1.13.1 後見人
ファール・フィロ・メリルディーナはこの国をまとめる3公爵家の当主の1人だ。
この国は王を中心に文官を束ね政策を束ねるメリルディーナ公、武官を束ねる外国との交渉をまとめるカルスディーナ公、魔道士を束ね、司法を担当するオルトディーナ公の3公爵によって政が決まる。
領地はメリルディーナ公が王都周辺。
カルスディーナ公がシドニアに隣接するまでの南東地域。
オルトディーナ公が逆側の北西地域を管理している。
各領地は建国の時から大侯爵8中侯爵8の16家が治め、政治を司る役人は役職にあった爵位を持つ貴族が務めている。
逆に言うと、才能を持つ役人がいれば1代限りの爵位を渡してその役職を務めてもらう。
爵位があるからと胡坐をかかず、仕事をする。
また短期間で担当が変わらないので、短期的な成果を求める政策だけでなく先を見越した長期にわたる政策で世を安定させている。
今日は、オルトディーナ公からカルスディーナ公が治めるクロスロード家の嫡男の後見人を決めるので立会人になるよう言われ王都中央施設の一室で2人を待っていた。
カルスディーナ公とオルトディーナ公からジルベールの後見人をどうするかについて話すと聞いている。
公爵2人だけで話すとお互いに権利の主張だけとなり折り合いがつかない。
なので、メリルディーナ公も入れた3人での話し合いをしたいという提案だった。
リリアーナが部下だったころに始めた制度が大規模商会ギルド制だ。
彼女はクロスロードの領地でそれとは異なる小規模商会ギルド制を始めていた。
王都のように店が集まっているところでは効果は無いが、王都から離れた国境沿いでは面白い仕掛けだと思った。
メリルディーナ公はその経過に注目していた。
そこに突然、クロスロードに派遣していた部下からリリアーナの妊娠の知らせがあった。
ようやく子ができ、これでクロスロードも安泰だなとリリアーナの妊娠を喜んだ。
だがその知らせを聞いて直ぐのことだ。
魔物討伐によって領主が死亡。
正確には喪が明け次第、領主になる予定だったアナベルの死だ。
私は妊娠中のリリアーナの負担を減らすため、あわてて武官や文官を補佐として数名をクロスロードに送り込んだ。
その後、無事に出産したと連絡があり喜んでいた。
その直後にリリアーナからの直接の手紙がきた。
内容を見て驚いた。
重要な部分が私しか知らない暗号で書かれていたがなんと両金眼の子供を生んだと書かれていた。
毒殺されたくない。
子供を守りたいから助けてほしい。
切実に訴えかける手紙だった。
戸籍登録の書類は厳重に封がされていて私以外が開くことができないようになっていた。
それを内密に処理し、私はリリアーナを守るために動いた。
まずは情報を集めそれから判断すべきだと考え、まずはクロスロード領地に貸し出していた自分の部下のもとへ事情を確認することにした。
事前に訪問する時間を部下とリリアーナに送った。
そして私は仕事にはあまり期待できないが、生真面目で秘密を守れるラオブールを伴い転移門を使って移動した。
戸籍登録を秘密裏に処理させたのもこの男だ。
会った部下は、リリアーナと子供の命を守ると約束しなければ何もしゃべらないとこの私に対して契約書を突きつけてきた。
僅かな期間離れていただけで、私への忠義心よりもリリアーナへの忠義心の方が高くなっていた。
少しショックを受けた。
リリアーナから子供が両金眼で相談は受けていることを伝え、そのうえで自分もリリアーナのために動いていると快く契約書にサインをした。
教えられた内容は子供を生んだのはリリアーナではなく、リリアーナの庇護下にあるアメリだということだ。これは役所に勤めるごく少数しか知らない。
そして両金眼で子供の姿を人に会わせられないから、後見人へのお披露目をどうやってごまかすか相談されていたらしい。
子供にいる部下からの進言で訪問の直前まで眠らせず、後見人が来る直前に授乳させれば大抵の赤ん坊は眠る というアドバイスで乗り切ったらしい。
部下から情報を色々と聞き込み、私は事前に手紙を出したとおりその足でリリアーナの家に向かった。