6.6.5 宝物庫の秘密
そして、外に出る。
「ジルベール、勇者の剣は持ってこなかったのか?」
「はい」
「なぜだ、お前しか使えないだろう」
「大人にならないと使えないです。成人したら貰いに来ます」
「そうか、ではアンジェリカ、マリアテレーズ行ってきなさい」
ほどなくして、全員が揃った。
「では戻るか」
間で交わされた言葉は殆どなかった。
元の応接室に戻ると、侍女たちがお茶を持って来て下がって行った。
「宝物庫に鍵に穴があると言うのは解りました。過去登録された転生者が再び開くことができると言うことですね」
「ああそうだ」
「新しい情報のように言われましたが、僕の前世のメッセージには、エルフからそういう説明を受けていたみたいなセリフがありましたよ」
「10年に一度記憶できるメッセージ機能か」
「はい」
「未来の自分に向けた機能だと思っていたが、来世の自分に使うためだったのか」
「いえ、エルフが作った魔道具ですから本来の目的は長く生きる彼らのための物と考えるのが普通ですわ」
エミリア様が返す。
「確かにな。前世と繋がるのは狙った機能では無いと言っていたからな。それでお前たちは前世が誰であったか確認ができたのか。普通はエマーシェスのように前世と言っても誰であったのかを覚えている者は少ない。ああ、あのルビースカリナ様は特殊なケースだ。だが、王族登録までされていたのなら、あのシステムから前世の名を聞いたのだろう」
「陛下は、知っていて中に入らせた訳じゃないのですね」
「知らんぞ、それに3人とも入れるとは思っておらんかった。うまく行けば誰かひとりぐらいはと期待しておったがな」
「僕らが前世持ちだと知っている人は、陛下達だけですか?」
「どうだろうな、わしはジルベールとスザンヌが前世持ちだと言うのは気が付いておった。ファールも言っておったから間違いないだろうと思っておったし」
「マリアは?」
「なんとなくだな」
「では、他の子供達は?」
「シミュットもそうではないかと思っておる。時々知らぬ歌を口ずさんでおると侍女からの報告にあった」
「そうですか」
「だが、この場で誰であるかは言わんでも良いぞ」
「そうなのですか?」
もしかしたら履歴を見ればわかるのか。
あのシステムは、他人の履歴まで調べることができる気がする。
まあ良いか。
「ルカと、エミリアは1年後に登録しよう」
「はい」
「それで、話を戻すが、エルドラの宝物庫を開けたのは死んでいた過去の王族になっていたそうだ」
なるほど、ようやくそこに戻ったのか。
そして、他人の訪問履歴を見れるのは確定だ。
「前世が王族であった者が犯罪を起こした。そしてその者の現在の名前も顔もわからん」
「宝物庫にある場所は管理されているのですよね。近づいたら解るのでは?」
「ああ、そう簡単に入れるような場所ではないのだ。だからこそ油断があったのだろう。ここも教会の入り口は常に監視をしているわけではなかっただろう。教会の管理者が来るのも週に2回程度だ。特にここの宝物庫は今の王族すらも入れなかったから余計にと言うのもあるが」
「エルドラも似たようなものだったと」
「そうだ」
では他にも盗まれた物があるのか?
「陛下、先日の神具の他にも盗まれた物があるのですか?」
僕の変わりにスザンヌが聞いた。
「今回そなたたちが少し中を見たと思うが、宝物庫と言う割には、金銀といった類は無かっただろう?」
「はい、絵や資料、それと魔道具が大半でした」
「そうだ、財産を入れてしまうと出せる人物が限られる。わしら王族が直接金を払うことは無いしな。通貨制度がしっかりとしていなかった時代なら保管していたかもしれぬが、今の世ではそういった物は入れない」
「では、盗みに入った者も金銀ではなく神具や魔道具を狙って入って来たのですね」
「そうだろう、二つの神具以外にも古い魔道具に資料類はかなり消えていたそうだ。ただ何が盗まれたのかはわからんそうだ」
「王族しか入れないから解らないのですか?」
「そうだな、近年入れた物は目録があったそうだが、古い物については目録が無い。それに古い魔道具は使い方すら解らぬ物が多い。ここの宝物庫も整理しなければならんだろうが、持ち出せない魔道具に関しては王族がやらねばならん」
「なるべく早く鑑定を使いこなせるようにして、わたくしが目録を作ります」
第2王妃がそう答えた。
「うむ、頼むぞ」
つまり、第2王妃様も右目の金眼を使う練習をしているようだ。
「魔道具はエマーシェス様にお任せしますから、資料類は私が目録にしましょう」
アンジェリカ様が続く。
「わたくしもお手伝いをしましょうか?」
「マリアは良いわ。聖女の修行もあるし、スザンヌは、あなたは剣のお稽古だけじゃなくて淑女教育の方をちゃんとやるのよ」
もちろんエマーシェス様が答えたわけだが。
さらっと教育の話を出すところがさすが母親。
「お母さま、私ちゃんとやってますわ」
ちなみに、僕は王族ではないので手伝いましょうとは言わない。なんなら登録を削除して貰っても問題ないのだ。
「陛下、宝物庫に登録されている亡くなった王族の登録を消すのですか?」
「そうだな、シミュットのことが気になるが、そなたら以外は消す方が良かろう。今後の事を考えると王族の転生者がそなたらだけとは限らないわけだしな。転生先が帝国であればまずい」
「エルドラの宝物庫に侵入したのは、グランスラム帝国に生まれた者だと考えているのですか?」
「可能性はある。違ったとしてもただの盗賊ではあるまい。開けた者がグランスラム帝国と繋がっているのはまちがいなかろう」
なるほど、そういうことも考えられるのか。
「ちなみに、グランスラム帝国がルビースカリナ様を連れ去ろうとしたのは、あの国の宝物庫を開けたかったからですか?」
「グランスラム帝国に住むエルフはそれを知るエルフに比べれば若いし、出身が異なる。あの地のエルフとは交流が無いはずだが知っておったのかもしれんな。だが処刑された女王は王族を取り消される可能性がある。そもそも宝物庫が狙いならばこっそりと連れ出した方が良い。最初に言っていた通り王族に戻すつもりだったのだろう。そうすれば宝物庫を含めて全てが思いのままだ」
なるほど、もう一度女王に戻すとか言っていたが宝物庫を含めて何らかの宝が狙いだった可能性があるのか。
「それで、いつ盗まれたのか解らないのですよね?」
「最近だったと言っている、詳しい日時は解っているそうだがこちらには教えて貰えなかった」
そんな感じで宝物庫の話は終わった。