1.9.3 リリアーナ・フィロ・クロスロード
だが侍女が連れてきた場所は倉庫ではなかった。
倉庫ではない、小さい小屋だ。
こんなところに小屋を作り倉庫として使っているのかと不思議に思いながら扉を開ける、そこにいたのは5,6歳ぐらいのやせ細った女の子だった。
兄の子は先ほどの応接室に全員集まっていたはずだ。
連れてきた侍女に事情を聞くと、その子は前代の侍女長と兄の子だとわかった。
兄が彼女に手を出して生んだ子だ。
兄は不貞を責められ妻の尻にしかれ、家の中では立場がなくなっていた。
それでも侍女長が生きていた頃はきちんと世話をされていたらしい。
しかしこの半年はかなり酷い扱いをされているらしい。
妻が兄を責め、それが子に向かう。兄は自分の子に暴力を振っていた。
さらに着る物も食べ物もろくに与えず閉じ込めていたのだ。
侍女は泣きながら助けを求めてきた。
女の子はアメリ・アインスロット。
侍女の名はコリンナ・ヴァーノンと言う。
前侍女長の従妹だ。
他人にすがらなければならないほどの状況。
コリンナも虐待を受け行動に制限があったのかも知れない。
貴族の妻であれば子を作った妾を褒めこそすれ責めるなどありえない。
子はその後の縁の拡大にもつながる。
多いほうが良いのだ。
しかも貴族と貴族の間に生まれた子供だ。
平民との間に生まれた子供より資質が高いに決まっている。
大きくなれば嫁としての価値も高いのだから。
顔だけで相手を選ぶからこういうことになるのだ。
少なくとも結婚後にきちんと貴族教育を行う場に通わせるべきだったのだ。
それを怠るからこういうことになる。
どうにも怒りが収まらない。
子供の体を調べると、無数のアザがあり怖がって震えていた。
抱きしめると声をださず、すすり泣きした。
侍女に声をかける。
「この子を連れていきます。この子の面倒を見る世話係が必要です。あなたも一緒に来なさい」
アナベルに相談するまでもない。アナベルなら反対しないと信じられた。
私の置いていった私物もその小屋にあった。
そこには私がおばあさまから譲り受けた大切な絵画があった。
案の定もらった宝石は無くなっていた。
宝石は価値の無い物しかなかったので諦め、大事な思い出の絵があったのでホッとした。
すでに出立の準備もできていた侍女とアメリを連れて馬車に乗せた。
後で聞いたが、私が結婚することを知りここに来ることを期待して待っていたようだ。
子供への虐待が酷くなったのは、この最近のことらしい。
連絡のため手紙を出すこともできず、実家に戻るとその間にアメリが殺されるかも知れないと思い、この場を動けなかったそうだ。
コリンナが家をでる決意をした頃、私の結婚を聞き挨拶に来る日が近いと期待して待っていたようだ。
最近は自分の予想よりも挨拶が遅くなったことで救えないかもと焦っていたそうだ。