教師のいない学校Ⅱ
あまり進みません。
「いやー、ごめんなー。まさか人が尋ねてくるなんて滅多にないものだからな」
「いや……こちらこそ配慮が足りなかった。次からはノックします」
創は3年A組の教室で男と対峙していた。年齢はおおよそ近い、おそらく創と同じ高校生。そして傍らの女性も同年代と思われた。というか二人とも制服を着用していた。
「マジで邪魔しちゃったっぽくて……」
創がぼそぼそいうと女子が少し赤面していた。
「あ、あー。まあ、そこは……まあ、お互いさまってことで、もう終わりにしようか」
男もこのような状況に慣れていないらしく、脂汗をかいていた。そういえばこの二人ちょっとぽっちゃり体系の似た者同士だ。
「改めて私の名前は浜口佳希。彼女は水谷あかね。この辺境の土地で会ったのも縁だ。仲良くしてくれるとありがたい」
手を差し出す浜口氏。向こうの友好的な態度に創の肩の力がすっと抜けた。
「こちらこそ、同じくらいの人と会えて嬉しいっす。室街創です」
「見たところキミも高校生くらいの年だが?」
「あーまあ。一応」
実際は少し前までは正真正銘の高校生男子であったが、現在は諸事情により高校には通っていないので少しぼかした。
「まあここは学校ではあるが、この通り私たちのほかには誰もいないからどうかフレンダリーに話してくれ。私も創と呼ばせてもらおう」
「じゃあ佳希で」
「うむ」
ちなみに水谷あかねのことは彼氏の前でファーストネームで呼ぶわけにはいかないので、名字で呼ぶことにした。
「二人はいつからここに?」
一通り自己紹介を済ませた後、創はずばり尋ねた。
「んー。そうだなあ。それでもまだ一月は経っていないと思うんだが」
「なんか悠長だな」
間延びした返答に少し肩透かしを食らった印象だ。
現実味が薄いこの世界に誘われたと仮定したら、一月近く現実から消えている事実になる。シャウの珍道中に付き合わされえている創の状況下も特殊なのだが。
「ここはお前が生まれ育って生きてきた世界とは明らかに異なるだろ。こうしてはいるが俺は今も軽くパニックなんだけど」
少し声があげると水谷が同意した。
「確かにね。うちも最初はパニクったけど、でも案外暮らしていけない環境ではないのよ」
「どういうこと」
訊くと、二人は教壇まで移動して徐にチョークを掴んだ。
「では、初心者の創のためにここは一つ、我々がこの世界のことについてレクチャーしよう」
チョークを滑らせ、水谷が絵を描く。意外と上手な太陽と月だ。
「まずこの世界には基本的に名前がない。私たちの学校にも名を示すものは見つけられなかった。ここから東に進んだ所に都市があるが、そこもこれといった名称がつけられているわけではない。人によって様々に呼ばれている。これが何を示すかわかるかね?」
まるで教師のようなふるまいで問いを投げかけてくる。さしづめ創は生徒か。
「えーと、この世界は創られて日が浅いとか?」
「それもある」
頷く佳希の傍らで水谷がふんぞり返っている人のイラストを描いた。
「私は統治者が不在だという見方が強いと考えた」
「統治者?」
「然り。実際にこの目で確かめたわけではないが、少なくとも誰かが国を治めているのであれば人に役割を与えるものだろう」
「ごめん、どういう意味?」
佳希は以前、実際に都市に赴きそこでの様子を確認してきたそうだ。そこでは道は整備され、店が軒を並べ、人が行き交う。創がいる辺境地とは明らかにして発展していたが、そこで暮らす人々はある例外を別として各々が自由に生きていた。
「そもそも都市では高い地位の人間が住まうような施設もなかったし、彼らもそのような存在を考えたことはないそうだ」
「つまりこの世界では皆平等だと?」
しかし腑に落ちない。
「でも人が好き勝手に生きられる世界で都市の治安が安定するもんか?」
そう訊くとうんうんと頷く佳希。思っていたけどこの男動作がいちいち芝居じみている。
「グッドクエスチョンだ。それについて答えさせてもらうと、都市部には多くの管理をする者がいるからだ」
その口調に合わせて水谷が描いたのは創が一度見たことがあるものだった。
「まさか……あのロボットか?」
「そう。私たちは人に非ずとも高い知能を搭載し、なおかつ自律型。通称ロビー。まあその呼び名に応えることはないがね」
確かに不愛想な奴だったと創は思い返した。
「法を敷いているわけではないが、彼らには人間と同じ倫理観ないし価値観を持っていると推察される。つまり善と悪の秤をかけて人に罰を与える特性を持っているんだ」
都市部では人が集まるがゆえに、時として諍いが起こる。その際に仲裁を果たすのがロビーだそうだ。また非があると認められる人間に対しては、強制労働という形で罰を与える。
「だったらそのロビーたちの制御主こそが統治者といってもいいんじゃないか」
「確かにそういう側面もある」
しかしと反論した。
「ただロビーの活動はあくまで人間の世話係である見方が大半だ。犯罪者に値する人間にペナルティを与え、未然に犯罪を抑制するのも人が快適に暮らすための秩序の礎であるからな」
佳希がそうまとめたと同時に排気音が聞こえた。
「そろそろ配給の時間だったな」
次回投稿予定日は5月19日(土)です。




