向かう。
マスターである特殊ロビーは感情表現が豊かだ。急かすときは頭部のライトを点灯させ、若干キレかかっているときはライトを点滅させる。そしてブチギレているときはライトは激しく点滅させ首をぐるんぐるん回す。
「はいお伺いします!」
対応すると案の定催促だった。
頭を下げ厨房へ確認をいれる。
「すみません、十番テーブルのオーダーまだですか!?」
「おお、今できる」
コックの少年の気のない返事に焦れる新凪。
「ねえ、有根さん。それさっきも言ってましたよね? もうちょっと急げませんか?」
有根と呼ばれた男は半眼で向き直ると不機嫌に言い放った。
「バカ。これ以上能率上げると、俺の時給相当の労働力と釣り合わねーだろうが」
「わたしはあんたの数倍釣り合ってないわ!!」
そうして言い合っていると、ぐいいんと機械音がしてマスターが焼きそばを盛った皿と伝票を差し出してきた。
「あ、はい。九番テーブルこれで全部ですね。時間は……げっ、25分……」
通常ならば五分でできる。
慎重に早歩きで目的のテーブルに赴くとそこでは少女がぼーっと天井を眺めて、連れの少年は机に頭をつけてダウンしていた。
やばい待たせ過ぎた。
ごにょごにょと謝辞を述べながら、テーブルにオーダーを置いていく。
「あ、やっとか……」
「……え?」
匂いを嗅ぎつけて復活した少年の顔に見覚えがあった新凪は一瞬、固まる。
見覚えがあるというか室街創だった。
「あ、ちょっと創くん!?」
慌てて呼び止めるももう創の注意は焼きそばに向いていてまるで気づく様子もない。一緒にいる少女が何かジャスチャーをして存在を知らせようとするも要領を得ない。
「おい、ニーナ!! さっさと戻ってこい!!」
厨房から店内に響き渡らんばかりの大声量で有根が彼女を呼んだ。
周りの客もびくりとしたようだ。
これなら創も……。
「おお、ちょーうめー」
この薄情者!!
次回投稿予定日は5月31日(木)です。




