6.1.3 婚約式の前準備
皆でぞろぞろとロマーニャ様が住む後宮に移動した。
後宮には到着したが建物に入らずそのまま中庭に移動。
中に入ると、泉のほとりにテーブルに椅子があり、そこに腰かけて待っているのはエミリア様によく似た美人な女性。
年を取っても、高貴な佇まい。元王妃と言うのは座っていても解る。
「ロマーニャ様、お待たせしました」
そう挨拶をするのはグランフェスタ様だ。
予定を変えられて、わざわざ移動して来たのは僕らなのだけど。上位者を立てるのはさすがだ。
「あらあら、わたくしのわがままでここまで来てもらったのに、ごめんなさいね。ジルベール? だったかしら。よく来たわね」
「はい、ジルベールです。それで、問題発生と聞きましたけど?」
「問題? いえ、そうなのかしら?」
なんだか話がかみ合ってない?
「おばあ様、それで移動はできるのですか?」
「そうそう、これよ。これ。頂いたアイテムボックスに入らないの。でもどうしても持って行きたくて、それであなた達にここに来てもらったのよ」
なんとなく気になっていたけど。
そこに合ったのは豪華なウエディングドレスだ。
それに、綺麗なティアラと豪華な王杖もある。
「これは、わたくしが着たウエディングドレスなのよ。エミリアもラルクバッハで結婚式をしたあと、シドニアでのお披露目では着たのだけどね」
「これを持って行くのですか?」
「そうよ」
「今回は、婚約式ですが」
「でも、わたくしが持っていても無駄でしょ。これをラルクバッハの王室に譲ろうと思っているの」
「こちらの王女が着るのではないのですか?」
「ええ、我が家が作った物で、王家の持ち物ではないわ。だから娘や孫に譲ろうと思っていたの」
「公爵家に戻すわけではなく?」
「ええ、今の公爵家は格がありすぎるからと断られたわ」
なるほど、ティアラと王杖に合わせた豪華なドレスは王家でしか使えないわけか。
「いったんエミリアに渡して、エミリアの子供の結婚式に使えば良いと思うのよ」
サフィーナ様のピンクの髪には合わない気がするのだけど。
「ピンクの子は残念だけど、ほら、フィリップのお相手の子は、クリシュナとエレノアだったかしら。あの子達ならこのドレスが合うと思うのよ」
そっちか。
しかしエレノアがこのドレス。
今は子爵家の令嬢ではなく公爵家の令嬢だし、まあ妹自慢ではないが、確かにかなりの美人さんになる予感はある。うん、似合うかもしれない。
僕はうんうんとうなずきながら答えた。
「では、僕がストレージに入れて運びましょう。しまってもよろしいですか?」
「そう言われると、もう少し眺めていても良いかしら」
「では、お茶でも飲んで少し休憩しましょう。急いでいるわけではありませんし、ラルクバッハに移動すると部屋の整理やらなにやらありますから」
ロマーニャ様は思い出に浸るようにドレスを眺めていた。きっと昔のことをいろいろと思い出しているのだろう。
僕はちょうど良いのでステパンにラルクバッハで剣帝の試験があることを伝えたがどうやら話はこちらにも届いていてらしい。
各国に婚約式の連絡をしたのは1月の新年直後だったらしい。春にはシドニアのステパンのところに連絡があったそうだ。だからステパンは休暇をとり1人でラルクバッハに移動する予定だったそうだ。
一人で移動するだけならシドニア国内を馬で走り抜け、ラルクバッハに着いてからは転移門の使用申請で移動すれば良いのでぎりぎりに出発する予定だったそうだ。
それが、主人の急な婚約の決定で単独で移動する必要が無くなったと言うのが事実だった。
そんな確認をしていたらロマーニャ様が『もういいわ』とつぶやき立ち上がった。
そして、皆でラルクバッハの王城へ転移で移動した。