1.14.3 ラオブール・シグルーン
そして家に帰ると、妻に田舎に転勤になったことを伝えた。
妻のウルラーレから
「あなたのことだから、いつかは失敗してそうなるだろうと予想していました。思ったよりも頑張りましたね。私は覚悟できていました。どこでもお付き合いしますよ。ちょうど子供も田舎でのびのびと育てられますし、すぐに出立ですか?」
「いや、失敗してないし、降格じゃないから。給金もアップ、昇格して子爵だ。領主代行の相談役だ。仕事は微妙だが一代限りの子爵位だぞ」
「うそ。ほんとに?」
「ああ、運が向いてきたぞ」
「運だなんて、あなた。なんの不正をしたんですか! 昇格しなくても良いから、悪いことだけはやめてください。私は、あなたが昇格しなくても、万年平役人とかドジ太郎とか呼ばれて馬鹿にされても、生きていけますから」
「いや、悪いことしてないし。それよりも、おまえ、このあたりでそんなことを言われていたのか?」
「あなたの同期の奥様会では、いつも。でも私は大丈夫ですよ。あなたの馬鹿正直で融通の利かないところは、大好きですから」
「まあ、それはまた、今まで苦労をかけたな。すまなかった。ジャックリーンも苛められていたかもしれんな。ならばこの異動はちょうど良かった。私は、明日から休みだ。すぐに準備をして出立だ。クロスロードまでの馬車移動は一月近くもかかる。大変だが、移動費用は、役所持ちで支払ってもらえるそうだ。少し贅沢な旅館にも泊まれるし、楽しんでいこう」
こうして、シグルーン一家は新たな地へと旅立った。