1.12.5 両金眼の子
応接室に移動し少し話をした。
侍女がお茶を持ってくる。
カルスディーナ公爵の部下が先に毒見をして、その後で公爵がお茶を飲む。
彼は、一口飲んでから落ちついた声で話してきた。
「あなたは、確か元文官でメリルディーナ公の系統だったかな?」
「はい」
普通の女性のような長ったらしい返事は仕事上で嫌われるため、私の対応はいつも短く端的なものになってしまう。
「そうか普通は領主が亡くなり後継となる子が成人していない場合、生存側の系統が後見になるのが習わしだ。だが、この子は右目が金眼。我が一族の系統になる。そしてこの領地も私の管理領域だ。後見には私が立つと申請しよう。心配することはない、悪いようにはしない。成人するまでもこの領地が取り上げられることがないように手配しよう。そなたも領地経営もすばらしいと聞いている。領主代行の権利もこのまま継続させる。ジルベールが成人後は中侯爵ではなく大侯爵の身分を与えられるように準備するつもりだ。安心して任せてくれたまえ。では丈夫に育ててくれ」
「よろしくお願いします」
決まり文句以外は言えない。
上位の貴族に対して文句を言える道理は無いのだ。
「確かアナベルが亡くなった時の戦いで兵の補充ができていないだろう」
「はい、アナベル様を含め5名が亡くなり10名が負傷しました。今の部隊でも小さな魔物へは対処ができますが、年に1回は出るだろう大型魔獣の討伐はかなり厳しい状況です」
「うむ、わかった。せっかくの金眼の子だ。何かあっては困るからな。私の部下を少しこちらに移そう。15名は無理だが10名ほど探しておこう。他にあるかな」
「武器が不足しています。剣と防具を修理して使っていますが限界が近いそうです。新調するには予算が不足しています」
「ふむ、全て新品では出せないが、軍の中古品も入れて数をそろえよう」
「ありがとうございます」
「うむ、金眼の子を無事に育てることが重要だからな。では頼むぞ」
そう言った後、カルスディーナ公爵は満足したのかあっという間に王都へ帰還した。
リリアーナは領地のこともあり、もともとカルスディーナ公爵家に後見人を頼むつもりだった。
ここまでは予定通りに事が進み、さらに兵士の増員。
武器も確保も出来て安心した。
そして、計画通りに進みすぎたことで安心しきっていた。
カルスディーナ公爵の訪問から数日後に予定外の事が起きた。
おばあさまの系統である、オルトディーナ公爵が訪問してきた。
オルトディーナ公爵が治める領地の範囲からも外れているのに直接乗り込んでくるとは予想していなかった。