放浪少女Ⅰ
進まないので余裕があれば複数投稿を考えています。
砂浜を進んでいくと靴跡が軌跡となって残っていった。さくさくと小気味のいい音を立てる。
澄み切ったオーシャンビューを前に創はあてどもなく歩いていた。シーズンオフなのかそもそも人がいないのかあたりはひっそりとしていた。
そんな中岩場の先で竿を持っている男を見つけた。
「こんにちは」
挨拶をすると、ついでに釣れますかと尋ねた。
「おお。ほれこの通り」
男はクーラーボックスを開けて成果を披露した。生きがよさそうな魚が何匹も収まっている。
「アジですか」
「おお、わかるのか」
「いや、そんなに」
たまたま称賛されたが、適当に言ったのが当たってに過ぎない。創は竿を握った経験がほとんどゼロに等しかった。
「この辺りに住んでいるんですか?」
「いいや。東の都市からさ」
ほらと目線で指した先には、ロビーが乗った普通車が見えた。
「そろそろ引き上げようとしてたんで、さっき呼んだのさ。あんたも乗っていくかい?」
リールを回しながら男が尋ねた。ロビーの送迎料金は人数に一定額に決まっている。創を相乗りさせたところで料金が追加される心配はない。
「ありがとうございます。でもさっき来たばっかなんで……」
やんわりと遠慮すると男はそうかといって竿を縮めた。
「伺いたいんですけど、ここに来るのは初めてですか?」
「いや、四度目だ」
「ここから船って出てますかね?」
「なんだ沖に出たいのか?」
男は途端に神妙な顔つきになる。
「残念だが、船は出てねえな。ここのようなそもそも漁業水域が定まっていないエリアで船を出すことは禁止されている、キミは知らないようだから教えておくけど」
え、といって固まる創。そのような話は佳希から聞いていなかった。
「どうしても船に乗りたかったら都市部まで足を運ぶんだな」
そのセリフを最後に、男はじゃあなと別れを告げて去っていった。
**********
昨夜、就寝前に佳希とこの世界から脱出する術について尋ねると
『私が以前都市で集めた情報だと、この世界は一つの広大な大陸で成り立っており、周りを海洋が囲っていることが分かった。つまりは諸国という概念が存在しないと思われる』
シンプルなつくりだなと思った。
『そうやって閉鎖されているわけか。だとしたら俺たちはどうやってここへ来たってんだ』
『さあな。同じことを聞いて回ったものの、その返事は起きてみればなんてテンプレのものがほとんどだったわけだが。死後の世界だの、実は仮想世界だの、説を唱える人は様々だ』
『いずれにしろ確かめるには努力が必要だな』
創は嘆息と共に呟くと、体を起こした。
『とりあえず陸地の境界線ってのを見てみたい。方法はないか』
『ロビーに送ってもらうしかないな』
そういって渡されたのが、ブルーパスだった。
「で、結局成果はなしか」
創は海岸沿いの公共道路の端に設置されたガードレールに背を預けて黄昏れていた。
海風が気持ちよい。
「しかしどうやって帰るよ、これ」
延々と続くその一本道は地平線の彼方まで行けそうだ。まあ大袈裟だが、行きにも拠点力ここまでそれなりにかかっていた。徒歩で帰るとなると陽が落ちるまで辿り着くか。
中央線が引かれた道路は普段目にしてるものと同様のものに見えた。ただ違いがるとすれば、標識の類が一切見られない。もちろん案内板もない。簡素なつくりだ。
それが道路だと識別できればそれでよいということだろうか。
学校の件もそうだが、ここはやや大雑把なつくりになっていてディテールにおいてはさほど拘りがないようだ。
「歩くか……」
取り敢えず帰路につくことにした。
陽の光がアスファルトを照らし熱を持つ。
路上を転がる自動車とは出会わない。それだけここが過疎地域であるからだろうか。
この世界はどこか悠長だ。
まだわずか三人としか出会っていないが、彼らにはいずれも世界に馴染んだ様子だった。現実世界と比較して縛り事が限られているからか。それとも単に居心地がよいからか。
機械学習により最適化された優秀なロボットが人間の仕事を代行する近未来的な世界。まだ観察し始めてから日が浅いものの彼らと人間とはうまく共存できているように感じる。存在を当たり前のように許容している。
「ロビーか……」
独り言は遠くでうねる波にさらわれた。
**********
「あー、もう限界」
すっかり日は暮れ海岸線の向こうに沈もうとしている。創は道路の真ん中でへたり込んでいた。
「まじで……誰も通らねえじゃねえか」
苛立ち交じりに声を荒げてみてもやはり誰も現れることはない。
「こうなったら最終手段か……」
整備された道路には一定間隔おきに公衆電話が設置されており、とある番号にかけるとロビーが迎えに来てくれる。しかし送られる先は指定できず、近隣都市に運ばれ一定期間の労働を強いられるという。それを逃げるとさらに労働日数が加算される。
着払いにしてもらう方法もあるが、佳希と水谷も所持金がほとんどないらしい。
ライフラインが整った学校に籠城する限り、金を持つ必要はないらしい。
「…………」
今朝、あの二人が見送りに来た時の顔が浮かんだ。
「しょうがねえか」
ため息をつくと、受話器を手に取った。あとは三桁の数字を打てば迎えを呼べる。
ダイヤルを押そうと指を付けた時、背後から自動車とは異なる排気音が聞こえた。
ヘルメットを被った人が原付を運転してこちらにやってくる。
向こうも創が注目しているのに気付いたようで、減速を始めた。
「どうしました?」
ヘルメットを置いて、現れた顔は少女のそれだった。
やや色素の薄い灰色に髪を携えた背の低い少女は首をかしげて問うた。
「それが、ちょっと海を見に来たんだけど行きの分の金しか持ってなくて」
電話の傍にいることもあって大体の状況を察してくれたそうだ。
「ここからは遠いんですか?」
「まあ、ちょっとは歩いたし。そんなにはかからないかなー」
正直同じ風景が続いていて距離感などよくわからないが見栄を張った。
「そうですか。じゃあ頑張ってください」
「……え」
いうと少女は再びヘルメットを被って、原付のエンジンをかけた。
次回投稿予定日は5月25日(金)です。




