5.8.6 エミリアの母と
エリンの事は、なぜか当事者である僕を蚊帳の外に放り出し、勝手に決まって行った。
エリンは卒業後は半年間シドニアの王宮で勤める。その間は、ロマーニャ様付きの侍女になるらしい。その後は、ラルクバッハでも半年間務める。その1年間が教育期間になるらしい。それが終わると、僕に仕えるそうだ。
勝手に決まったのが釈然とはしないが、文句は無い。
その後は、グランフェスタ様の見合いに関する話になるそうだ。ちょうどロマーニャ様との面会時間も終わったので、僕らは退席した。
僕は、久しぶりのスザンヌとマリアテレーズとのデートだ。エリンとの話もあったのでご機嫌伺は必須だ。
と、言うわけで、二人を連れてシドニア王都の街を回っていた。もちろん、護衛も一緒だ。
いかにも貴族という風体で街を回っているので行ける場所はそれなりのところだけだ。
そして、王都にある有名な宝石店に入店する。
店に来訪は伝えてあるが、身分はあかしていない。子供3人の来店だがとても上品なもてなしを受けた。
上客が来たと解ったのか、あるいはすべての客にそうなのかはわからない。
そこで、スザンヌとマリアテレーズに似合う物を購入した。
やはり想定外なのか、高い物が売れて店員のテンションが上がる。
「お客様、普段は見せないのですが、質の良い原石がございます。いかがでしょうか」
僕らが買ったのはすでに加工されて既製品だ。
この言葉は最初からデザインしたオーダー品を作らないかと言うお誘いなのだろう。
「僕らは旅の途中なんだ。加工を頼むほどの時間は無いんだ」
「そ、そうですか」
「もし、原石のままで売って貰えるなら見させて貰いたいが」
「わが店で加工までお任せ頂けないのは残念ですが、石との出会いは運命でもあります。気に入った一品がありましたら、ぜひお買い求めください」
商売上手なのか、本心なのか解らないがなかなかに良い言葉だ。
「では、見せて貰おう」
そう言うと店の奥から綺麗な宝石箱を持って来てテーブルの上に丁寧に並べた。
そこには色とりどりの宝石が並べられる。
かなりの高級な石だ。今、店に並べられていた既製品には使われていない大き目の石がごろごろと並べられた。いったいいくら分あるんだ。想像もできない。
「ジルさま、こちらも購入しましょう」
一つの石をスザンヌが指さす。
それは、緑色の石だった。
「それは、スーに似合わない色合いじゃないかな」
「エリンにですよ。ジル様」
答えたのはマリアテレーゼだった。どうして? と言う顔で指摘された。
つまり、なぜエリンに? と聞いたら怒られるんだろう。
これは、買うしかないか。
ふと、その原石の近くにある赤い石に目が行く。
「これは?」
「」
「ルビーですが、これだけの赤の濃さは珍しいでしょ。お客様はお目が高い、これは非常にレアな品です」
「そうなんだ」
「とても良い品ではあるのですが、これほどの一品になると、付けられる人を選んでしまいます。残念ですがこのままでは半分に砕かなければ売れないのですよ」
「砕くの?」
「ええ、とても勿体無いのですが。そもそもこのサイズをカットできる技師も国内にはいませんから。せっかくシドニアで出土した品なのですが」
僕なら、魔法で加工できる。だけど、確かに指摘された通りこの色の石が似合うのはだれだろう。
僕の知っている中で一番の美人はラルクバッハの王妃達。だが3人ともこの色の宝石を使っていない。
他に、この石が似合いそうな人は思い浮かぶが、石に顔負けする。
ふとルビースカリナ様の顔が思い浮かぶ。
この赤は、あの目の色と同じだ。
だけどあの人の為に僕が買うのはおかしいよな。僕との接点は無い。
だが、買った方良いと言う予感がする。なぜだろう。
まあ、よくわからないが、もしもの為に買っておくか。
結局、その店でエリン用の原石と一緒に購入する。
そして、平和に、二人とのデートを終えることができた。二人の機嫌も良い。ミッションコンプリートである。