1.9.4 リリアーナ・フィロ・クロスロード
私はすぐに応接室へと戻った。
そして部屋に入るなり兄にアメリを引き取ると宣言した。
アナベルは何が起きたのか全くわからずあっけに取られていたが、私の覚悟を決めた表情を見て特に文句を言うことは無かった。
兄とその妻も文句を言ってくることも無かった。
実家を出るとき、兄に侍女のコリンナも連れていくことを伝え、二度と帰ることのない家を後にした。
馬車の中でアメリを引き取ったことをどう思うかアナベルに確認した。
夫になったばかりのアナベルに何の相談もせず勝手に決めたのだから、一言ぐらいは文句があるかも知れない。
だが夫は反対しないだろうと信じてくれたことが嬉しいと言ってくれた。
私は、良き旦那にめぐり合えたことを感謝した。
そして、実はアナベルは子供好きらしく、突然だったが子供ができたことへの戸惑いよりもうれしさのほうが大きいらしい。
私たちは、予定していた宿屋に着くなり医者を呼んでもらった。
高額ではあったが体の怪我は治療薬で治った。
だが夫がアメリに近づくと震えて動けなくなっていた。
心の傷は治療薬では治せない。心は時間をかけて治すしかない。
アメリは極度の男性恐怖症になっていた。
診察結果によると若い男性に対して特に恐怖を感じるようだ。
だが先生のような年配の男性や女性は大丈夫らしい。
とりあえず、生活するための子供服などを買い込み貴族らしいきれいな格好にした。
小奇麗にすると、アメリは私によく似た子だとわかった。
アナベルも私の子供と言われれば信じると言うほどに私によく似た子だった。
そして王都を出る準備が完了し、皆で領地へと出発した。
新婚旅行も兼ねた移動だったので、ゆっくりとおよそ1ヶ月かけて馬車で領地へ移動した。
途中で観光地を幾つか回る。
きれいな花畑を見たりしながらの移動だったので、アメリの心の治療にも良かった。
アメリは、この旅行で徐々に私たちに慣れてくれた。
到着すると先に帰っていたアナベルの父と母が歓迎してくれた。
手紙で簡単な説明だけは知らせていたので、アメリもあっさりと家の中に入ることができた。
夜になり、2人に実家のことを正直に説明しアメリを引き取ることを説明した。
父カインと母レオノーラは叱ることもなくアメリのことを喜んで迎え入れてくれた。
そして連れてきた侍女のコリンナと母レオノーラがアメリをとても可愛がってくれた。
侍女のコリンナにとっては亡き従妹の忘れ形見として自分の子の様に愛情をかけていた。
もちろん、私も我が子のようにかわいがった。
夜も同じベッドで眠ることもあるほどで、アナベルがやきもちを焼くほどだ。
そのかいあってかアメリの様子は少しずつだが笑顔の時間が増えてきた。