6.3.7 昇格試験
ステパンが型から外れた剣を振るうが、逆にいつもの訓練に近づいたとも言える。
エイミーも時折手甲で防ぎつつ足技もいれて対応する。
その早い剣激に魔力のフェイクを入れているので魔力だけで見極めるのは非常に難しい。
訓練で培ってきた感と経験がそれらのフェイクを見抜き防ぎ、次の攻撃へとつなぐ。
1分。
それは長くも感じられたが一瞬のことのようにも思えた。
勝負はつかず引き分けとなった。
「さてエイミー。少し休んでから続けますか?」
「このまま行きます」
「そう、ではステパン。主審をお願い」
ステパンが剣を鞘に納めて主審の位置に立ち、シルビア様が剣と抜いて場に立つ。
エイミーは最初から上段に構えて開始の合図を待つ。
すでに目はシルビア様以外を見ていない。
「はじめ」
その言葉と共にエイミーの体が光った。
僕はそのいつもと違う様子に瞬間的に時間魔法を発動させ様子を見た。
エイミーはなぜか体を発光させ時間をゆっくりにした世界で見ても異常なほどの速度でシルビア様に近づく。
シルビア様も一瞬遅れて体が発光する。
エイミーがあと2歩と言うところで急に次の一コマに飛んだかのような状況が映る。
エイミーが一瞬でシルビア様の前に移動し、剣を振りぬいていた。
その直後、次の一コマでシルビア様が5歩ほど離れた場所に移動していた。
剣は半分に切れ、エイミーの剣の近くに切れた刀身が浮いて見える。
時間が進む。
エイミーもシルビア様も動かない。鑑定で確認すると硬直という状態異常になっている。
そしてゆっくりと刀身が落ちて行く。
つまり時間魔法は発動している。
瞬転の移動は移動するだけ、あれが瞬転なら移動後に振りぬかないといけないが今回は見えた瞬間に剣が振りぬかれていた。そして剣を切っている。
つまり、時間を止めたのか?
魔法ではなく、スキルで?
剣が切れてから実時間で1秒。自分の体感では10秒以上が経過。
二人の状態異常が回復し、再び動き始める。
僕は時間魔法の発動を停止して実時間に戻る。
エイミーは眼だけが追っていたシルビア様に体を向ける。
だがシルビア様は剣を落として降参と手を振る。
「エイミー殿。本番で成功させるとは思わなかったでござる。3人目の『光の剣』の使い手でござるな。剣帝への昇格は問題ないでござるよ。治療は必要無いのでござるか」
「え、治療は必要ないけど、魔力が無くてちょっとふらふら?」
見ると、先ほどまで半分以上あった魔力が空になっている。
エイミーは女神の加護で魔力が増え、その後、魔力をさらに増やす訓練もしていた。全体で3000近い総魔力量があったはず。今の一撃で半分の魔力を使ったのか。
時間を止めたのは移動距離や剣をふりぬいた時間を考えてもほんの僅か。
時間を止めた世界の中で使えた時間は体感で1秒程度のはずだが、それだけであれだけの魔力を使うのか。
魔力の減りはシルビア様も一緒だ。
発動が僅かに遅かったから先に剣が当たったが、ずれていれば切れずに逃げられた。
そしてその後硬直時間。
これ、1対1以外では使えなくないか?
非常にリスクのある技だ。