5.10.11 シドニア学園攻防戦
「ル、ル、ルビースっキャ」
かんだな。緊張しすぎじゃないか。
「えっと、ルビースカリナ様。僕と、け、け、け」
「落ち着いてください。いきなり結婚では無く、付き合ってほしいと言うのです」
僕が隣から声をかける。
「お、そうか。そうだな。うん。あ、その改めて、ルビースカリナ様。僕とお付き合いをお願いします」
「合格とは言ったが、お前……」
「おい、どうするんだ。返事が無いぞ」
小声で僕の方に話しかけてくる。しょうがないな。
「時の女神ラキシス様からの祝福をお受け取り下さい です」
「あ、そうだった。これを用意しました。どうか受け取ってください。時の女神ラキシス様からの祝福です」
「ほう、綺麗な石だ。なぜこんな物を用意できたのだ。お前、私と付き合うつもりなど無かったはずだが」
ルビースカリナ様は、指輪を手に取って良く見る。
「確かにわたくしの瞳の色だ。素晴らしいわね。まるでわたくしの為に存在するような物だわ」
指輪を上に持ち上げ光に照らしてみる。
「魔道具になっているのか」
「はい、防御の魔法が使えます」
「時の女神か。偶然の巡りあわせは祝福では無くいたずらの部類だろう」
彼女は少し考えるような表情を浮かべる。
「……まあ良い。……そなたの求婚を受ける方向で考えましょう」
そう言って、ルビースカリナ様は、指輪を指にはめる。
そして、その後で手をトルステンに差し出しエスコートを希望した。
だがそれは実現しなかった。手を取ろうと動こうとしたトルステン様の肩を抑えたのはコハクだった。
「少しお待ちを」
「なんだ、聖女殿」
「この方は先ほどまで死ぬ寸前でした。精霊魔法で治療を済ませたので怪我は治りましたが体力は回復していません。今はこの場の精霊達の導きで一時的に動いているだけです。ですが、もうすぐ精霊たちが離れて行きます」
「それで……」
「すぐに寝かせないといけません。もうすぐ倒れます」
あ、そう言えばさっきまで死にかけていたんだった。あれだけの怪我をしていたのだ、回復魔法で完全回復しても動けるはずがないのだった。
それなのに普通に動いていたから精霊魔法はすごいなと思っていたけど。どうやら周りにまだ精霊が居たからだったのか。
「なるほど、聖女様の言うことは解った。ではここに来るが良い」
ルビースカリナ様は、その場にすっと座り、そして膝をポンポンと叩いた。
「ここに頭を乗せるが良いぞ。救援が来るまでここで休むが良い。勇者よ」
「え、本当に?」
信じられないと言う声を出したトルステン様だが、僕も同じように驚いた。
「聖女殿がそう言っておる。ここで眠ると良い。わたくしも結婚する前にそなたを死なせたくはない」
「はい、では」
そう言ってからの彼の行動は早かった。さっと寝ころび膝枕に。
丁度、周りにちらちらと見えていた精霊の光が消えて行く。
トルステン様はそれに合わせたのか一瞬にして眠った。