1.12.4 両金眼の子
生まれてから2ヶ月が 過ぎた頃に、この領地全体を束ねるカルスディーナ公爵本人と部下がやってきた。前日、急に訪れの知らせがあり驚いた。
カルスディーナ公爵は、近くの教会に設置されている古の転移門を使い、そこからは用意された馬車での訪問だ。
この地は、王都から馬車での移動でおよそ3週間から一月も時間がかかる。
転移門は王宮魔道士クラス5人が魔力をためてようやく使えるものだ。
領内にそのクラスの魔道士を5人雇っている領主ならば、使用料だけで使えるが王宮魔道士の手配はなかなかハードルが高く、日時を合わせてこちらからの移動するのは難しい。
転移門は、数年に一度、社交のために王都へ行かなければならない場合だけ、それも帰りにしか使わない。
頻繁に使えるのは王家や公爵家だけだ。
カルスディーナ公爵がやってきた時、ちょうどジルベールは寝ていた。
と言うよりも時間を合わせて眠らせたのだ。
「リリアーナ、5年ほど前の夜会で会ったのが最後かな。聡明な女性だという印象があったから覚えてるよ」
「ありがとうございます」
無難に答えておく。
それよりもこの後どう動くのかが気になったがその動揺を見せないように気持ちを落ち着けた。
「今日は、赤子を見に来た。さっそくだが見せてくるかな」
カルスディーナ公爵はそう言うなり、ずけずけと家に入り込んでいった。
「ジルベールは寝ています。私の寝室にいます」
「ああ、女性の寝室か、せっかく寝ているのだ、起こして連れてきてもらうのは赤子に申し訳ない。顔だけ見て帰るので、女性の寝室に入るのは悪いとは思うが失礼を承知で中に入らせてもらおう」
全く引く気配はなく、寝室に案内させられた。
カルスディーナ公爵は寝ているジルベールの右目を強制的に開いて眼の色を確認した。
そして眼を閉じた後でジルベールの顔を見てにっこりとほほ笑んだ。
武家の系統であるカルスディーナ公爵は、平気で人を殺せそうな殺気を放てるほどの武人で、子供相手に笑うように思えなかった。
だが、そんなことは無かったようで少し驚いた。
その後、すぐに部屋を出るカルスディーナ公爵。
どうやら、本当にこのためだけに来たようだ。用事は済んだとばかりにそそくさと行動する。
ジルベールは、その後も寝続けていた。
この子は一度寝るとなかなか起きない。
それが良かった。
起きていたら両目を見られて終わっていた。
ホッと安心した。