5.11.9 ディックハウト公爵家攻防戦
安堵の表情でエイミーが答えた。
「ジルちゃん、タイミングばっちり。そいつら倒して」
「え、いきなり修羅場」
広間に転移したら目の前に護衛達とは違う兵士が大量にいた。
一瞬、何事かと思ったが、エイミーが敵だから倒せと言って来た。良くわからないがそういうことならそれに従っておくのが最適解なのだろう。
「ジルだと、もしかしてあのジルベールか。今まで姿が見えなかったから国境に移動したと思っていたのに、あっちは竜が居るんだ、まさかこの時間で倒して戻って来たと言うことはあるまい。ち、こっちが外れを引いたか」
この男、なぜか国境に竜が居たことを知っている。やっぱりすべてが作戦の中だったのか。一体いくつの罠を仕掛けているんだか。
「くそ、やつが居るのは計算違いだ。ゴッツ転移で逃げるぞ」
「ジルちゃん、転移だ、転移で逃げる気だよ」
剣を裁きながら、敵の声が聞こえたのだろう、エイミーの叫び声が聞こえた。
「転移だと」
やはり転移魔法の使い手が、ここにもいたのか。
僕は、魔法に集中する瞬転で少し後ろに下がった。
「絶対防御、魔法無効化領域の確立」
僕は、この部屋に絶対防御の生活特性で魔法無効化領域を作り出した。魔法を使おうした分の魔力を消費するが、全ての魔法が発動せず無効化される。
この絶対防御の魔法禁止は王城などで使うよりも質の高い結界だ。魔法の発動を半分程度阻害するのではない。使った魔力消費と同等の魔力が必要になるが、魔法発動前にキャンセル可能だ。
敵側の何名かが魔法を発動させたようだが、使った魔力と同等の魔力が僕から引き出されて魔法が無効化された。
「エイミー、みんなも身体強化を含めて魔法を使わないで戦って、どうせ魔法は発動しない。魔法を使えば僕の魔力が余計に減るだけだ」
僕は扉を背にし、転移で逃げられないと知った者が外へ出るのを体術で防ぐ。
「坊ちゃん」
後ろから一人の男が乱暴に侵入して来た。ステパンだ。
「ステパン、転移で逃げるのを防止するために魔法を無効化している。身体強化の魔法も含めて身一つの力でやつらを捕まえてくれ」
「うえー、またですかい」
「僕は絶対防御の魔法を維持しながら戦闘もしてるんだ。体術だけで済むんだし、君の方が得意だろ、さっさと捕まえてくれ」
「まあ、逃げられないのなら問題ないでござるよ。さすがジルベール様でござる。それじゃああっしがバンバン倒していくでござるよ。身体強化が使えなくとも腐っても剣帝。ここでエイミー殿には負けんでござるよ」
「言うね。昼の僕は何もできなかったけど、ここでは負けないよ」
後はトシアキと護衛に連れて来た騎士、それに執事さんと公爵家の騎士たち。人数的には2倍ほどだが、それほど不利と言うわけでも無い。
最初こそ人数的に敵側が多かったので倒すのに時間がかかったが、僕とエイミー、ステパンにトシアキが最初に敵を倒し始めたら一気にバランスが崩れ始めた。
そして、誰も大きな怪我をすることも無く数分で全員捕まえることができた。
僕らは、倒した人を捕縛して休憩を取る。
「エリンと、コハクはこれだけうるさい中でも目を覚まさないけど、大丈夫なのかな」
「魔力枯渇は時間をかけて治すしかないんじゃないの。ジルちゃんの方が詳しいでしょ。あの時、そうジルちゃんとティアマト様が戦った時もしばらく目を覚まさなかったよ」
「ああそっか、あれか」
「ジルちゃんの魔力はどうなの」
「うーん、今回はかなり魔力が減ったかな。久しぶりに」
「へー、ジルちゃんがそこまで使っちゃうなんて珍しいね。それで、国境の方の戦いはどうだったの、トシアキがあっちに転移したって言ってたけど、戻って来るの早かったよね」
「ああ、あっちはティアマトと同族の竜が出てたよ。でもイシスを完全体にして押さえつけて精神支配をしいた魔道具を壊したから簡単に終わったよ」
「へー、それでイシスちゃんは?」
「こっち一緒に戻ったけど、絶対防御を使った時に戻したよ。魔法禁止領域は自分も魔法が使えないって不便だよね」
「そっか」
そして、自分のステータスを確認すると、現在進行形で魔力が減っている。
「あれ、魔力が減っていく。絶対魔法防御も解除したから今魔法を使ってないはずなのに、魔力が減っていく。なんでだ」
「ジルちゃん、どうかしたの?」
あ、思い出した。ガルダを出しっぱなしだからだ。
でも、召還維持だけの魔力の減り方じゃない。向こうで戦闘があったのか。
「あっちに置いて来たガルダが魔力を使ってるみたいだ。あっちで何か起きているのかもしれない」
「どうする、戻るの?」
「そんなに大量の魔力が減っているわけじゃないから、大きな魔法は使ってないみたいだ。しばらくは大丈夫じゃないかな。あっちにはティアマトも居るし、イシスも何も言ってこないし」
「じゃあ、こっちに残るんだね。休憩が終わったら、さっきの人達の調査やってよ。鑑定してほしいってトシアキが言ってたから」