5.8.2 エミリアの母と
「ええ、大丈夫よ。問題ないわ。今日は天気も良いし体調も良いのよ」
どこか悪いのだろうか。
エミリア様から何も聞いていないので良くわからない。見た感じでは確かに病気には見えない。年相応に見えるのだが。
「あの、おばあさま。わたくし診断ができます。治療はまだあまり上手ではありませんが見せて頂いてもよろしいですか」
「あら。小さい聖女様。無理しなくても良いのよ。体が未成熟な時に治療魔法を使うと良く無いと聞くわ」
「ですから、診断だけでもよろしでしょうか。必要ならジルベール様が協力してくださいます」
「あら。両金眼のあなたは戦闘だけじゃなく治療もできるの?」
「ええ。レベルだけは高いので骨折などの見た目で解りやすいものなら割と簡単に治療できますが、内臓系の疾患は時間をかけた治療になってしまいます。聖女とは違いますから」
「わたしは年によるものだから調べても無駄だとは思うけど、小さい聖女様の練習だと言うのならやってみると良いわ」
「じゃあ、がんばります」
「コハク、サポートを」
僕が後ろにいたコハクに頼むと、二人で手をかざして診断の魔法を使った。
「内臓が弱っているようです。単純に内臓が悪くなっているだけなら普通の回復魔法で十分なはずですが、それで治っていないのですから原因があるはずなのですが、ごめんなさいおばあさま、それ以上は解りません」
「昔、毒を盛られた事がおありですか?」
コハクがそう質問をした。
「ええ、ずいぶんと昔にね。エミリアを産んだ後よ。おかげで母乳を与えられなかったの。聖女様に付いているだけあって、侍女さんでもすごいのね」
「コハク、毒の影響が残っているのか」
「はい、ジルベール様。普通の回復魔法では治せないと思います。内臓系を含めてかなりダメージが蓄積しています。回復魔法は自身に回復する力があってこそです。ロマーニャ様は内臓全体へのダメージで回復する力が弱っているのです。だから回復魔法では治せないのでしょう。この場合、精霊魔法が使えれば治せると思いますが、この地の精霊では足りません」
「まあ、精霊魔法が使えるの。まるで聖女様ね」
「おかあさま、侍女の格好をしていますがこの子も聖女なのです。秘密ですよ」
「まあ、ラルクバッハには小さい聖女様だけじゃなく、本物の聖女様までいたの」
「わたくしが聖女として活躍したのは500年前です。当時の王族に捕まり去年まで封印されていました。ジルベール様に封印を解いて頂きました」
「500年前と言うと、前王朝の。だから秘密にしているのね。500年も、さぞつらかったでしょう」
「いえ、私にとっては一瞬のことです。愛しい人と一緒に眠り、目が覚めて外に出たら時が過ぎていただけです。500年経ったと言う実感はありません。マリアテレーズ様と歴史の勉強をして時の流れを感じてはいますが。今は、愛しいあの人が早く戻ってくる日を楽しみに平穏に過ごしております」
「まあ、愛しい人と。その方は目が覚めていないの?」
「コハクは幻獣です。その相手は聖獣。封印を解いたときに力が減っていたので今は別の世界で力を貯めているのです。あと半年もすればこちらの世界に呼べると思いますが」
「幻獣様に聖獣様。では、あなたは3体の聖獣を従えているの。イシス様にガルダ様。そしてこの場に居ないもう1体」
「そうですね」
「ジルベール様は、他にも剣王のエイミー様を部下に持ち、黒狼も従えているのよ。あと屋敷に行くとピンク色の大きなスライムも居るわ」
「まあ、すごいのね。ラルクバッハの王女を二人も嫁がせるだけあるのね。話を聞いた時には囲い込むにもやりすぎじゃないのとは思ったけど。それほどなわけね。シドニアともぜひとも友好関係を結んでおきたいけれど、それはあの子達が考える事ね。さあ花を見ながらお茶を楽しみましょう」
到着から始まりまでに時間がかかってしまったが、ロマーニャ様の一言でお茶が運ばれ、ようやくお茶会が始まった。




