4.16.10 フィンレワードにて
席を外していたフィンレワード侯爵が部屋に戻って来た。
「フィンレワード侯爵と夫人。この子、アーレントールについて説明します。
僕らの診立てではある材料がこの子の体質に合わないから起きた症状だと考えています。
今日の離乳食は、ヤギのミルクに卵を溶かし、パンを柔らかくした物です。
ですが、まずは卵。次にパンが良くないようです。でも腐っていたわけではありませんよ」
「腐っていたわけでないと言うことは調理が悪いのか」
「いえ、違います。アーレントールの体は卵と小麦を栄養ではなく毒物と勘違いしてしまうのです。実際には毒ではないのに過剰に反応してしまうので逆に体を悪くする。
これは、大きくなると治る事もあるし、ひどくなることもあります。
毒耐性スキルを身に付ければ症状が緩和するかもしれません。かつては毒耐性スキルを得る為に毒を飲む訓練があったそうですが、技術は失われています。実践すればスキルを得る前に死ぬ可能性の方が高い。
僕らが知っている方法は、女神メリーナ様からの加護を得る事です。そうすれば毒耐性のスキルが貰える。まあ、それは現実的ではありませんが大きくなれば希望はあると言うことです。ですので、しばらくは症状の出る食材を食べさせないようにしてください。
卵と小麦です。いや大麦もダメかもしれない。
症状が落ち着いたら、新しい食材は少しだけ与えて様子を見るように」
「このパンに毒が含まれていたわけではないのだな」
「毒ではありません。普通の人には大丈夫なただの小麦が、この子にとってだけ毒になりえるのです」
「そんなバカな。ただの普通の小麦が。小麦を食べて死ぬなど聞いたこともない」
「コハクも知らないと言っていたし、あまり知られていない病気なのでしょう。
とにかく、卵と小麦を食べさせずに様子を見てください。
小麦がダメだと、食べる物が少ないでしょう。こちらの材料を試してください。クロスロードで作っている米です。
食事を作る場合、この子専用の厨房で調理をしてください。小麦粉は宙を舞って飛ぶので、同じ厨房で食事の用意すると混入する恐れがあります。
夫人の部屋の近くにはお茶を入れる厨房があるでしょ」
「ええ、あります」
「ではしばらくの間は、この米を柔らかく煮込んで食べさせて下さい。最初は少し食べさせてあざが出ないか確認を。
肉や魚、果物は大丈夫なはずですが、初めて与える食べ物は少量で1品ずつ与え、ダメな食べ物でないか確認してから与えるようにしてください」
「ええ、解りました」
「米の調理方法が知りたければ、クロスロードの領主館で料理人を受け入れる事も出来るでしょう。レイブリング父様、良いですか」
「ああ、それは大丈夫だろう」
「では、申し訳ないがお願いしたい。料理人を選んで送らせてもらう」
「この子の為にありがとうございます」
「僕もカルスディーナ公爵達からの支援を受けて成長しました。
公爵達ほどの事はできませんが、僕ができる範囲で協力するだけです。
受けた恩は、僕が周りを助ける事によって返さないといけませんからね」
「ありがとうございます。この子もジルベール様のような子供に育てたいと思います」