1.9.2 リリアーナ・フィロ・クロスロード
だが残念なことに兄の妻は貴族制度を正しく理解していなかった。
平民が通う学園と、貴族が通う学園は座学のレベルが一緒でも貴族の中で貴族としての姿勢を学ぶのだ。
生活の基盤となる物が根本的に異なるのだ。
商人は利益を得ることを最優先として習う。
貴族は貴族としての義務や責務を習う。
そのためか、嫁に来たばかりの姉は貴族の権利ばかりを主張し貴族の義務がおざなりだった。
そういったことはよくあることなので、平民を娶った場合は、貴族教育をするために教師をつけ貴族の決まりごとを教えるのだ。
しかしこの妻は自分も商人の家でもしっかりとした教育を受け礼儀作法も習っていると教育を拒否した。
兄も強くは出れず、教育を無理強いすることができずに周りが諦めた。
商人から見た貴族の悪い所ばかりを真似ているのか、もともとの気質なのか、彼女は使用人に対しても横柄な態度を取っていた。
平民から見た我儘な貴族像そのままを体現していた。
例えば実家の執事や侍女長は男爵位を持つ貴族の家出身の者だ。
特に両親が頼みこんで来てもらった侍女長は、王宮や公爵家専門に侍女長や執事長を歴任してきた由緒正しき家の子だったのだが、去年亡くなったと聞いた。
それについて悪いうわさが立っていた。
正妻が苛めて殺したのはないかという噂だった。
侍女は貴族の出自。まさか正妻とはいえ、平民出の者がそれは無いだろうと思うが不安に感じた。
ただ、なるべく近寄らず、近づかず。
私は腫物に触るような態度でいたのだ。
実家には兄と妻と2人の子供がいる。
両親は既に田舎に家を借りて住んでいるらしくここにはいない。
当日は事前に連絡も入れてあったので出迎えも順調だった。
兄の妻は地位の高い人が大好きなのでアナベルが侯爵家嫡男ということもあり当然だが必要以上に歓迎された。
案内された応接室を見回すと、自分が子供の時よりも豪華になっていた。
妻の実家からの支援もありお金には困っていないのだろうが、だが一見して成金的な下品な感じがした。
兄の妻はしきりにアナベルに話しかける。
私は丁度良いとアナベルに彼女の相手を任せ、予定通り家に残していた自分の私物を回収することにした。
荷物は倉庫にしまってあるらしいので、私は侍女に案内され屋敷内を移動した。




