5.10.9 シドニア学園攻防戦
思考が落ち着いたところでルビースカリナ様を見た。彼女は次々に戦った人に声をかけて回っていたが、トシアキの前に来た。
「そこの者、ジルベールの部下か」
「は、はい」
「名は?」
「え、トシアキ……、失礼しました。お嬢様、私はトシアキ・レオパルドです」
トシアキは、声をかけられ緊張したのか最初に軽く返事をしてしまったが、相手が高位貴族の令嬢だと気が付いて姿勢を正して言い直した。
「トシアキか。ふむ、トシアキそなたの働きは見事であった」
トシアキは、相手が高位の貴族令嬢だと気が付いたので、名前を伝えた後は目線を下げ相手の話が終わるのを待っていた。
「もし、そなたが将来わたくしのために働く気になったならば、わたくしの元を訪れなさい」
ルビースカリナは、それだけを言い、次にステパンの前に移動した。
「そこの禿げた頭の男。そう、お前も良く働きました。ご苦労でした」
特に名前を尋ねることもなくスルー。
ステパンは剣帝の称号を持っている。立場的には1国の将軍に近い。今もこの国の剣客として高い地位に付いている。だから誘うこともなかったのか?
「拙者は御令嬢の救出に失敗したでござる、結果的に助かったようですが怖い思いをさせてしまったことを申し訳ないと思っているでござる」
「そうか、だがそのような気遣いは……いや、結果としてわたくしは助かりました。それが唯一の事実です。それで良いでしょう」
「かたじけないでござる」
そして、最後のステパンの前で床に座っていたトルステンの前に立った。
高位貴族なのに床に座ったままと言うのはどうかと思うが、治療が終わったとはいえ、さっきまで死にかけていたのだからしょうがないだろう。
「最後だな。お前。お前は、……何だったか。そうディックハウト公爵家の者であったな、確か」
ルビースカリナ様はトルステン様の名前は憶えていないようだが、唯一家名を覚えていたようだ。
トルステン様は恥ずかしそうに立ち上がった。
「はい、ディックハウト公爵家嫡男、トルステンです」
トルステン様は、ルビースカリナ様が名前を覚えてないのを失礼と言うことは無く、家名を覚えていたぐらいで喜んでいるようだ。
「お前の貢献は大きい。命をかけてわたくしを守ってくれた。魔法が使えず絶望的な差があったのも関わらず、機転を利かせ魔法を捨て立ち向かった」
ふっと、綺麗な笑いを見せて言葉を続ける。
「早々に退場したのは残念ではあったが、そなたの姿は勇者と言える姿であった」
勇者と聞いてトルステン様の顔は一瞬で赤くなった。
「お前のことは見直しました。年下には興味が無かったのですが」
ルビースカリナ様はそこで言葉を止める。
そして、下を向いていたトルステンが顔を上げた。
「そなたは公爵家嫡男でもあるので、合格としましょう」
そう言って、彼女は今までにないほどの笑顔をみせた。普段は少し冷たい印象だったが、今の笑顔は素晴らしかった。そのギャップから神々しいほどの輝きを放ったように感じられた。
その結果、トルステン様は雷が落ちたかのような驚きの顔をする。そして言葉になったのはたった一言。
「え」
彼は、良くわからない状況に陥り思考が止まったようだ。