5.13.8 グランスラムの情報
「コハク、転移能力を持つ人たちの診断をしてない?」
「いえ、私は攻められた時以降お会いしていません」
「そうなんだ」
「彼らがどうかされましたか?」
「エリンに聞かせても良いのか、ちょっと迷ってる」
「もうわたくしの用事が終わっているなら外に出ますが」
「精霊魔法を使って貰わないといけないかも知れないから、聞いておいた方が良いのかとも思ってる」
「重病の者がいるのですか?」
「まだ重病ではない。多分」
「エリンちゃんは誘拐されそうになった当事者だし、知っていても良いと思うよ。僕は」
「そうかな。エイミーがそういうなら話しておくか」
「はい、ではお願いします」
「今日聞いたんだけど、彼らは薬で中毒にされてるらしいんだ。襲撃した時にも魔道具を付けていて、失敗したらそれが発動して死ぬことになってたらしい」
「ジルちゃんが、転移での逃走防止の為に魔法禁止エリアを作ったから魔道具が発動しなかったんだって。まあ魔法禁止になってなければ転移で脱出できてたから捕まらないし、死ななかったんだろうけどね」
「そういうこと。彼らは魔道具だけじゃなくて、普段から逃走防止の為に薬を与えられていたそうだ。定期的に投薬していたみたいだ。おそらくはこの作戦がうまく行きさえすれば良いと考えて、折角の能力者にもかかわらず短命で良いと考えていた可能性もある」
「どういった種類にしろ、中毒になるような薬が体になんの負担も無いとは思えませんから、使いつぶすつもりだったのですね。まだ若いのに」
「今は、こっちの医者から中毒を防ぐ薬を貰っているらしいのだけど。コハク、一度診断して欲しいんだ。負担が無い範囲で回復魔法を使ってほしい」
「それは構いませんが、明らかな毒ではない物は、回復魔法でいっきに治し切るのではなく、薬で時間をかけた方が良いですよ」
「そうなの」
「一度、診断はしますが、内臓系に異常があれば回復させます。ですが、中毒症状は一気に治すことはできないと思った方が良いです。一般的には体中に毒が拡散されているはずですから、回復魔法での修復には無理があります。全身を新品に作るのとほぼ同じですから」
「じゃあ、精霊魔法でいっきに治すなんてしない方が良いってこと?」
「そうですね。元王妃のロマーニャ様を回復させた時のように深刻なダメージがあらわれているなら治療した方が良いと思いますけど。表面的になんとも無い状態での回復は良くないと思います。大きな治療は実際のところ寿命にも影響しますから」
「そうなの。回復魔法を何度も使うと寿命が減るの?」
「小さな怪我はそもそも自然回復でも治ります。回復魔法はそれを補助しているだけです。わたくしやジルベール様が使う大きな効果を持つ回復魔法は自然のそれを大きく超えた力です。欠損を何度も治せばそれなりに影響はあります。私たちがそれでも力を使うのは、放置すると死が目前であったり、残りの人生が不便で不幸な場合です」
「なるほど」
「精霊魔法も、体への負担が全く無いわけではありません。本人のとっての負担は直接回復魔法を使う場合と変わりません。あれは術者の魔力があまり必要無いと言うだけですから」
「そうなんだ、よくわかったよ。とりあえず早めに診断をしてどうするべきか相談しておいてほしい」
「わかりました」