放浪少女Ⅱ
創が息を切らしながらその背を追っていくと、少女は50メートル程先で待機していた。
「なんだ、まだ元気そうですね」
「なんだそりゃ……」
上目遣いで見たやるとへたりついた。少女は自らを百浦手織と名乗った。
「知り合いにはモモかテオで通っていますよ。どっちでも好きに呼んでください、室街さん」
そういうあなたは名字で呼ぶんですね。
創は手織に代わって原付をおしながら、尋ねた。
「そういえば、キミはどこで暮らしているの?」
「いきなり大胆なこと訊きますね」
「え。……あ」
ワンテンポ遅れてそれに気づくと、慌てて付け加える。
「別にそういう意味じゃなくてさ。なんか近くに集落とかないかなって思っただけ。ほらもうすぐ日も暮れそうだし」
「まあそうでしょうね。しかし生憎ながらわたし根無し草なんです」
「……は?」
いたずらっぽく話しているが虚言を言っている様子はない。創はこの時、ついこの前までよく見ていた同年代くらいの女子たちと比較して少し変わっていると感じた。
それが第一印象だった。
「しかし宿もとらずにどうやって寝泊まりしてるわけ? まさか野宿とか」
「さすがに野宿はしませんよ。根無し草って言ったって、特定の場所に長逗留しないだけのことですよ。それ以外の時は愛車で異界巡業ですね」
せっかくだから現実ではできないことをやりたいですしね、と続けた。
やはり悠長だ。
「せっかくだから試してみます?」
いわずもがな原付を指していた。創は本来なら一般の高校生。運転した経験はなかった。
「できるか? 俺乗り方知らないけど」
「右手でスロットルを捻るだけですよ」
そう言うと手織はヘルメットを放ってきた。もう後には引けない状況だ。
「じゃあちょっとだけ」
創はスタンドを下げるとシートにまたがった。キーを受け取ると指導の下、慣れない手つきでエンジンをかけた。
数度の排気音と共に振動が伝わる。初心者にとってはこの瞬間がもっとも緊張する。
軽く息を吐くとスロットルを握った。あとはこれを前に引くだけで動くというところで待ったがかかった。
背後に力が加わり、やや重心が下がる。
「で、なにしてんの?」
背後には同じくシートに腰を下ろしている手織の姿。
「乗りパクでもされたら困りますからね。監視ですよ」
「ええー。信用されてねえのな。っていうか二人乗りは禁止だろ」
「無免許運転しておいて今更ですね」
確かにごもっともな指摘だが咎める者などいないのだ。ここはスルーしておく。
「盗ったりしないから降りてくれ。初めてなのに事故ったらどうすんだ」
「ちゃんと指導しますから大丈夫ですって。ほら二人羽織りみたいに」
「それマジであぶねえって!?」
真っ青になりながら叫ぶと「冗談ですよ」と笑い声が聞こえた。
創はため息をつきながら顎紐に手を当てるとパッチを外し、後ろ手でヘルメット渡した。
「キミが被ってろよ」
「…………」
しばらく返事がなかったが、やがてカチャカチャと装着する音が聞こえた。
「……紳士なんですね」
「…………」
**********
「結局学校まではつかなかったな」
原付を運転するうちに学校まで乗っていってもいいですよと許可をもらったものの、一度しか通らなかった道のりだ。迷いに迷ってとうとう日が暮れてしまった。
現在はデリバリーしたロビーが乗ってきた軽トラの荷台で食事をしている。
「取り敢えず朝まではここに置いてくれるそうです」
手織が運転席で待機していたロビーのもとから戻ると言った。
「あいつと会話できるの?」
「さあ。こちらの要求を伝えて、あちらがそれを了承するというプロセスが成立しただけのことです」
分かりづらいことをいう。要はコツがあるそうだ。
「星がよく見えるな」
「わたしが住んでいた地域ではこうははっきるとは見えませんでしたね」
「俺もそうだったな」
「案外この世界は人間が滅びた世界観をモチーフにして再現しているのかもしれませんね」
確かにそう思えた。
次回投稿予定日は5月28日(月)です。




